第320話.異質な魔石

『綺麗な魔石ね』


 思わずムーアは呟いてしまう。アシスでは宝石などの装飾品であっても、魔物の赤い瞳を彷彿させるものは忌み嫌われる。上位種になればなるほど瞳の色は濃くなり、真紅は禍々しさを表す恐怖の象徴でしかない。


「これなら、ゴルゴンの欠けた目を補えルワ」


 しかし、ブロッサもムーアと同じようで、現れた2つの魔石を手に取ると食い入るように見つめている。


 確かに魔石の中から現れた2つの魔石は、俺が今までに見てきたどの魔物の瞳よりも鮮やかな色で、存在を無視することは出来ない。しかし禍々しさを感じさせないのは、ゴブリンやハーピーの魔石の力を吸収したせいなのか、それとも七色の魔石の影響を受けたからなのかは分からない。


「これがゴルゴンの目となって、大丈夫なのか?それは、本当にゴルゴンと呼べる存在になるのか?」


 ゴルゴンの欠けた魔石を回復させ、視覚を取り戻す目的であったが、目の前にある魔石は全く違う上位種のものといえるかもしれない。そんな未知の力を秘めた、異質な魔石が出来上がってる。


『ブロッサ、どうなの?』


「そうね、まだ残されている魔石の欠片は、もっと黒く濁った色をして違いは大きイワ。でも触ってみれば、この魔石で大丈夫だと思わせてくレル」


 そう言って、ブロッサは俺の方へと2つの魔石を差し出してくる。何度かラミアの魔石を使ったことはあるが、大きさや重さは変わらずとも、不思議な感触がある。手に吸い付くような、触っているだけで癒されるような、そんな不思議な感触がある。


「大丈夫でショ」


「確かに大丈夫かもしれないけど、ゴルゴンとは全く別物で与える影響は大きくないか?」


『カショウ、進化したと思えばイイのよ?』


 ゴルゴン本来の力を失っていなくても、吸収した魔物の能力やスキルを知っていることは重要である。ゴルゴンであれば、もっとも特徴的な能力は石化させる瞳の力になる。

 しかし能力が変質してしまえば、何が起こるか分からない。意図しないところで、スキルが発動してしまえば大惨事を引き起こす可能性だってある。ましてや、ゴルゴン本人ですら、自身の存在がどのように変わったかを把握する前に吸収されてしまうのだから。


「僕は、どうなっても構わんよ。目は見えるようになるんやろ」


「視覚は問題なく回復すルワ」


「それなら大丈夫よ。そろそろ時間切れになるかもしれんわ」


 そう言うと、ゴルゴンの頭の蛇達は力なくダラリと垂れ下がってしまい、魔力の限界は迫っている。


「横に寝かせてやったらどうだ?」


 しかしゴルゴンは首を横に振り、俺の提案を拒否する。


「ウチは強いのよ。早くしないと、後悔す···」


 コールがゴルゴンの失われてゆく魔力を補ってきたが、それも限界を迎えて再び急速に魔力が消失してゆく。弱々しくか細くなる声では、最後まで言葉を聞き取ることが出来ない。ただ、ゴルゴンの中でもクイーンといえる存在のプライドが、弱い姿をみせることを拒否しているように見える。


『違うわよ。あなたとより強い関係性を築くには、それなりの力を示す必要があるのよ。どんなに傷ついても、決して倒れない強い意思の力よ』


「旦那様、そろそろしないと間に合いませんわ」


「もう1度だけ確認するけど、視覚は回復出来るんだな!」


「ゴルゴンとしての力は変質するかもしれないけど、視覚は問題なイワ」


 俺が頷くとブロッサが魔石を手に取り、ゴルゴンの顔に嵌め込む。それだけで、この魔石と残されたゴルゴンの魔石が上手く結合してくれるとは限らないが、何故かその不安は感じない。


「ああっ、見えるわ」


 ゴルゴンが顔を上げると、真紅の目の中に褐色の瞳がある。しかし、視覚が回復しただけでなく、その瞳の持つ力も影響を与え始める。

 ゴルゴンの意思とは関係なく、石化の呪いが襲いかかってくるが、それをイッショが黙って魔力吸収で無効化する。


「俺も、顔はしっかりと覚えた」


「良かったわ。さあ、ウチを殺して!」


 ゴルゴンの魔石を破壊するための、マジックソードでの一閃。それをゴルゴンは、瞬きもせずに目を見開いたままで受け止める。


 魔石の砕ける軽い感触がすると、キラキラと魔石の破片が舞いあがる。そして俺の体がそれを吸収を始める頃には、ゴルゴンの体は跡形もなく消え去っている。


『間に合ったわね。それじゃあ、さっさと名付けも終わらせましょうか!』

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