第21話 それは想像上の私です!

 雑貨屋は女の子にとって夢の世界だった。

 文房具。カレンダー。ハンカチ。小瓶。コップや皿。アクセサリー。鞄。その他エトセトラ。

 どれもこれもが可愛くて、ローラとシャーロットはきゃーきゃー黄色い声を上げながら、店の中をうろついた。


「そしてこれが着ぐるみパジャマですね!」


「お可愛らしいですわぁ……!」


 一時間近くかけ、ようやくお目当ての品の前まで辿り着く。

 そこには色とりどりの、様々な動物をモチーフにした着ぐるみパジャマが並んでいた。


「アンナさんが猫だったから、私たちは違う動物にしましょう」


「ローラは子犬っぽいから犬がいいと思う」


「そうですか? じゃあそうしましょう。わんわん!」


 自分で選ぶのもいいが、友達に決めてもらうというのも素敵だなぁと思うローラだった。


「わたくしはどれにしましょう」


「シャーロットはウサギっぽい」


「あ、分かります。シャーロットさんは絶対ウサギさんです!」


「わたくし、そんなにウサギっぽいですの?」


 シャーロットは自覚がないらしく、不思議そうな顔をした。


「はい! 寂しがり屋さんなところとか!」


「一人ぼっちにしたら自殺しそう」


「するわけないでしょう!」


 むきーと目を吊り上げるシャーロット。

 やはり表情が分かりやすくて可愛い。

 しかしローラは、自分がこのシャーロットと同じくらい感情が顔に出やすいということを思いだし、複雑な気分になった。


「じゃあ例えば。ローラに『だいっきらい』と言われるのを想像してみて」


「え、ローラさんに……?」


 シャーロットはローラの顔をジッと見つめる。

 そして不意に大粒の涙をこぼした。


「わ、わたくしもう生きていけませんわぁぁっ!」


「ええ!? 落ち着いてくださいシャーロットさん。その私は想像上の私です! 現実の私はシャーロットさんを嫌いになったりしませんから泣かないで! ほら、よしよし」


「うっうっ……ローラさん、ローラさぁぁん!」


 涙と鼻水を流しながらローラに抱きつくシャーロット。

 他のお客さんが何事かと見に来る。

 とても恥ずかしい。

 ローラはアンナに助けをもとめようとしたが、何と彼女は他人の振りをして明後日の方向を見ている。


「あのシャーロットさん、皆見てますから……恥ずかしいからやめてください!」


「そんな……やはりローラさんはわたくしが嫌いなのですね!」


「違いますって! もう、どうしてこんなことになっちゃったんですかね!?」


 ローラは泣き止まないシャーロットを引きずってレジまで行く。


「ほらほら。自分の分は自分で払ってください」


 シャーロットはしくしく泣きながら財布からお金を出した。

 が、店員から紙袋を受け取ると、着ぐるみパジャマを手に入れた喜びが悲しみを上回ったようで、しだいに笑顔になっていく。


「ふふふ、今夜はパジャマパーティーですわ」


「単純な人」


「アンナさん。何か言いましたか?」


「別に」


「嘘おっしゃい!」


 シャーロットはアンナの頬をムニムニと引っ張った。


「二人ともケンカしないでくださいよ。そんなことより、まだまだ時間がありますから、もっと色んなところで遊びましょう!」


「そうですわね。ローラさんはどこか行きたい場所とかありますか? 案内しますわよ」


「うーん……そもそも王都に何があるのか分からないので……」


 思えば入学してからずっと、学園の敷地の中だけで生活していた。

 なにせ、食堂に行けばタダでご飯を食べられるし、売店に行けば日用品が手に入る。

 今日だって着ぐるみパジャマを買うという用事がなければ、寮に引きこもり座学の予習復習をするか、庭で剣の素振りをするかのどちらかだっただろう。


「それなら私にお勧めのスポットがある。とても活気があるし、私たちなら楽しみながらお金を稼ぐこともできる」


「え、そんな凄い場所があるんですか!? 私、さっきの着ぐるみパジャマで今月のお小遣いを使っちゃったので、お金を稼げるならありがたいです!」


「アンナさん。私はずっと王都暮らしですけど、そんな場所は知りませんわよ?」


「そんなはずはない。知ってるけどピンときてないだけ」


 シャーロットは顎に手を当てて考え込む。

 しかし、どうしてもピンとこなかったようだ。


「降参ですわ……」


 ローラも色々と考えてみたのだが、まったく想像できない。

 楽しみながらお金を稼ぐ。

 もし実在するなら、最高の場所だろう。


「二人とも情けない。ギルドレア冒険者学園の生徒として失格」


 そしてアンナは答えを教えてくれた。

 聞いてみれば、なるほど。

 なぜ分からなかったのかと頭を抱えたくなるものだった。


「答えは簡単。冒険者ギルド」

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