百三話 新区域の生物ー1

 新区域の探索に向かっていたメンバーたちが、走りながら大声を出して巨大樹拠点に戻ってきた。

「エ、エイリアン蜘蛛が出たぞー! みんな襲撃に備えろ!」

 その声に戦闘態勢に入り外に出る。

「う、うおお! な、なんじゃアレは!」

 外に出たみんなも、その蜘蛛のような生き物を見て身震いした。

 身体の大きさは人の頭部程。蜘蛛とは違い、頭、胸、腹部が別れておらず一体化したような形。そこから極端に長い脚が八本ほぼ均等の長さで伸びている。

 それが三匹ほど巨大樹前に現れた。

 一見蜘蛛のように見えるが違う。

 神矢はその蜘蛛のような生き物に見覚えがあった。

「……アレは、たぶんザトウムシです」

「ザトウムシ? エイリアン蜘蛛じゃないのか?」

 矢吹の声に冷静に答える。

「地底に地球外生物が潜んでいた説を否定しませんが、アレは違いますよ。地上でも見かける生き物です」

 森林などにいる生物だが、都会育ちだとあまり見る機会はないのかもしれない。森の渓流近くでキャンプをすると見かけるそうだが、ここにいるメンバーも見たことがないようだった。

 初めて見たのがこの巨大ザトウムシなら、確かにエイリアン蜘蛛と思うのも無理はない。

「危険なのか?」

 神矢の隣で鮫島が尋ねた。

「……地上では、人への危害はないとされている。毒もないし、噛むこともない。見た目はアレだけど、基本人畜無害だ。この地底世界ではわらないけど」

「……人畜無害ねぇ」

 矢吹は半信半疑の目で、ザトウムシを見た。

 人間を追いかけてきたということは、探索メンバーが刺激したのかもしれない。もしくは、ザトウムシが人間に興味を抱いてついてきたか。

 どちらにしても、生徒たちからエイリアン蜘蛛と言われているものを、このまま招き入れるわけにもいかない。女子などは全員樹洞内で「ムリムリムリムリ!」と怖気に身を震わせて見ないようにしている。

 ザトウムシたちは、神矢たちから少し離れて様子を見ているようだった。見た感じ、敵意は感じられない。

 この地底世界に二ヶ月近くいることによって、生徒たちの感覚も鋭敏になり、相手が敵意を持っているかを判断できるようになっているし、下手に刺激してはならないことも学んでいる。

「……とりあえず、虫除けハーブを周りに置くか」

 矢吹の提案で、虫除けに効くとされるハーブ、各種を置くことにした。以前使っていた、シロバナムシヨケギクやヨモギでも良かったが、ハーブにも虫除け効果があることを、植物博士の野村が言っていた。虫除けに効くハーブは、レモングラス、ローズマリー、ラベンダー、バジル、タイムなど。そして、交配品種である最強虫除けハーブと言われる蚊連草かれんそうまでもあった。

 鉢植えに入れたそれらを巨大樹周りに置くと、ザトウムシたちは去っていった。

 ほっとしたのも束の間、その約一時間後にまた違う生物が現れた。



「……で、今度のアレは何だ?」

「なんかショベルカーみたいな虫っすねぇ」

 巨大樹より少し離れた場所で、またもおかしな生き物がいると報せを受けて、男子数名でやってきて、矢吹がその生き物を見て呟き、横で黒河が興味深そうにして言った。

 身体が赤く、黒河が言ったようにショベルカーのように長い首が特徴的な生き物だった。大きさは人の手のひら程。

「先生、アレは何すか?」

 神矢を見て聞いてくる黒河。

「誰が先生だ」

「だって、結構なんでも知ってるじゃないっすか。そこまで博識だと、もう先生の域っしょ」

 神矢はため息をついた。

 地底生物は地上の生物と似通ったところがあるから、参考までに、校舎の図書室にある動物や昆虫図鑑に載っている生き物のほとんどを覚えた。だから、こうやって時々聞かれることもあるが、黒河なんかに先生呼ばわりされたくない。

「……アレは、キリンクビナガオトシブミというゾウムシの一種だ」

「はいムリ。名前長過ぎ」

「……要するにキリンみたいな虫だろ? ならもう、キリンムシでいいだろうが」

「まあ、一部ではそう短縮して呼んでいる人もいますけども」

 神矢が言うと、矢吹は「ほれみろ」と、何故か少し得意げになった。

 キリンクビナガオトシブミは、その名の通り、キリンのように首が長く見える昆虫である。そしてオトシブミは、『落とし文』からきていて、卵を産みつけた葉っぱを文のようにして地面に落とすことからついたものだ。

「で、アレは危険なのか?」

「特に危険という説明はなかったですね。警戒は必要ですけど、基本放置で問題ないと思います」

 矢吹は頷いて、みんなに指示した。

「お前ら、探索に戻れ。んで、また何か変な生き物見つけたら報せろよ」

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