第167話.主従関係
ガーラは魔石を頬張っている。流石に拳大の魔石を2個も口の中に入れば、話す事は出来ない。
ムーアの話では、ガーラは魔石を口の中に入れる事で鑑定をしている。俺にはただ味わって食べているようにしか見えないが、精霊は口から食物を入れて魔力を吸収するという事はない。
手に取って触っているような感覚と一緒で、ガーラの一番感覚の鋭い部分が舌であるらしい。
時折、口の中から魔石の擦れる“カラカラ”という音が聞こえるが、俺にはガーラの顔が美味しそうに味わっているようにしか見えない。
『ガーラの鑑定はしばらく時間がかかるみたいね。どうする、待つ?それとも進む?』
「そうだな、スケルトンの臭いを辿って、少し進んでみるか」
今洞穴の中に感じられるのは、スケルトンとワームの臭いだけ。それだけであるならば、対処する事は出来る。
「その前に、やらなきゃならない事を済ませよう」
『やり残しなんて、何かあったかしら?』
ワームは消滅して、逃げることが出来たスケルトンは少ないし、近くにいる気配もない。それでも、俺の言葉で少し緊張が走る。
「ごめんごめん、アレだよ」
『ふっ、そうね。アレを何とかしないと、先には進めないわね』
俺が指差した先にいるのは、テカテカになったままで立ち尽くしているハンソの姿。少し猫背で肩が下に落ち、両手もだらんとしている。
もう少し、胸を張って凛々しい表情でいてくれるなら、様になるのかもしれないが完全に気が抜けてボウッとしている。
「ナルキ、ハンソにこれをつけてやってくれ」
「えっ、ボクがやらなきゃダメなの?」
「張り切りすぎたんだから、仕方ないだろ。ずっと蔦や蔓を巻き付けるよりも、このマントを上手く繕った方が楽だろ」
影の中から、ゴブリンキングの羽織っていたマントを取り出す。穴が空きボロボロになっているが、ゴブリンキングの纏っていたマントだけあって物は良い。
ナルキは渋々とマントを受けると、穴の空いた部分を上手く補修してゆく。
「意外と手先というか、枝先は器用なんだな」
『そうね、これくらい器用だったら他の事も出来そうね』
「私も何か作って欲しいワ」
『後で、ホーソンに相談しましょう。素材なんかもイロイロと持っているはずよ』
「そうね、私もクオンに聞いてみるわ。クオンも収集癖があるから、使えそうなものは多いと思うわ」
ブロッサも会話に混ざってくると、マントを繕う枝先が狂う。
『ナルキ、今さら下手なフリしても遅いわよ』
「そうヨ、ムーアも私も中位精霊。あなたと同格。誤魔化せると思ったノ?」
「たっ、たまたま、手元が狂っただけだよ。そんなに見られることがないからね。ほら終わったよ!」
そしてハンソに、ゴブリンキングのマントを纏わせてみる。本来は王族が纏うに相応しい豪華なものなのだろうが、今は黒く汚れた襤褸布のようなマントでしかない。しかしゴブリンキングが持っていた杖も精霊樹の杖であり、幾らボロボロになったとしても、何かしらの力を秘めているような気がする。
しかし今のマントの姿の方が、元のハンソの色味に近く違和感がない。ハンソが胸を張り自信を取り戻した時に、マントを元の姿にしてやればイイと思う。
「似合っているというか、ハンソらしいな」
『着ている方も見ていてる方も、落ち着く事が一番よね』
着せられたハンソも、特に変わりがない。確かに、いきなり豪華なマントを纏わされればハンソは混乱するだろう。それに見合った活躍を要求されると思い、どうして良いか分からなくなり挙動不審な動きになってしまう。
現状でもハンソの事を一番良く理解しているのは、ソースイくらいなのだから。
「ハンソ、行くぞ!」
「エトッ、エトッ」
しかし、ハンソは嫌な素振りを見せて動こうとしない。すると後ろからきたソースイが、ハンソに近付く。
「グラビティ」
ハンソに対して、グラビティをかける。重量のあるハンソがグラビティを掛けられれば、まとまに動くことが出来ない。そして、両手でツルハシを持つとハンソに叩き付ける。
ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ、バキッ
しかし、ただのツルハシではハンソに傷一つ付ける事が出来ない。そして、ツルハシの柄が衝撃に耐えきれずに折れる。
「分かったか、ハンソッ!これが、お前の力だ。お前はいるだけでイイ。誰も、それ以上は望んでいない!」
「エトーー」
「カショウ様、お待たせしました」
ハンソに何か気になる事があったのかもしれないが、今のソースイの行動で解決したようである。
「なあ、ムーア。代理契約者って可能なのか?」
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