第245話.2つの歴史

『何言ってるの?魔物に名付けするなんて、あり得ないでしょう!』


「そうだよな。仮に出来たとしても、魔物を召喚するなんて、あり得ないことだよな」


『自らの魔力を与えてる、契約者を殺そうとする魔物を召喚するなんて、自殺願望がなければ成立しない事よ。あなたは体に精霊も魔物を宿すイレギュラーな存在ではあるけど』


「だけど、不可能ではないんだよな?」


『力を与えることは、あなたにもハーピーロードにとっても、諸刃の剣になる可能性はあるわよ。本当に互いが求めているものが一致しているとは思えないわ』


 それでもキングの強力な力を前にして、それと同等の強烈な存在を示さなければ、相手にもされない気がする。


「聞こえるか、今から名を付ける」


「我に名を!」


 ハーピーロードは繰り返し、名を求めてくる。


「名はラガート。受け入れるならば力を示せ!」


 黒翼が一回り大きくなると、ハッキリとした声が聞こえてくる。


「名はラガート。我が力を示さん」


 しかしその声を遮るようにして、純白の翼が現れる。ムーアが心配した以上に、同じ翼となるリズとリタは黙っていない。一回り以上大きな翼を黒翼に見せつけ、勝手な行動は許さないといといわんばかりに威嚇している。


「我が存在はカショウ殿と共にあり、一翼を担う者。願わくば共にあらんことを」


 そのラガートの言葉を俺が伝えると、リズとリタは威嚇を止める。了承はしたが、純白の翼が消えることはなく、しばらくは監視するつもりらしい。



 しかし、黒翼に反応したのはリズとリタだけではない。急に風が止むと、それと同時に引き寄せられる力も弱くなる。まだ無数の黒い球が空を漂っているので、全てがキングの元へと集まってはいない。

 ロードの後ろにいたキングが前へと出てくる。これまでの守護者のキングの体にあったような傷は一つもない。だがその顔は険しく、苦悶の表情を浮かべているようにも見える。


「精霊とハーピーロードの翼を持つ者か。何をしにここへと来た?」


 それに答えるように、黒翼が一度羽ばたく。


 ハーピーとオークでは使う言葉が違うので、会話することは出来ない。だから、ラガートの感情をキングが聞き取る一方通行だけの会話になる。


 だがラガートの声は俺にもハッキリと聞こえてくる。ラガートから最初に聞こえてくるのは、繰り返されてきた怒りや苦しみ、哀しみの負の感情。繰り返す程に感情は強くなり、黒い靄にも匹敵するほどに強い。

 これだけの強い感情を秘めた魔物が体の一部となり、さらに名付けし力を与えたことに今さらながらに不安を感じてしまう。


 しかし最後に聞こえてくるのは、滅びという中に見出だした喜びの感情。それは今まで繰り返してきと負の感情と比べても同等以上に強いが、俺には理解出来ない感情でもある。


「そんな話を、本当に信じると思うのか?この者が抗う者と?」


 しかし、そこでラガートとの一方通行の話は終わり、今度は俺を値踏みするように話しかけてくる。


「我らオーク族の話を聞いて尚、抗う者としていられるのか?」


 そう言うと、キングはオーク族について語り始める。それは、俺達が知っているのとは全く違う話でもある。


 オーク族は、元々はクオカの森に住んでいた。白く輝く理の樹は膨大な魔力を秘め、その守り人として森に暮らしていたのがオークの存在。

 しかしオーク族は、突如現れたエルフ族に襲われると理の樹を奪われしまう。必死に抵抗を試みるが、不意打ちされた劣勢を跳ね返すことは出来ずに、徐々に森すらも奪われてしまう。それでも長い年月を森の覇権をかけて争ったが、エルフ族とハーフリング族が手を組んだ事によって状況は大きく変わる。

 ハーフリング族が地下に迷路を張り巡らせ、巧妙にオークを地中へと引きずり込み始めると、徐々に劣勢となり遂には草原へと追いやられてしまう。

 それでも、ハーフリング族の攻勢は終わることなく、草原にはキングとロードの2人のみが残される。ハーフリング族にとって増殖するオークは、魔石を量産する為の都合のイイ道具でしかない。強制的に魔力を与え増殖させ、魔石を取り出す為に殺す。これが、ここ数百年と繰り返されている真実。


「我らは、エルフ族とハーフリング族は決して許さない」


「俺達が知っている話とは全く違うな。その話は、本当といえるのか?」


「この黒い靄は、地下に捕らわれたオーク達の負の感情。数百年と蓄積された声が聞こえないとは言わせない」

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