第244話 ドラゴンのステーキが楽しみです
「あれ。ところでお父さんは?」
「お父さんはドラゴン退治よ」
「ドラゴン!?」
ドラゴンは全てのモンスターの中でも最強と呼ばれる種族だ。
冒険者でなくても、ドラゴンが強いということを知っている。
『強い』『大きい』ことの代名詞に使われるくらい有名だ。
しかしローラはまだドラゴンを見たことがない。
「そう。隣町の近くの森にドラゴンが住み着いたらしくて。倒してくれって頼まれたから、お父さんは出張中よ」
「隣町……急いで行ったらドラゴンに会えるかな!?」
ローラはつい、そわそわしてしまう。
ギルドレア冒険者学園には『在学中、Cランク指定以上のモンスターと戦ってはならない』という校則がある。
ドラゴンは最上位のAランクだ。
よって戦うことはできないのだが、それでも一目見てみたい。
シャーロットとアンナも同じ気持ちのようで、一緒にそわそわし始めた。
しかし。
「お父さんが出発したの昨日だから、もう倒して帰ってくる頃だと思うわよ」
「なぁんだ」
母親の回答に、ローラはがっくり肩を落とす。
「うふふ。ドラゴンならローラの頭の上に座ってるじゃない。それを家よりも大きくした感じよ」
「そりゃ似てるんだろうけど……」
ローラは頭上からハクを降ろし、両手で抱きかかえてみた。
「ぴー?」
ハクはジタバタと手足を動かす。
可愛い。
「うーん……迫力がない……」
「本物のドラゴンもこんなにお可愛らしい顔立ちですの?」
「このハクは迫力ないけど、親ハクはドラゴンって感じだったよ」
「ああ、言われてみれば! じゃあハクも大人になったら迫力が出てくるんですね」
「ぴ!」
ハクは翼をバサッと広げた。迫力を出しているつもりなのかもしれない。
「おーい、帰ったぞー」
と、そこにローラの父ブルーノの声が聞こえてきた。
「お父さん、おかえりなさい」
「お邪魔していますわぁ」
「師匠、おかえり。またお世話になります」
「おう、お前たち、来てたのか。丁度いい。ドラゴンの尻尾の肉を持ってきたぞ」
「「「ドラゴンの尻尾の肉!?」」」
珍しい単語を聞き、ローラたち三人はつい大声を上げてしまう。
そんなローラたちの反応が面白かったのか、ブルーノはニタリと笑って、鞄から紙の包みを取り出しテーブルに乗せた。
人の頭よりも大きい。
その包みを開くと、そこには肉の塊があった。
周りにウロコがついていて、断面の真ん中に骨が残っている。
まさにドラゴンの尻尾を輪切りにして持ってきたという感じだ。
「凄い! これだけでハクよりも大きい!」
「ぴー」
「あらぁ。ドラゴンの肉なんて久しぶりね。ローラが生まれてからは初めてだったかしら?」
オムレツを作り終えたドーラが、珍しそうに見つめてきた。
「私、ドラゴンの肉なんて食べたことないから、きっと初めてだと思うよ」
「わたくしもドラゴンは食べたことありませんわ。そもそも売っているところを見たことありませんわ」
「私も食べたことない。というか、ドラゴンの肉って食べられるの?」
ローラだけでなく、シャーロットとアンナも食べたことがないらしい。
お金持ちのシャーロットですら未体験ということは、非情に貴重な食材なのだろう。
「ドラゴンの個体数は少ないからな。誰かが仕留めたとしても、巨大すぎて運べないから、市場に出回ることは滅多にない。俺も尻尾の一部をもらってきただけだ。残りは隣町で消費するつもりらしい」
「えー、ドラゴン丸ごと? 欲張りじゃないの?」
ローラは素朴な疑問を口にする。
ブルーノが倒したドラゴンがどのくらいの大きさか分からないが、仮にハクの親と同じくらいだとしたら、食べても食べても食べきれないはずだ。
「おいおい。一人や二人で食べるんじゃないんだぞ。町全体で食べるんだ。それに今は冬だから腐らないし。春になる前になくなるだろうな」
「そっか。そう言われると、そうかも」
どんなに大きなドラゴンでも、千人とかで毎日食べたら、あっという間になくなる気がしてきた。
「お昼はもうオムレツを作っちゃったけど、夜はドラゴンのステーキね。一回じゃ食べきれないから、明日も食べられるわ」
ドラゴンのステーキ。
もの凄い言葉だ。
世界最強のステーキだ。
隣町の人たちはそんなものを毎日食べられるのかと思うと、心底うらやましい。
「ローラ。ヨダレがたれてるわよ」
「わっ」
ドーラに指摘され、ローラは慌ててハンカチで拭く。
「そんなにドラゴンの肉がいいの? お母さんのオムレツより?」
お母さんのオムレツ!
その言葉の前には、ドラゴンのステーキすら霞んでしまう。
ドラゴンの肉がどんなに珍しくても、やはりローラにとっては、母親が作ったオムレツが世界最強なのだ。
「お母さんのオムレツよりも美味しいものなんてないよ!」
「うふふ。ローラはいつも嬉しいこと言ってくれるわね。さ、お父さんの分のお皿も出して。お昼にするわよ」
特大オムレツを五人と一匹で取り分け、皆で食べた。
何度食べても、いつ食べても、最高に美味しい。
ほっぺたが落っこちそう。
が、それはそれとして、ドラゴンのステーキも楽しみなローラであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます