第225話.カンテのサムズアップ③

 バァンッ


 オークがルークを片手で掴んでも、ルークの身に纏う雷は小さく放電しただけで、大きなダメージを与える事はなかった。

 しかし、両手で掴まれた瞬間にルークの纏う雷が全て放出されて弾ける。オークの両手が弾き飛ばされると同時に、閃光が周囲を包み込んでしまう。


 閃光が収まるとそこには、体を仰け反らせて空を見上げているオークが立っている。ルークに触れて弾かれた手は肘から先が消失して、上腕だけとなった腕を大の字に広げている。


「これが狙いだったのか?」


『まだ、メーンが残っているわよ』


 草むらの中から、急激に増加する魔力を感じる。ルークが体に纏った魔力よりも、もっと小さく凝縮された魔力。

 そして、オークに向かって静かに一筋の閃光が走ると、オークの喉元に吸い込まれる。


 それはメーンが放ったサンダービームで間違いないが、魔法を放った音すら全く聞こえない。その音すら閉じ込める事で、拡散される魔力をなくし凝縮された雷魔法。しかしオークに直撃したはずのサンダービームは、オークの体を貫通する事なく体内に留まり続けている。


「吸収されたのか?それとも効果が無い?」


「吸収は出来ておらんぞ。間違いなくオークの体に直撃しておる。俺様が感じ取っているのだから間違いがない」


「イッショ、それじゃあ何が起こったんだ?」


「ピンポイントで、魔石に直撃したのさ。ルークの体に纏った雷でもオークの体は耐えれんかったのだぞ。それ以上に一点に凝縮された魔法に、オークの体が耐えれるわけがなかろう」


『そうね、イッショの言う通り魔石に当たったようね』


「最初から、これを狙っていたのか」


『これなら、最初から私達の出る幕はなかったわね』


 三度カンテがサムズアップし、今度はウィプス達の作戦終了を告げてくる。


 最初からウィプス達の狙いは、オークの魔石を狙う事にあった。ルークが近接戦闘を仕掛け、オークの周りを執拗に飛び回り、ルークの体から放電される雷を浴びせ続けた。

 ルークの体から放電される雷にはそこまでの威力がなくても、オークはルークの体に蓄えられている魔力を無視する事は出来なかった。無意識の内に魔石のある場所を庇ったり、攻撃を避けようと動いてしまう。


 それをカンテは見逃さず、僅かでしかない不自然な動きを見極める。またその不自然な動きを確かめるために、僅かにサンダーストームの出力を落とし、さらにサンダービームを放つ事でオークの動きを確かめていた。


 それが確信に変わると、ルークがオークの隙を作り出し、最初から狙い済ましていたメーンがサンダービームを放つ。



 最初こそオークに変化はなかったが、目の前のオークの喉元にはポッカリと穴が空き始め、魔石が露になってくる。

 普通であれば即時に回復を始めるオークの体だが、ポッカリと穴を空けたままで埋まる事がない。それに両腕の傷も何一つ変わらず、体を硬直させたままで動けずにいる。

 そして、オークの魔石にはメーンの放ったサンダービームが纏わりついている。持続的に攻撃を与え続ければ、動きを止める事は出来るのかもしれない。


「メーンの攻撃が魔石に通ったのか?」


『魔石にダメージを与えた、そういうことになるのでしょうね』


 しかし、オークの存在が消滅を始めていないのは魔石を破壊出来ていない証拠でもある。


「だけど、あの攻撃でも魔石は破壊出来ないみたいだな」


『ゴブリンキングの時は、動きを止める事も出来なかったのよ。それから考えたら大きな一歩じゃない!』


 ゴブリンキングの時には、魔石が露になっても動きを止める事も出来なかった。ロードやキングを倒す手段は、今のところ俺のマジックソードしか知らない。

 だからこそ、ダメージの与え方が分かった事の意味は大きく、対抗する手段となる。


「そうだな、あの時と比べたら大きな違いだな。もしかしたら、マトリが作った紫紺の刀もダメージを与えれるかもしれない」


『まだトドメを刺す事は、あなたの仕事なんだから、さっさと終わらせなさい』


 ムーアに促されて、赤いオークの喉元にマジックソードを突き立てる。メーンのサンダービームでも傷一つ付かなかった魔石は、パリンッという軽い感触と共に簡単に砕け散ってしまう。そして砕けた魔石が俺に降り注ぐと同時に、赤いオークの消滅が始まる。

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