第306話.徹底抗戦

 フォリーの両腕が弾けたように広がる。


「しまった」


 光の届かない空間では、圧倒的な力を発揮するフォリーの力に油断していたし、それに攻撃に失敗してもダメージを受けることはないと思い込んでいた。


 しかし、不自然に広がるするべくフォリーの腕は、何らかの力を受け、結界から弾かれてしまっている。


「大丈夫ですわ。ダーク兄様が、姉様を止めているだけです」


 マトリにそう言われてみれば、籠手に包まれたフォリーの腕だけが結界から離れようとしてるように見える。紫紺の刀がなくともフォリーの戦意は衰えておらず、それどころか狂暴性を増して、犬歯を剥き出しにて結界に噛みつこうとしている。


「大変そうだな···」


「それが兄様の唯一の役目ですから」


「助けなくても大丈夫なのか」


「迂闊に近付けば怪我するだけです。もう少し発散すれば、自然と収まりますから」


 この狂暴性こそが、ヴァンパイヤとしての特性なのかもしれないが、普段は完全なまでに衝動を抑え込んでいて、その片鱗すら感じさせない。どちらかといば、任務を遂行するにあたってのストイックさの方が際立っている。


「ダークとマトリは大丈夫なのか?」


「何がですか?」


「その、何ていうのかな?フォリーみたいな衝動に駆られることはないのか?」


「兄様は大丈夫です。姉様に付き合って、全力を解放してます」


 結界に襲いかかる動きを見ていれば、もしかすると身体能力はダークよりもフォリーのほうが高いかもしれない。その動きを必死に止めているのだから、フォリーの衝動が収まれば、ダークも燃え尽きているだろう。


「マトリは?」


「私はまだ幼いですから、ヴァンパイヤとしての衝動が出てくるのは、もう少し先のことだと思います」


「そうか、そのときは早目に言うんだぞ」


 そして、少しずつフォリーの衝動の解放が収まり始めると、それを待ち構えていたかのようにウィスプ達が攻撃態勢をとる。


 ルーク·メーン·カンテの魔力を一点に集中させると、雷の球を作り出す。攻撃力だけを優先するならばレーザービームを放つのだが、ウィスプ達はまだまだ魔力を注ぎ込み、球雷をさらに大きく成長させる。

 それならば、サンダーストームを放つかと言えば、大きく成長した球雷からは一切の放電はなく、魔法を球雷の中へと完全に閉じ込めている。


 球雷は俺よりも大きく成長すると、表面には幾筋ものひび割れのような亀裂が出来、そこから光が漏れだすと結界を照らし出す。


『綺麗なレンブラントね!』


「そんな悠長なこと言っていて大丈夫か?上位精霊の張った結界に手を出しているんだぞ」


『違うわよ、これは単なる誤爆よ。相手は、ゴルゴンなのよ。そんな生半可な戦い方をして、到底勝てる相手ではないわ』


 漏れ出した光は結界を照らし、ひび割れと同じ模様を結界に描いている。か細い光に見えるが、ゴブリンジェネラル相手に放ったレーザービームよりも遥かに凝縮された魔法が込められている。

 それに結界上に模様を描くということは、それは結界がレンブラントを無効化出来ていないことを証明している。しかし、光は結界を透過することなく、壁へは届いていない。


「結界には届くけど、破壊するにはほど遠いか」


 フォリーとウィスプが全力を出して、我慢しきれなくなった男が、俺の横に立ちアピールしてくる。


「精霊だけじゃなくて、ここにも居たか···」


「カショウ様、必要とあらば圧倒的な力をお見せします!」


「どうなるか分かってるのか?」


「私めは、カショウ様の使用人ですので、一蓮托生にございます」


 そう言いながら、ソースイは黒剣を掲げ召喚ハンソの体勢に入っている。


「俺はまだ、何も言ってないぞ。それに、ハンソは違うんじゃなか?」


「それならば、直接ハンソに聞いてみて下さい!」


 複雑な状況かに置かれるほどに、ハンソの考えていることも言っていることも理解出来ない。最近では“Yes”なのか“No”なのかさえも分からず、理解出来るのはソースイだけでしかない。


「ハンソであれば、誤爆しという説明でも納得出来ましょう。上位精霊であっても諦めがつくというものです」


 最早何を言っても結果は変わらない。だからと言って、思い通りにさせるのも癪に障る。


「グラビティ」


 左手を翳して結界の前に展開したグラビティに、ソースイの顔が少しだけ強張る。


「中途半端は許さない。やるなら、徹底してやれ!」

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