第330話.バズのスキル
「良かったわ。まだ新種は出てないわ」
イスイの街が近付くと、コールが俺の中で話しかけてくる。
「新種って何のことだ?」
「ウチが魔力を吸収して分裂しても、あくまでも1つの存在なの。でも、分裂した後に魔力を吸収して成長すれば、いずれ新しい自我が芽生えるんよ。そこで初めて、ウチとは別のスライムが生まれるん」
コールが俺に吸収された時点で、分裂したスライムの存在も消滅を始める。しかし、新種のスライムであれば存在は残ってしまう。
「蟲人の魔力を吸収して自我が芽生えれば、別のスライムが増殖していたのか」
「そうよ、別人格的のスライムが出てくれば、ウチはそれを倒して従えるしかないんよ。真のスライムクイーンとなる為には、避けて通れない道ね♪」
「勝手に盛り上がるのはイイけど、頼むからイスイの街では表に出てくるなよ」
「あっ、ウチのこと信用してないでしょ!」
地下に居た時間が長いだけに、コールとバズは光のある世界に興味津々で、隙あらば外の世界を覗こうとしてくる。しかし、イスイの街では蟲人族を壊滅させかけたスライムのコールや、原因となったゴルゴンのバズの存在を表に出すつもりはない。
表に出せば、結界をつくった最上位の精霊や神々の関与については触れなければ説明がつかない。それを知ったところで無用な不安を煽るだけでもあるし、崩壊した湖底の結界の存在を証明することは不可能でもある。
あくまでも、タイコの湖の地下には魔力溜まりがあり、その魔力を吸収して成長したスライムが進化し暴走した。たまたま、その上にはヒガバナの群生地があり、地上に吸い上げるという最悪が重なってしまったという事で押し通す。
「2人ともイスイの街じゃ、絶対に姿を見せてはダメだからな!」
「でも説明が必要になれば、何時だって僕の力を見せるよ?石化の瞳を見せれば、ゴルゴンだって皆納得するでしょ!」
「見るものを石に変えてしまう力なんて、恐怖を与えるだけだ。ただでさえ、スライムの混乱が収まってないんだからな!」
「カショウが心配するほどの力は、今の僕にはないよ。瞬時に石に変えるなんて、片目の僕じゃ絶対無理なことだね」
左手のバズの瞳が、訴えるように俺を見つめてくる。
「そんな眼で見ても、ダメなものはダメだ!」
「今の僕じゃ、石のように重くすることしか出来ないのに。どこからどう見ても無害な存在じゃん!」
「ダメっ···」
ダメだと言いかけて言葉を飲み込む。俺の物質化魔法の欠点は、つくり出したものが軽すぎるという事。ソースイのグラビティで重量を増幅させても、元が軽すぎるために効果はない。しかし、重量を与えれるのであれば、軽いという欠点を克服出来るかもしれない。
「バズ、どれくらい重く出来るんだ?」
「気になったの?それなら見せてあげる♪」
バスの石化の瞳が、地面に落ちている小枝を見つめる。
「これぐらいかな、持ってみて」
小枝だと思って拾い上げたが、ずっしりした石のような重みがある。それでも、見た目は木のままで不思議な感覚がする。そして軽く力を入れれば、簡単に折れてしまい、小枝であることに間違いはない。
「これは···、石化してるのか?」
「今の力でも、何日もの時間をかければ、少しずつ石化させることは出来るよ。でも速効性がある効果は、石のような重量を与えることだけ。だから、簡単に折れる小枝でしかないよ」
「もしかして、マジックソードも重く出来たりすのるか?」
バズの石化の瞳が手の甲から、手の平に移動してくると、右手に持つマジックソードを見つめる。そして、求めても得られる事のなかった重量が、ズシリと手に伝わってくる。
「おおっ、凄い。これは使える」
「お望みなら、こんな事も出来るよ」
すると、今後はマジックソードの切っ先が重くなる。それに驚いていると、今度は切っ先が軽くなり手元が重くなり始める。
「重心が変わっている。こんな事も出来るのか?」
「どう、使えそう?それなら、ちょっとくらい表に出てた方が都合良くない?」
「使えそうなのは分かったけど、イスイ街では絶対にダメだ。見られれば何が起こるか分からないし、避けれるリスクなら避けた方がイイ」
「それなら、イイ方法があるわよ。ウチに任せて!」
コールが、左手に現れているバズの瞳を隠してしまう。
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