第342話.転移の先
「チェン、誰も居なかったよな?」
「あっし達の前には、誰もいやせんでしたぜっ」
『何いってるの?同じ場所に連続して転移しないんでしょ』
俺達よりも先にダンジョンに入っていった者も居ないし、続けて同じ場所に連続して転移することがないならば、基本的には転移先には誰も居ないはず。それなのに、転移したダンジョンの先では争うような音が聞こえてくる。
「アクヤクレージョーって聞こえたよな」
『ええ、そう聞こえたわね』
転移している影響で視界は歪んでいる。まだ遠くではあるが、歪んだ光景の先に見えるのは2人の人影。姿はハッキリと見えないが、声だけはしっかりと聞こえてくる。青と白の人影は争っているようで、青の人影は確かに“アクヤクレージョー”と叫び声を上げ、その後で白い人影は小さく蹲ったように見える。
「グヘッヘッヘッへ、観念しろ!諦めて俺の言うことを聞けばイイようにしてやるぞ、クロカミセージョ」
「ダイニオージ、貴方には屈しませんわ。それに、どこでアクヤクレージョーを手に入れたのですか?その力は、貴方には到底扱えるはずがありませんわ」
「それなら、どうしてお前は跪いていいるんだ。俺に服従する為だろ!」
少しずつ人影が近付いているが、それでもまだ遠く感じられる。普通に転移することがないとは分かっていたし、それなりに覚悟もしていた。だが、こんな展開が待っているとは想像出来るわけがない。
「ムーア、アクヤクレージョーって何なんだ?」
『そんなの、私も聞いた事ないわよ。ダイニオージとクロカミセージョは2人の名前っぽいけど』
歪みの外の世界では、さらにダイニオージがクロカミセージョへと襲いかかる。
「それならば、もう一度味わうが良いさ。食らえっ、アクヤクレージョーーーーッ!」
「こんな事で私は屈しませんわ。ハイスペックシュジンコー!」
ダイニオージからは黒い波動が、クロカミセージョからは白い波動が放たれると、それが2人の間で激しくぶつかり合う。
「アクヤクレージョーは魔法なのか···」
『ハイスペックシュジンコーも魔法みたいね』
2つの魔法の衝突は、大きな音を放ち衝撃の強さが伝わってくる。そして、ダイニオージの放ったアクヤクレージョーは、クロカミセージョの放ったハイスペックシュジンコーを徐々に押し込み始める。
全く意味が分からないし、どんな世界かも把握出来ない状況では、混乱することさえも出来ずに思考が麻痺してしまう。もう少しだけ時間が欲しいが、それではクロカミセージョがどうなるか分からない。
それに歪んだ世界も少しずつ正しい形を取り戻し、もうすぐ転移が完了する。
『カショウ、どうするの?』
しかし今分かっているのは、“ダイニオージ”と“クロカミセージョ”という2人の名前と、アクヤクレージョー”と“ハイスペックシュジンコー”という魔法の名前だけ。そして、何故か考えれば考えるほどに、頭がズキリと痛む。それは元の世界の記憶が関係しているのだろうか?
そして、歪みの向こう側の世界でも、転移してくる異変を感じとったのか、こちらを見ている。
『もう、転移が終わるわよ。時間がないわ!』
あまり良い方法ではないが、もう勘と度胸で決めるしかない!
「クロカミセージョを護れ!イッショ、アクヤクレージョーの魔法を調べろ!」
アクヤクレージョーの属性が分からなければ、魔法を無効化することは難しい。同じ属性での魔法を重ねてしまえば、逆に威力を増してクロカミセージョを傷付けるだけになりかねない。
少しでも時間を稼ぐために、ムーアやタダノカマセイレが壁を作り出し、俺のバーレッジがアクヤクレージョーを分散させる。
「駄目だ、カショウ。俺様でも、アクヤクレージョーが何なのかは分からん!」
「属性すらも分からないのか?」
「それすらも、全く分からん!未知としか言いようがない」
バーレッジでアクヤクレージョーの威力を削ぐことは出来ているが、それでもまだまだ魔法の力は十分に残されている。ハイスペックシュジンコーを弾き返し、アースウォールや氷壁も砂壁であるかのように、次々と粉砕してゆく。
残る方法は、アクヤクレージョーがクロカミセージョに届く前に、救い出すことしかない。そして、純白の翼と黒翼とナルキの三対の翼が、クロカミセージョへと向けて羽ばたく。
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