第139話.機会と脅威

 衝撃だった。ディードの願いは、ダビデの任務が成功する事でしかない。

 ダビデが任務の遂行を一番に願うのであれば、どんなに過酷であろうが死にかけるような事になろうとも問題にはならない。また、ダビデの任務が失敗する原因となってしまうようならば、精霊樹であっても足枷の邪魔者な存在でしかない。


 そう考えれば、上位精霊のキマイラを都合よく扱ったり、俺達にクオカの精霊樹の秘密を喋ってしまうのも納得がいく。


 ただダビデへの愚直なまでの真っ直ぐすぎる感情で意思決定される。召喚契約にもイロイロな形態があるが、ムーアでも初めて見るような異常な繋がり構成されているようだ。



 それでもディードからもたらされた情報は貴重なものである事は間違いなく、当然これからの俺達の行動を見直す必要も出てくる。


 俺達にとって何が機会で、何が脅威となり得るのか?

 当初の目的通りにクオカのエルフの町を目指すのか、それとも現段階では危険すぎる判断して引き返すか?


 しかしどうしても今の目の前の脅威として映るのは、明らかにダビデとディードの2人になる。


「あの2人の闇は深いよな。真っ直ぐのようで、かなり歪んでいるぞ」


『常識や理性が欠場しているんだから、一緒に居るだけでかなり危険な存在になるわね』


「ここで俺達が、クオカに行かないと言ったらどうなる?」


『ディードは間違いなく、行かないと判断した原因を潰しにかかるでしょうね』


「不要、排除」


 ガーラが短く的確に表現し、その後ろからはディードからの鋭い視線を感じる。目が合うと、口元だけがニヤッと笑うのが猟奇的で怖い。


 背中に嫌な汗が流れ、思わず話題を変える。


「クオカに行った場合はどうなる?エルフ族は信用出来ると思うか?」


『それは、難しいわね。隠匿したり秘匿されている事は多いでしょうし、都合よく利用したい魂胆は見えているわ』


「それ以上の真理、強さ」


 だけどガーラはそれに反対であるようだ。エルフの信用は関係なく、精霊樹に触れて真理や強さを知る事が大切だと言っているのだろうか?好奇心だけを優先させた眼差しではない。


「キマイラは上位精霊、強い。私たちは、どこ?」


『そうね、強さを知る事は大切ね。今見えないところで変化が起こっていても、私たちはに対処出来るかどうかは分からないわね』


 確かムーアの言う通りで、これまでは上位者とは戦った事がない。明らかにレベルの違いがあったのはキマイラとの戦いで、圧倒的な力の差で全く相手にはならなかった。


 俺達のレベルに合わせて少しずつ魔物も強くなってくれるわけではないし、アシスで生きる為には、戦いは避けて通れない。

 踏み込んでも良いところとダメなところは必ずあり、見極めや判断出来る材料は必要になる。


「結局は、ディードの思い通りになっているみたいで気にくわないな」


『クオカの町まで行けば、そこで終わりになるでしょ』


「ダビデの新しい任務とかで、また関わってこないとは言いきれないだろ」



「決まったかしら?」


 気付けば、いつの間にかディードが俺の後ろに立っている。少なくても俺の気配探知スキルの範囲内にいるはずなのに、それを掻い潜って現れる事が出来る存在。危険なのは間違いない!


「出来れば急いで欲しいわ。遅れれば状況も変わってくるから」


「それは、ダビデの任務遂行の話になるのか?」


「そうね。それもあるわ」


「分かったよ。クオカの町に向かうから、先導してくれ。この中で一番移動が遅いのはダビデになるからな、クオカの町に着くのはダビデ次第になるだろう」



 そして目の前には、風の精霊ディードの力を借りて森の中を進むダビデの姿がある。

 飛ぶことが出来る俺達の方が移動は圧倒的に速いため、ダビデは全力疾走に近いが顔色一つ変えていない。


 クオカの町に向かうと決まったら、ディードの姿は見えなくなってしまった。精霊樹の杖に触れる事で、ディードの魔力の3割程度は飛散してしまっている。

 それでもダビデの体に風を纏わせ、一歩一歩の進む距離を長くさせている。木々が密集した中でも、絶妙な加減でスピードを落とすことなく弾むように進んで行くのは、ダビデではなくディードの仕業なのだろう。


 そして巨木まで辿り着くと、ダビデは一旦立ち止まる。


「ここから先が、迷いの森の結界の始まりです。木々や落ちている物にも触れないで下さい」

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