第321話.ゴルゴンのバス
「少し休ませてやったらどうなんだ?そんなに酷使するほど俺は鬼畜じゃないぞ」
『それは、違うわよ!名付けして関係性を高めた方が、ゴルゴンも早く回復するでしょ。今だってコールが居たから、何とか存在を保てたのよ』
「限界だったのは分かってるよ。それでも、ずっとここで縛られてたんだろ」
俺がゴルゴンの魔石を破壊する瞬間に、コールなゴルゴンの体から抜け出している。そして魔石を砕いた瞬間に、ゴルゴンの体はキラキラと散ってゆく余韻すら残せずに消滅してしまった。
『状態としては、イッショよりも悪いのよ』
「魔石だけだったイッショと比べてもか?」
『残された体はあったけど、魔石は欠けていたのだからイッショ以下よ』
(僕は、イイよ)
「イヤ、俺が気にするんだよ」
(イイよ、そんなの。もう退屈なのは懲り懲りだもん)
「この空間にどれだけ縛られていたと思うんだ?それに急速な回復は、魔石にだって歪みを起こすんじゃないか」
(おかしなとことは無いよ。ちゃんと僕に馴染んでるよ)
『カショウ、誰と喋ってるの』
「誰って···」
俺とムーアの会話に入り込んできているが、ムーアには聞こえていない。コールは目の前にいるのだから、俺の頭の中に直接響いくるこの声の持ち主は、今吸収したばかりのゴルゴンしかいない。
『ゴルゴンなの?』
「そうみたいだな」
俺とゴルゴンの会話が成立しているのだから、間違いなくアシスの言葉を話せる魔物なのだろう。ラミアの魔石と結合しているのだから、その影響もあるのかもしれない。
(出口を知ってるよ)
「出口を知っているってさ」
(名付けしてくれたら、教えたげる。どう?)
「イッショよりも弱ってるんだろ?元気そうなんだけど、何かの間違いなのか?」
『まあ、魔石は回復出来てたってことの証明よ。元気そうなら、仕事してもらうだけでしょ!』
結局のところ、力を失っていても、そうでなくても直ぐに名付けすることに変わりはない。しかし、俺は精霊を探しているのに、なぜか魔物の吸収が続いてしまう。
「オークにスライムに続いて、ゴルゴンか···」
『そうね、だんだんと魔物の割合が大きくなるわね。このまま行けば魔物にだってなれるかもしれないわよ!』
「他人事じゃないだろ。そうなったら、ムーアだって魔物に召喚させる精霊になるんだぞ」
『瞳の色が赤くなったら考えましょう。今はまだ大丈夫じゃない♪』
今ゴルゴンに名付けして、俺の体に異変が出ないという保証はない。それでも、ムーアは楽観的に考えている。それに、ゴルゴンを助けることを前提にしてきたのだから、今さらどうすることも出来ない。
そして、今は決定事項であるゴルゴンの名付けへと集中する。アシスでの名前がどういったものかを知らない為に、失われた元の世界の記憶も影響は大きいのかもしれないが、考えると閃くように名前が浮かんでくる。
「そうだな。バズにしようか。どうだ?」
「うん!僕は今日からバズだね!」
名付けを繰り返してくると、もう儀式ばった感じはなくなり、雑談しているような感覚で名前が決まり契約が終わってしまう。
魔石を吸収する時には、体に入り込んでくる感覚があるが、名付けとなれば特に変化は感じない。体には何の変化もなく、ただ取り込んだ魔物の特徴だけが色濃く反映される。
「しまったっ!」
『何が、しまったなの?』
ゴルゴンの特徴は石化させる瞳であり、その特徴が反映されるのであれば、俺の瞳は真紅に変わってしまう。
「ゴルゴンを吸収して契約が強化された、俺の今の瞳の色はどうなっている?」
『えっ、どうなっているって?』
そこでムーアも、俺の言ったことの意味を理解する。しかし、直視することの危険性を十分に理解している。
『確認するなら、イッショかハンソじゃないの?』
イッショなら魔石の呪いを魔力吸収で無効化出来るし、ハンソなら石化されても関係ない。むしろ、ハンソの能力は強化されるかもしれない。
「ハンソは、ダメじゃないか。何を言っているか分からない」
『それなら、イッショしか居ないわね』
「2人とも、何言ってるの?そんなの黒目に決まってるじゃない!」
ゴルゴンのバズの声がするが、どこから聞こえるか分からない。
「どこを見てるの?僕はここだよ、ここ!」
そして、声の聞こえたような気がする左手を、思わず見てしまう。
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