第323話.精霊と魔物のバランス

「えっ、そんなで大丈夫なのか?」


 カラコンで目の色を変えただけの誤魔化しでは、異変を起こした体を元に戻すことは出来ない。精霊化も魔物化も、一般的には呪いの一種と言われている。体に宿した精霊や魔物に侵食されてしまえば、存在は取って変わられる。

 消費しきれないない程の大量の魔力が侵食を阻害しているが、自身の存在をかけた呪いの契約であることに変わりはない。


『それは、あなた次第でしょ。目の色が変わらなくても、あなたの存在が変化してしまうなら問題よ。でも目の色だけが変わって、存在が変わらないならば特別問題視する必要はないわ。それに、もうハーピーの翼だってあるのよ。目の色と、ハーピーの翼があることの違いは何なの?』


「でもな、俺の体に魔物の徴候が強くなってるってことだろ。だから見てくれの対策だけで終わるのは、ちょっと強引過ぎる解決方法じゃないか?」


 声に出しては言わないが、魔物を取り込み体質が変化したことで見えている部分が変わってしまう事に強い抵抗がある。翼であれば出すことも消すことも自由に出来るが、自然と変わってしまった目の色は戻すことは出来ない。そして、ヒトとしての特徴が失われてしまうことへの大きな不安。


『魔物化も精霊化も同じよ。精霊化しても、姿が変わって見えないだけで、あなたの体はヒトから大きく外れた存在になってるのよ。もし精霊化して魔物の目のように色が変わるとすれば、あなたの目の色はもう変わってるわよ』


「それなら、魔物を吸収する数はどうなんだ?限界があるかもしれないだろ。まだオーガが残っているんだから、闇雲吸収するってに訳には行かないだろ」


『それは、ラガートに任せておけば大丈夫よ。あなたよりも、体の中のことを分かってるんじゃないの?少なくても、あなたはコボルトキングの存在すら把握出来ていないことは良く分かったわ』


 多少なりとも反論を試みたが、ムーアから即答で適材適所と返されてしまう。


『ねえ、コアもそう思うでしょ!』


 コアも魔物を吸収することについては肯定派になるが、それはムーア以上に積極的に魔物を吸収するべきという推進派になる。その感情の声を聞き取っているからこそ、ムーアはコアに話を振った。


「旦那様は旦那様ですから、コアは赤い目となっても構いません。それよりも、今は魔物との協力関係を築くことが重要ですわ」


「コアは、このまま魔物を吸収しても大丈夫だと思うのか?」


「精霊と魔物の関係性が大きく違っていたのに、それに私達は気付くの遅すぎました。少しでも早くしないと手遅れになるかもしれません」


 そして返ってきた答えは少し違う。それは俺達のように狭い範囲で考えるのではなく、多くの者を守るという責務にあった元エルフ族族長だった者の視点。


 ライとリッチは協力関係にあったのだろうが、確たる証拠はなかった。しかし、ゴルゴンのバズは精霊に一方的に利用され、結界を張ったのは上位以上の精霊であることに間違いない。

 相容れない存在であると思われていた精霊と魔物。一方的に魔物が精霊へと襲いかかる思っていたが、精霊が魔物を利用している。今までの価値観や関係性が、大きく変わってしまった。


「でも、ゴルゴンを利用しようとしている精霊が、何を企んでいるか分かりません」


『ゴルゴンの魔力をふんだんに吸収したタイコの湖の水。そこから造っているのは、神々に捧げる御神酒よ』


「俺の敵は、アシスを造った神々なのか?」


『そうとは言わないけど、神々が関係している可能性もあるわ』


「それならば、少しでも多くの力を集める必要があります。そして、旦那様の力は唯一対抗出来る可能性を秘めています」


 俺と魔物の協力関係とは、魔物を俺の体の中に宿すことになる。体の中に宿して1つの力としてまとめることの出来る力。そこに精霊達の力も加われば、より強い力となる。


「力を欲するならば地に潜れ。ダンジョンに潜って魔物を吸収しろってことなのかもしれないな」


 今まで正しいと思っていた理屈が変わったり、新しい方法が見つかれば、価値観も大きく変わる。それに答えは1つではないかもしれない。全く違う方向にも、問題を解決する方法があるのかもしれない。


『そうと決まれば、早くここから出ましょう!』

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