第135話.迷い

「ウォーター、スパイラル」


 さらに大樹の空洞に大量の水を流し込む。レーシーには少しでも奥へと流れ落ちて欲しいので、風魔法を組み合わせ水流に回転をかけてみる。これで壁にへばりつく事も難しくなるだろう。

 本来の力を取り戻した精霊樹の杖は、複数の魔法を組み合わせて発動する事が出来る。ただ魔力消費は大きく、2つの魔法を組み合わせれば3・4倍以上と消費する魔力量は大きく跳ね上がる。

 精霊樹の杖から使用者として認められても、魔力量がなければ性能は半減するといってもいい。


 さらにハンソには石を落とさせている。小石から初めて徐々に大きくし、今は頭くらいの大きさになっている。


 休みなく延々と続け、見ているだけの他の精霊達は飽き始めている。


『徹底してやるのね』


「レーシーを大樹の地下まで流したくらいでは、消滅する程のダメージを与える事は出来ないだろう。少しでもレーシーが登ってくるの遅らせる必要があるからな。まあ、嫌がらせでもあるけど」


『もう2時間くらいは経つわよ。まだ続けるの』


 精霊達の視線が痛い。流石にこれ以上やると性格的なものを疑われるような気がする。


「そろそろ、仕上げにするか。ナルキ、大樹を成長させる事は出来るんだろ」


「出来るけど限度があるよ。何をするんだい?」


「この空洞を塞ぐ事は出来るか?」


「塞ぐだけなら出来るけど、それ以上は無理だね。流石に大樹は大きすぎるし、出来たとしても時間がどれだけかかるかは分からないよ。それにレーシーも大樹は操作出来るから、あまり効果はないかもしれないよ」


「塞いだ上にハンソの岩を載せるから、その重みに耐えれるくらいで大丈夫なんだけど」


「それくらいな、大丈夫だよ」


「よしっ!五層つくるから少し急ごう」


 ナルキの顔色が少し変わる。あまり感情を顔に出すことは無かったがナルキだが、今は分かりやすい程に表情に現れている。もしかすると、これが本当の姿なのかもしれない。


 結局、仕上げに半日以上の時間を費やす事になるが、しばらくはレーシーをここに留める時間稼ぎは出来るだろうし、後は俺達だけで抱え込む問題ではない。



「ナルキは迷いの森には行ったことがあるのか?」


「残念だけど、僕はこの大樹から離れる事が出来ないから、気になってもそれは出来ないよ」


 ナルキは動けない存在だから、この先の迷いの森はについては知らない。あくまでも、この湿地体を通る者からの知識でしかなく、その知識の大半はエルフ族からもたらされている。


 そこで少しだけ、疑問が生じる。迷いの森に近付けば近付くほどに危険が増える。本当に精霊にとって、この森は安全が担保されているのだろうか?


 魔力を溜まりも濃くて強くなり、危険が増えているはずなのに、精霊達は迷いの森の近くの場所を取ろうと縄張り争いをするのか?。


「迷いの森の“迷い”は、どんな意味なんだろうな。道に迷うのか、それとも決断や判断に迷うのか?」


『急にどうしたの?道に迷う事じゃないの?特別におかしくはないでしょ』


「迷ってしまうのは精霊だけなんだろ。精霊達が迷いの森というなら理解出来るよ。だけど迷いの森と呼んでいるのは精霊じゃないだろ。エルフ族以外は迷いの森から出られないなら、帰らずの森になるんじゃないか?」


『確かにガーラも気になってるみたいだったけど、カショウは違う方向にミスリードされてるって言いたいの?』


「そこまでは断言出来ないけど、結界を張るにしても、この森が適しているのか?普通なら、こんな場所に結界を張らないだろ。もっと安全な場所か、誰でも侵入出来ないような秘境みたいな場所だろ」


『この場所ではないと駄目な理由があるって事かしら』


「勘に近いけど、そういう事かな。そもそも、迷いの森はエルフ族の安全を守る結界って誰が言い出したんだ?エルフ族しか出入り出来ない森なら、エルフ族しか分からない話だろ。自分達で結界の中は安全ですよって宣伝してるのか?」


「ガーラもナルキも聞いた事があるか?」


「僕はないね。たまにエルフ族がここを通るけど、自分達や迷いの森の中の事を話しているのは聞いた事がないね」


「聞いたことない、私も」


「後は行ってみるしかないけど、本当にエルフ族の迎えは来てくれるのかだな」


 そして、雲より高い大木が近付いてくる。合一の大樹とは違い、ただただ巨大なな1本の大木で、途中で曲がることはなく真っ直ぐに空へと向かって伸びている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る