第327話.証拠隠滅

 無属性の壁が消えた後には、ポッカリと大きな穴が開いている。奥には俺達が降りてきた階段が見えるが、階段はさらに下へと続いている。ただそれよりも放って置けないのは、階段の上から流れ落ちてきている水になる。


「祠の結界は機能していないのか?」


『祠の結界が無事なら水に浸かる心配もないけど、私たちが壊した地下の結界を関係があったみたいね』


 タイコの湖底にあって、水の侵入を防いでいたのは祠の入り口にあった結界になる。その結界は、地下の空間につくられた結界と繋がっていて、本体となる地下の結界が破壊されてしまえば、当然祠の結界も力を失う。


 侵入した時は、湖の大半を埋め尽くしていたスライムが消滅し、祠のある湖底を晒していた。しかし、いつまでも湖底を晒しているわけではない。この湖のどこかには水源となる湧水や、流れ込んでくる地下水脈があり、タイコの湖を徐々に満たして、元の水位へと回復させてゆく。


「俺は水の中でも大丈夫だけど、ソースイ達は良くないか?」


『そうね、私がこの結界をつくった精霊ならば、少なくても証拠隠滅するでしょう。ここは、誰にも見られたくはない場所のはずよ』


「証拠隠滅か···」


 その時、空気が微かに振動し衝撃が伝播してくる。タカオの廃鉱でも経験したことのある、嫌な感覚は間違いなくこの空間の崩壊を意味している。


『やるなら徹底的に、水の底に沈めるなんて中途半端はしないわ!』


「それを早く言えっ!」


 階段を駆け上がり祠を目指すが、流れ落ちてくる水の勢いは強く足を取られて、思い通りに進むことが出来ない。かといって、ガーラがソースイやホーソンを乗せて飛べる程に通路も広くない。


 流れ落ちてくる水も勢いを増しているし、断続的に嫌な振動も伝わってきている。


「ウチに任せて」


 コールが俺の体から飛び出してくると、ソースイとホーソンの体へと吸収されてしまう。俺以外の体へも自由に吸収されてしまうことに驚きを隠せないが、コールが完全にソースイの体へと消えてしまう前に、サムズアップした手の形をつくる。


「コールの体は、どうなってるんだ?」


『ソースイもホーソンも、あなたの魔力を糧にしているのよ。だから、カショウの体の一部に近い感覚なのかもしれないわ。誰にでも吸収される訳じゃないと思うわけどね』


 コールが完全に吸収されてしまうと、2人の背中には羽が現れる。バズの体に現れた時は翼であったが、2人の背中に現れたのはチェンのようなトンボの羽で、2人の意思とは関係なくコールが動かしている。


「どう凄いでしょ!」


 コールが自慢してくるが、声は俺の体の中から聞こえてくる。俺の外へと出ていったはずなのに、コールは俺の中に居る。


『スライムらしいわ。自由に分裂も結合も出来るのね。コールの本体は、カショウの中かしら?』


「全てがウチよ。カショウの中のウチがダメになっても、他のウチが残っていれば問題ないんよ!」


『じゃあ、ソースイとホーソンの羽は誰が動かしてるの?』


「それは、ソースイとホーソンの中のウチよ。それぞれのウチが動かしてる。まだ翼みたいな複雑なものをつくる力はないけど、それでも能力は十分よ!」


 ソースイもホーソンも、巨人族を除けば体格は大きい方になる。それでもコールの羽は、2人を宙へと浮かび上がらせている。どこまで動けるかは未知数だが、今のこの状況を打開する力は十分に持っている。


 再び大きな地鳴りが起こり、これまでにない衝撃波が体全体に伝わってくる。


「もう時間がない、脱出するぞ!」




 階段の終わりが見えると、これまでで一番大きな地鳴りの音が聞こえてくる。そして、地下の空洞へと流れ込んでいた水の逆流が始まる。それは、崩落が起こり空間が消滅した証拠でもあり、さらに俺達を飲み込むように水位が上昇してくる。



 もう出口や扉を気にする余裕はないが、結界が力を失っているならば、祠は簡単に破壊する事が出来るはず!


「フォリー、シェイドだ。祠を突き破る!」


 まだ、日の光は届かない地下空間。それならば、ヴァンパイヤ族の力は最大限に発揮出来る。


「かしこまりました。旦那様」


「祠を出た瞬間に、光が射してくるかもしれない。陰の外には出るなよ!」


 フォリーの返事はないが、代わりに詠唱が聞こえてくる。それに合わせて腕を祠に向かって伸ばす。


「シェイドーーーーッ」

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