第192話.カショウ様とチェン様
俺の影の中が、どんな世界なのかは分からない。精霊達に聞いても、誰も影の中がどうなっているかは教えてくれない。教えてくれないという事は、あまり良い環境ではないような気がする。
影の中なのだから、何となく薄暗い洞窟の中を想像してしまう。大量のアイテムが保管してあったり、ブロッサとガーラが影の中で何かを開発しているのだから、真っ暗闇ではなく少しは明かりがあるか薄暗い環境なのだと思う。
影の精霊であるクオンや、陰の精霊であるフォリーとマトリは何の問題ない。ブロッサも長い間を地中で過ごしてきたのだから、暗い中の生活は問題ないのだろう。コミットはワームに飲み込まれていたのだから、それから比べると影の中は快適かもしれない。
しかし、そうでない者が長時間を暗闇の中で過ごすのは、かなりのストレスになるはず。そしてクオンが、コアピタンスを影の中に連れていったのは、まずこの厳しい環境を教えるためなのだろう。師たるクオンは常に影の中にいるのだから一緒にいる為には、まずこの厳しい環境に耐え抜かなければならない。
しかし、友達を家に誘うかのような軽い感じでコアピタンスを影の中に連れていった。意外とクオンはスパルタなのかもしれない。それでも、コアピタンスの表情は変わらず笑顔のままで契約を受け入れた。
「ご主人様、ご主人様、ごーしゅーじーんーさーまっ!」
答えのない思考のスパイラルを、“ご主人様”と呼ぶ声が現実へと引き戻す。
「ご主人様って、誰だ?」
「私の目の前には、ご主人様しかいませんわ。だって皆、そう呼んでますもの」
クオンとブロッサが、しまったと気まずそうな顔をしている。隠れて俺の事を“ご主人様”と呼んでいるような気はしていたが、これで確信に変わる。後でしっかりと指導しておかないと、今後に悪影響が出る!
「コアピタンス、その呼び方は良くない。もしエルフ達が、エルフ族族長に俺の事をご主人様と呼ばせていると勘違いしたら、きっと大変な事になる。だから、ご主人様は絶対にダメだ!」
「えっ、でもここに居る私はもう族長ではありません。族長はあそこで倒れています。それに何とお呼びすれば宜しいのですか?ご主人様?」
ムーアとチェンは、ニタニタと笑っている。チェンに至っては、笑みを隠そうともしていない。
「コアピタンス、俺の事は“カショウ”って呼び捨てでイイんだぞ。精霊達も同じで、皆対等な関係なんだ」
「呼び捨てなんて出来ないです。私はご主人様の扶養となる身なのですから。それに私の事は“コア”とお呼び下さい」
契約を結ぶ事で、俺と融合した精霊の力がコアピタンスに影響を与え、食事や睡眠が不要となる。しかし、それを扶養と呼ぶのは少し違う気がする。
「分かった“コア”と呼ぶから、その代わりに“カショウ”と呼んでくれ」
「それは···カショウ様ではダメですか?それがダメなら、ムーアさんのように“あなた”とお呼びします」
『「クックックッ」』
ムーアとチェンが、何とか笑い声を堪えようとしているが、堪えきれない笑い声が漏れている。ムーアとコアピタンスの使う“あなた”のニュアンスが、明らかに違いすぎる。
「分かった、“コア”と呼ぶから“カショウ様”にしよう」
「はい、人の要る場所では“カショウ様”とお呼びしますね、ご主人様、それともあなた?」
『「アッハッハッ」』
遂にムーアとチェンが我慢の限界を超えて、大声を出して笑い始める。俺の視線を感じた、ムーアは影の中に消えるとチェンだけが取り残される。
「あんまり大きな声を出すと、爺エルフが目を覚ますぞ!」
「ヒッーヒッーヒッー」
ムーアに逃げられて取り残された事で、チェンがしまったと気付く。必死に笑いを堪えようとするが、1度崩壊したものはそう簡単には回復しない。
「コア、後になって悪いんだが大切な話があるんだ」
「なんでしょうか、カショウ様♪」
「ソースイとホーソンは俺の従者なんだが、チェンだけは違うんだ」
「フタガの領主様ですよね?それは知っています」
「そう、だけどそれだけじゃないんだ。俺達は、完全にチェンの庇護下にあるんだ。自由に行動しているように見えて、全てチェンの許可を貰っている」
「えっ、そんなに凄い方だったのですか?」
「普段は軽く見られたいから呼び捨てにして呼んでいるが、誰もいない所では“チェン様”と呼んでいる」
「チェン様は、そうだったのですか。それは私もエルフ族も見抜く事が出来ませんでした」
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