第263話.矛と盾

 巨大な岩オニの金棒をハンソの交差した両腕が受け止めると、細かく砕けた石が飛び散る。そしてパラパラと細かく砕けた石がハンソの腕から絶え間なく落ちている。

 ハンソの体は特殊で、ドワーフ族の秘匿された方法でないと傷付ける事も難しい。それにハンソの体は硬度だけでなく衝撃に対しても強く、ここまで傷を付けられた記憶はない。

 しかし驚くべき事は、岩で強化された金棒には全く変化は見られず、ハンソの性能を大きく上回っている事になる。


「エトッ、ントッ」


 いつもと同じ言葉の繰り返しだが、ハンソは明らかに困惑し、キョロキョロと様子を伺ったいる。それ対して、ソースイは岩オニだけを見つめて全く引く気を見せない。


「ソースイ、大丈夫なのか?」


「まだ、皮一枚が剥がれた程度。心配には及びません!」


 ハンソが持ちこたえれるなら、後はソースイの魔力と岩オニの力比べになる。もちろんその一騎討ちを静観するつもりはなく、それは岩オニに出来た隙でもある。


「ウィンドトルネード」


 しかし、俺のウィンドトルネードは岩オニに届かなく、衝突の手前で現れると完全に防がれてしまう。それだけではなく、追随したウィプス達のサンダーボルトも、ことごとく壁が現れて防いでしまう。


「矛にも盾にもなるのか」


 今までのハンソを見てきて、今更ながらに気付く。打撃や斬撃だけでなく、魔法にも優れた耐性を見せるハンソの体には、欠点は見当たらない。それは岩オニの魔法にも同じことが当てはまる。金棒を強化しても、直接盾や鎧として使っても良い。


『性能からしたら、ハンソの上位互換かしら』


「俺の上位互換でもあるな」


 俺のマジックソードやマジックシールドの欠点は軽すぎるという事。だから力任せの攻撃であったり、威力のある攻撃を受け止める事が出来ない。しかし岩オニの魔法には、俺の無属性魔法に欠けているものが揃っている。


「俺の魔法では、岩オニとは勝負にならないな」


『それを言うなら、物質化魔法限定の上位互換よ』


 他にも岩オニの魔法には物資化魔法と似ている点は多い。一度具現化してしまえば魔力消費せず、飛散してしまう火属性や風属性と比べると、コストパフォーマンスが良い魔法になる。


 だから岩オニの魔力を消費させるには、盾や武器を破壊して再度魔法を行使させなければならない。そして、破壊出来ずに手こずっている間にも、ソースイの魔力は減り続けている。このまま持久戦になれば、ソースイに勝機はない。


「カショウ、ハンソが押され始めたよ!」


 後ろから見ていれば分かりにくいが、この広間に散ったリッター達の視点からでは、ジワジワとハンソが後ろへと下がり出している。今の魔法が限界のソースイに対して、岩オニの力はまだまだ増していくのかもしれない。


『どうするの?』


「岩オニに攻撃が通用しないなら、直接ソースイを援護する!」


『援護って、どうやってやるの?これ以上の事は難しいわよ!』


「まあ、見てろって!」


 岩オニの壁を打ち付けていウィンドトルネードを僅かに逸らし、ハンソの背中を押してやる。


「押されているなら、押し返してやればいい。俺達の魔法が通用しないのは、岩オニだけじゃないからな」


『そういう事ね、分かったわ。それなら遠慮はいらないわね』


「ああ、どんな攻撃だって構わない」


『士気高揚!』


 ムーアが、全員の能力を底上げする。そして、ウィンドトルネードだけじゃなく様々な魔法や攻撃が乱れ飛び、ハンソの背中を押す。そしてルーク達は魔力を練り、特大のサンダービームを放とうとしている。

 少しでもハンソを岩オニに押し込めるなら、どんな攻撃だって構わないと言ったが、その攻撃にハンソを押し込む物理的な力があるのかどうかは、ルーク達にしか分からない。


「カショウ、土属性の魔法だよ!」


 その時、ナレッジがハンソの変化に気付く。ハンソに当たったストーンバレットは、ハンソの体に衝撃を与えた後、体に吸いつけられるようにして離れない。そして少しずつ、ハンソの体が大きさを増す。


『見て、カショウ。ストーンバレットが吸収されてるわよ』


「それだけじゃないよ。ハンソの傷が回復している」


 ハンソの両腕は岩オニの金棒に砕かれていたが、今はパラパラと細かい石すらも落ちていない。何がハンソに起こっているか分からないが、ハンソの体が強化されているなら、全力の魔法で援護するしかない。


「ストーンキャノンッ」

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