第232話.探り合い
『チェン、あれを持ってきて』
「へい、姐さん」
チェンがエルフ族からの手紙を持ってくると、ケイヌの顔付きが変わる。確かに手紙ははエルフ族族長からであり、目の前にいるパシリのような蟲人がフタガの岩峰の領主となる。
商人の街ともいえるオヤの街からは、幾つかの街道が延びている。その中でも1番大きな街道はイスイの街へと繋がる街道であり、途中にあるフタガの岩峰に巣食うハーピーが物流の障害となっていた。
そして、そのハーピー達を追い出し領主となった男がいるとは聞いていたが、目の前にいる男がそうであるとは思わなかった。
「ほう、そうでしたか。フタガの岩峰の領主である事を黙っているとは、人が悪いですな。わざと人を試されたのですか」
「そんなんじゃねーすよ。今のあっしはパーティーの一員で、リーダーは旦那っすから」
「でも、フタガの街の領主殿なのですよね?」
「あっしの役目は、領主よりもハーピーを退治する事っすから。何かあればイスイの領主バッファに言ってくだせぇ」
ケイヌの訝しむような問いかけに面倒臭さを感じ取ったのか、チェンは最初からバッファに投げにかかってしまう。
「フタガの岩峰からハーピーが消えた事は承知しております。商売をする身としては、とても助かっています。しかし、逃げ出したハーピーの事までは聞いておりませんが?」
しかし、チェンはムーアの後ろに引っ込んでしまって、ケイヌとは目も合わせようとしない。そして、ケイヌは明らかに困惑しているのが表情に出てしまっている。
『クックックッ、私達を監視していたようだけど、何か分かったかしら?』
「参りましたね」
両手を軽く上に上げて、降参のポーズを取る。
「その前に、1つだけ訂正しておきますね。一応、この草原もハーフリング族の領地となっております。好きに入って貰っても構わないんですがね。オヤの街に影響を及ぼさなければ、私どもが干渉する事はありません」
『あら、そうなの。オヤの街がどこにあるかは知らないから、それは難しい事ね。教えてくれるな、避けて行動するわよ』
「流石にそれは、私の独断では無理ですな。小さな街であっても、ハーフリング族の機密事項ですよ」
『じゃあ、今回出てきたのは街に影響がありそうだったからなのかしら?』
「申し訳ありませんが、それにもお答えは出来ません。ただ、私どもの目的はオークの魔石だけですよ。黒い靄がかかったという事は、オークの守護者が倒された可能性が高い」
『”私どもの目的”なの?それとも”あなたの目的”の間違いじゃないかしら』
「これは手厳しいですな。領主という割に合わない仕事をしているのですから、これくらいの役得がないとやっていられませんよ」
ムーアとケイヌの探り合いを、右手を挙げて制する。
「ムーア、もうイイだろ。少なくとも、オヤの街のハーフリング族は俺達に敵対する事はないだろ。フタガの領主のチェンを敵に回すと、厄介な事になるからな。ハーピーの行動は予測出来ても、チェンの行動は予測出来ない」
「カショウ殿には歯向かわないように伝えておきますね。これで探り合いが終わりなら、私の交渉に移らせてもらいますね」
『契約の精霊の前で、言った事は忘れない事ね』
「商人が契約を違えることはありませんよ」
ケイヌの目的は、より上位のオークの魔石を手に入れる事でしかない。そして俺達が倒したオークは、守護者と呼ばれる湿原を守るオークになる。
赤いオークロードと青いオークキングが分裂して増殖したのが守護者と呼ばれる。本体のロードやキングより力は劣るが、ジャネラルクラスを遥かに凌駕する力を持ち、当然魔石の質も上回る。
「守護者の魔石をお持ちですか?」
「何故、そう思うんだ?」
「黒い靄が出たという事は、本体となるオークが出てきた事になります。そして、守護者を倒さなければ、本体となるオークは現れません」
「残念だったな、魔石は持っていない。直ぐに槍を持った赤いオークが現れたから、逃げるしかなかった。今から取りに行けば、まだ落ちているかもしれないぞ」
「そうですか、それならば他の守護者を倒して、新しく魔石を取ってくる事は可能ですか?」
「まずは、対価を提示してからじゃないか?」
「大抵の物は用意しますよ。逆に聞きますが、希望の物はありますか?」
「それならば、ライという男の情報が欲しい」
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