第76話.廃鉱の終焉

ゴオオオォォォーン、ゴオオオォォォーン


 爆発ではない。地響きのような音が2回聞こえた後、大部屋全体を振動が走る。大部屋の天井からパラパラと小さな小石が降ってきて、部屋全体の振動は大きくはないが継続している。

 爆発というよりは、過去に限界まで削りとられた地盤が耐えきれなくなって、崩壊が始まったのかもしれない。


「まずいな、ここは早く出よう」


『そうね、長くは持たないわ!』


 それ以上は誰も何も言わない。主の居なくなった廃鉱。その役割を果たそうとしているのか、それとも口封じの為の証拠隠滅。どれを取っても、ここに留まる選択肢はない。


 それぞれが役割を果たす為に、全力を尽くす。


 俺が臭いを辿り、クオンが周囲の気配を探知する。さらに、ウィスプ達が先行して目視による索敵。

 そこに、コボルトの王の視覚スキルが加わる。アンクレットの中では、ナレッジが俺の頭の中に流れ込む光景を処理している。ウィスプ達の見ている光景を、複数のモニターで見るように監視し、情報はベルのスキルを通じて全員へと伝えられる。


 今は、リッター達は休息中だが、哨戒活動に加われば凄い性能になるかもしれない。探知能力だけでいえば、間違いなくアシスでもトップクラスになる。

 それだけの精霊達が哨戒するなら、監視する精霊達も必要にはなるが・・・。


 坑道が振動し、空気の流れが大きく変わる。複雑に入り組んだ坑道なので、どこで崩落が始まったかは分からないが、近くで崩落が起こったのは間違いない。


 もう少しで出口からの光が見えるといったところで、急に光が閉ざされる。


「マトリ」


 ローブの中から、ゴブリンキングの持っていた杖を取り出す。


 杖に魔力を流すと、杖の周りで風が巻き起こり渦巻く。


「フォリー、ソースイ、全力で行け!」


「かしこまりました」


 フォリーが影から出てくる。光が閉ざされた事によって、一切の遠慮がいらない全力の陰魔法。


「シェイド」


 行く手を遮った岩や土砂は、一瞬で形を失い砂へと変わる。そして、今度はソースイが漆黒の盾を前に突き出す。


「ゼロ・グラビティ」


 砂が地面に流れ出す前に、重力の影響が軽減される。


 そして最後に俺がゴブリンキングの杖での風魔法ウィンドトルネード。

 魔法は身を持って体感している。風の流れは、ダークの陰魔法ミストの動きと似たところがあるし、俺のをマジックソードを操るんだから、魔法だって手伝えるだろと勝手に決めつける。


「ウィンドトルネード」


 砂山の中へと突っ込んだトルネードは、地面に流れ落ちた砂を巻き上げ、閉ざされた出口へと向かって進む。

 俺はただ杖に向かって魔力を流す事だけに専念する。途中から杖へと流れる魔力の流れがスムーズになってくる。確か魔力付加が得意だった存在がいる。


「マトリか、頼んだぞ!」


「うん」


 短い言葉のやり取りで十分。俺を助けてくれる精霊達を頼もしく感じ、思わず笑みが浮かぶ。


『仲間外れはイヤよ!』


 少し不機嫌なムーアの声がして、ブロッサが俺の周りにポーションを撒き始める。


『士気高揚』


 疲労感が緩和され、感覚がが研ぎ澄まされて行く。これが最後のトドメの一押しとなって、ウィンドトルネードは崩れた岩や土砂を突き抜ける。


 何とか次の振動や衝撃が起こる前に、出口へと辿り着く。


「これでオルキャンが居た証拠も遺跡も、何もかもが分からなくなるのか?」


 ドワーフ達が関係していたのは間違いないが、これで藪の中。


『まだまだこれからよ。この廃鉱が完全に潰れたのなら、それで損害の出る者が必ずいるはずね。また、そこから何が起こると思うわよ♪』


「相変わらず、ムーアは楽しそうだな」


『結果としては、良かったでしょ。精霊も増えたし、これも手に入ったわ♪』


 ムーアの手に持つのは銀色の盃。


『これはね錫の盃よ。これでお酒を飲むと、口当たりが良くなって、味に深みが出るのよ。ミュラーを見たときにね、ビビッと来たわ!』


「それが、あの強引な勧誘の本当の理由だったのか?」


『あっ、いけない。神饌を忘れてたわ』


 そう言い残して、影の中に潜ってしまう。


 銀髪の剣士が何者なのか、ドワーフ達がどこまで関わっているのかと、分かった事も分からない事も多い。ただ精霊達も増え、やれる事も多くなった。


 とりあえず、タカオの街に戻ろう。これから何が待っているかは分からないが、そこで新たな変化が起こるのを期待しよう。

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