第298話.スライムのスキル
コールの声に反応して、湖のスライムが一斉に集まり出すと、次々とこちらに向かって飛んで来る。あまりの量に一瞬だけ身構えてしまうが、契約が成立しているのであれば、コールが俺に危害を加えるようなことは出来ない。
飛んできたスライムは、次々とコールに吸い込まれるように吸収されてゆく。
「どおっ、見違えたでしょ!これが、ウチの本当の姿よ!」
「んっ、何か変わったか?」
「えっ、私の成長した姿が···この洗練された美貌が分からないの?」
胸を張って得意気に話してくるが、それでも俺にはチビッ子にしか見えない。
「そうだな、魔力が濃くなったのは分かるけど···。少し髪が伸びたかな?」
「もうっ、ウチの成長が分からないの!」
しかし、魔石を破壊した時点でスライムの消滅は始まっている。それに、ほとんどのスライムは凍りついている為、吸収する為に集めたスライムは湖の中でもごく一部でしかない。
「かなりの量を吸収したつもりかもしれないけど、まだ姿はチビッ子のままだぞ。姿を見せてやろうか?」
「あなたはレディ相手にデリカシーはないの?それならばウチの凄さ教えてあげる。しっかりと聞いて、驚きなさい!」
スライムのスキルは、自身の成長を加速させる。他の生物や魔物と比べ物にならないくらいの速度で成長し、自身の限界に達すると分裂して増殖する。
この湖を埋め尽くしたスライムは、全てコールによって産み出されたもので、スライムの特異な点となるは、分裂したスライムを再び取り込むことも可能な点である。
そして、今はカショウのブレスで消失した体を急速に回復させて見せたつもりらしい。
「どう、凄い!ウチの力、見直した?」
「スライムは単純な構造だから、分裂も結合もしやすいんだろな」
「何ですって、誰が単純なのよ!」
構造だけでなく思考回路も単純で、分かりやすい態度で怒り始める。それでも、チビッ子少女の怒りは微笑ましく見えてしまう。
「分裂も結合もするのは分かったけど、なんでコールには翼があるんだ?」
「だって、あなたが分裂した姿なんだから、翼があって当然っしょ」
「それなら、なんでチビッ子少女になるんだよ?」
「それは、あなたの問題でしょ。ウチは忠実にあなたの思考を再現しただけよ」
この会話を続けるのは良くないような気がするし、嫌な視線を感じる。
「あのな、増殖したスライムの影響で、1つの街が壊滅するかもしれなかったんだぞ。コールはこの湖で何をしようとしたんだ?」
「えっと、それは?ウチ、何してたんだっけ?確か、魔力の濃いところがあって、それから···」
「それから、どうした?」
「そうね···覚えてない!」
「全く?」
「うんっ、何も覚えてないな!」
コールは自分のやったことを理解していないのか、あっけらかんとしている。スライムから地下の異変を探るという当初の目論見は早々に崩れてしまうし、これ以上の情報をコールから聞き出すのならば、自分達で探った方が早い。
「地下に魔力溜まりがありそうだな。その魔力溜まりが魔物に影響を与えている」
『そんな気がするけど、それを探り当てるには地道な作業をするしかないわね』
「カショウ、リッターが湖の中から何か見付けたよ!」
しかし、地下へ手掛かりは突然現れる。コールが分裂したスライムと再結合したことで、さらに湖の水位が下がり、湖の中から祠のようなものが頭を出している。祠の周りには結界が張られ、湖の中にあっても水に浸かることなく空気の層で隔てられている。
さらに水位が下がると、祠の姿が完全に露になる。祠は黒っぽい石を積み上げて出来ているが、正面の扉だけは白く汚れ一つない。そして、祠の周りは白い石が囲まれており、それがこの祠に結界を張っている。結界に使われている白い石も、祠の扉と同様に汚れがない。湖の水と接していれば、苔や藻といったものが付着していても良いのだが白い姿を保ち、何か特殊な石であるように思わせる。
「カショウ、祠から魔力が漏れているぞ」
イッショが、祠から出る魔力の流れを感じとる。祠の周りに充満した魔力は、少しずつ湖の水へと溶け出している。それは、これまでに見てきた魔力溜まりとは比べものにならないくらい濃くて強い。
「魔樹の森よりも、魔力が濃いんじゃないか?」
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