第160話.新たな可能性
「大丈夫かって、何の事だ?」
ナレッジが気にしている理由が分からない。元々この作戦は、ハンソがいる事が前提で立てた作戦。
ハンソが囮となって、触手から放出される酸を集める。全体に撒き散らされては、近付くことも出来ないし、広範囲に広がったオネアミスの毒を中和するのも難しくなる。
そして3つ目の作戦は、最も効率が良い。ハンソが囮だけの必要はなく、攻撃出来れば一石二鳥。悪い要素なんて一つもないはず!
「翼だよ、翼!」
「もしかして、臭いか?」
ハンソがいるのに翼を出してしまえば、臭いの発生源が増えてしまう。それでは、せっかくのハンソの囮が台無しになってしまう。そういう事なのか?
慌てて匂いを嗅ぐが、2対4枚の翼からは匂いは感じられない。召喚せずにブレスレットの中から力を行使していれば、あくまでも属性は俺の身体と同じであるみたいだ。
「ナレッジ、大丈夫だ。匂いはしない!」
「そうじゃないよ。風だけなら分かるけど、剣羽根はハンソにも当たっちゃうよ!大丈夫なの?」
「あっ、ああ、そっちか。ハンソはレーシーの攻撃にも無傷で耐えれるんだ。まだまだ俺の付け焼刃の剣羽根なんて、ハンソには掠り傷すら付けれないよ。それに、ハンソは覚醒してるんだ!」
「そうだったね、そういう事になってたのを忘れてたよ。ナルキ、大丈夫だって!」
ナレッジがナルキに声を掛けると、俺の肩の後ろに違和感を感じる。重さを感じるが、片手は精霊樹の杖を握り、もう一方の手はマジックシールドを操作していて、動かすことは出来ない。
「ボクも参加させてもらうよ。カショウと契約する精霊は多いからね。ちゃんとアピールしておかないと、存在すら忘れられちゃう!」
そして視界に入ってきたのは、2本の腕。幾つもの枝や蔓が絡み合って、器用に形を作っている。
「レーシーの攻撃が平気なら、ボクの攻撃も大丈夫だね。ボクが操るのは、ダミアの木。アシスの中でも1番硬い木の実だよ。イイよね!」
「もう準備出来てから言われても、断れないだろ。リズとリタのように、ちゃんと制御してくれるなら、好きにやってイイぞ」
レーシーの作った腕には、マカデミアナッツ程の木の実が無数に付いていて、俺の許可を待っている。それが俺の許可が出たことで、一斉に解放される。
腕のように形どっていた枝が、一斉に広がり翼のように変わる。黒翼に干渉しないように地面スレスレに翼を広げると、十分なタメをつくり翼を振るう。
黒翼の剣羽根と違って、魔力でダミアの実を飛ばす事は出来ないが、自在に長さや大きさを変化させ、それらを最大限に活かしてダミアの実を飛ばす。
飛ばされたダミアの実は、魔力で放たれた剣羽根を追い越し、ウィンドトルネードで飛ばされているハンソに一直線で向かって行く。
「ナルキ、ハンソを狙ったのか?」
「まあ、見てて。お楽しみはこれからだよ♪」
そして、突然目の前に姿を現して物凄い早さで近付いてくるハンソに、ワームは戸惑っている。
この洞穴の中では、ワームに向かってくる存在などいなかったに違いない。酸とオネアミスの毒があれば圧倒的な強者に位置し、逃げ惑う者をひたすら追いかける強者の存在であったのだろう。
また、圧倒的な強者であったがゆえに、向かってくる存在に慣れていない。その僅かな隙が戦況を大きく変える。
パンッ、パンッ、パパンッ、パパパンッ
爆竹が破裂するような音が聞こえて、その直後に触手の所々が弾け飛ぶ。長い触手だけに途中で傷を負った触手は、身体を持ち上げる事が出来ずに地面へと落ちてしまう。
「ナルキ、何が起こったんだ?」
「どうだい、凄いだろ。ダミアの実は硬いんだけど、強い衝撃を受けると弾けるんだよ。ダミアの実でも一番硬いのが中の部分なんだ」
かなり触手に気を張って作戦を立てたのに、十数本は残っていた触手で無傷で残ったものはない。触手の先端に見えていた光りも消えてしまい、ピクピクと動くだけになっている。
「そんなに凄い攻撃を隠してたのか?」
「ボクだって隠すつもりはないさ。だって、ダミアの実は衝撃を与えないと、破裂してくれないんだよ。この洞穴の中じゃ、地面や壁は軟らかすぎてめり込むだけ。こんな効果は出ないさ」
ハンソがいるから出来る連携攻撃。イロイロな精霊との組み合わせが、これからの可能性を感じさせる。
「ハンソ、凄いぞ!」
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