第380話.潜入水のダンジョンへ
「マンセの出番って、何するつもだ」
ムーアの不敵な笑みが怖い。
『そんなの、決まってるでしょ。私たちの姿を見えなくするのよ』
「ちょっと待て!冒険者ギルドで登録すれば大丈夫だろ。ギルドカードは、あっても損しないものだろ」
『ギルドカードって何よ?』
「普通は冒険者のランクを示すカードがあるだろ。達成したクエストを記憶したり、どこの国に行っても身分証明にもなる···そんなものがあるんじゃないか?」
しかしムーアの訝しむ顔に、だんだんと自身が無くなってくる。幾ら元の世界の常識的なものは通用するといっても、俺が言っいるのはラノベの世界観で、空想上の話がアシスの常識ではない。ホーソンに同意を求めてみるが、俺が顔を向け終わる前に、まず首を横に振って否定してくる。
「カショウ殿、ギルドカードはあります。他の国ではどうか分かりませんが、トーヤの街のギルドカードはそこまでの物ではありません。冒険者といっても、簡単に他の国には行けませんし、ここのギルドカードが使えるのは、このダンジョンだけです」
「じゃあ他のダンジョンには、どうやって入るんだ?」
「それぞれのダンジョンで、ギルドカードを作る必要があります。トーヤは8つの部族が、それぞれダンジョンを治めています。ダンジョンの奥まで潜ろうと思えば、さらにそれぞれの族長の許可が必要でしょう」
それは冒険者の実力だけでは、どうにもならない世界。ダンジョンから得られる恩恵は大きいだけに、冒険者の好き勝手は出来ない。一方的に部外者がやってきて利益を貪り、オニ族がダンジョンを統括する職務だけを与えられているのは、普通に考えてもありえない。
「チェンがフタガの領主でも、ダンジョンの奥に行くことは出来ないいのか?」
「残念ながら、それは無理です。ダンジョンに関しては、それぞれの種族に絶対の権限がありますので」
『さあっ、話が終わったわね。時間は有限、さっさと侵入するわよ』
さらっと正攻法じゃないやり方が推し進められ、マンセが俺達から色を奪い始める。命令して止めることは出来るが、代替案はなければ何も言えない。無言は了承したことになり、俺達の姿は完全に見えなくなってしまう。
そしてムーアに手を引かれながら、ダンジョンの入口を目指す。
「なんで、ムーアまで姿が消えてるんだ?影の中に潜ってれば関係ないだろ」
『だって、こっちの方がスリルがあるじゃない♪潜入なんて、やったことがないのよ。こんな機会を見逃すと一後悔するわ!』
「これが、やりたかっただけだろ?」
『もうお喋りはお仕舞いよ。入口は近いわ!』
そこに現れたのは大きく口を開けたダンジョンの入口。すでにここがダンジョンの中ではあるが、全く別の世界を感じさせる異質な雰囲気がある。開口部の幅は、巨大で百m以上はある。
それとは不似合いな冒険者の行列は、テーマパークを見ているかのようで、真っ直ぐに並ぶのではなく幾重にも折れ曲がり、ダンジョン前の空間を隙間無く埋め尽くしている。
百m以上はある開口部には、幾つものゲートが設けられている。半分は入口で、もう半分は出口となっている。一応は冒険者のランク毎に入口が分けられ、高ランクの冒険者用は優先してダンジョンに潜れ、低ランクの冒険者は行列に並ぶしかない。
そして俺達が向かうのは、出口用のゲート。入口には事務員っぽいオニ族が、行列に辟易し不機嫌そうな顔で立っているが、出口には誰も居ない。
今は姿だけでなく、ベルが音、イッショが気配を消している。そうなれば入口にしかいない、スキルに恵まれないオニ族では、俺達に気付くことは不可能。全く気付かれる素振りもなく、出口のゲートから奥に入る。
「嫌な場所だな。始まりのダンジョンと似ている」
『似ているだけで、全くの別物でしょ。ほら、角を見てみなさいよ』
ムーアが指摘するのは、石畳や石壁。始まりのダンジョンでは、綺麗に敷き詰められ傷や汚れさえなかったのに対して、水のダンジョンではひび割れたり、隙間が出来ている箇所もある。
そして、ひび割れた壁の一部にオニの小太刀の切っ先を突き刺すと、抉るように力を込める。
パキッという音がして、壁の一部が欠け小さな破片が落ちる。
『ほら、破壊出来たわよ。マジックソードで突いてみれば、貴方にも分かるわ』
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