七十四話 調査隊メンバー

 最初にやってきたのは神矢が苦手とする三人娘だった。

「矢吹さん、神矢くん見なかったですか? どこを探してもいないんですよ」

 訊いてきた雪野に、矢吹は「知らねーな」と惚けた。「トイレでクソでもしてんじゃないか?」

「……相変わらずデリカシーないですね」と嫌な顔をして宍戸。

「神矢も調査隊に入ると思ってきたんだけどね。矢吹さん、神矢を見つけたら教えてくださいね」

 言う上原に、矢吹は「わかったわかった」と言って、手をパタパタさせて三人を追い払った。

 そんな事があってから程なくして、矢吹の前に集まったメンバーは七名。男は、九条、林、黒河、片桐の四名。女が、友坂、藤木、浅田の三名だった。

 矢吹はジロリと一同を見渡した。

「……まあ、男子の面子は妥当なところだが、女子が三人も集まったのは意外だな。お前ら、腕に自信があるのか?」

 矢吹の言葉に笑みを浮かべて、一歩前に出たのは藤木だった。

 長い髪を後ろでまとめ上げている二年の女子だ。

「前に、洞窟で菅原たちが女子を襲おうとした件があったでしょう? アレから何人かの女子は自分の身を少しでも守ろうって気になって、鍛錬していたのよ。わたしは、中学の時に少しだけキックボクシングやってたから、それを思い出して鍛えていたの。それの相手をしてもらっていたのが、こちらの一年の女子の浅田さん。彼女は合気道をしていたらしいわ」

「あ、浅田といいます。よ、よろしくお願いします」

 こちらは少しオドオドした感じの女子だ。一見頼りなさそうに見えるが……。

「見た目に騙されたら痛い目にあいますよ。わたしも、けっこうやられましたから」

 藤木が笑って浅田の肩に手を置いた。

「き、恐縮です」

 矢吹は二人を見て、「まあいいだろう」と頷いた。「それで」と、続いて友坂を見る。

「お前はどうなんだ? 正直、一番向いてなさそうだが」

「……まあ、そう言われるのはわかっていたわ。この中で一番弱いってのも自覚ある。けれど、逃げ足に関してはちょっと自信があるのよね。実はわたし、中学ん時に陸上で県大会優勝したこともあるのよ」

 友坂は言って、藤木と浅田を見た。

「キックボクシング? 合気道? 相手はクマなんでしょう? 意味あんの?」

 ズバリと言われて、二人は黙ってしまった。

「結局のところ、この世界じゃ逃げ足が速いヤツが生き残れるんじゃないかしら。そうは思わない? 矢吹くん」

 一理あると矢吹は感心した。

 しかし、逃げ足だけでも生き延びれる保証はない。人間の脚の速さなど、獣たちの前では亀に等しい。

「ま、お前の気概はわかった。それじゃあメンバーを決める。まずは九条の旦那、あんたは不可欠だ。あと林、お前も行け。それから、片桐、お前にも出番をやろう」

 片桐は浦賀の手下だった時、洞窟を襲ってきて失敗し、責任を取らされて浦賀に仲間を殺されている。それがトラウマとなっているのか、最近あまり気力がなかった。

 今回参加してきたということは、何か思う部分があったのかもしれない。

 林は選ばれて嬉しいのか、「よっしゃ!」とガッツポーズを取っていた。……ラーテルベアの調査に意欲的なのが気にかかるが、まあやる気があるのはいいことだ。

「矢吹先輩、俺は?」黒河が自分を指差してアピールしてきた。黒河は問題児だ。九条や神矢からの報告でも、かなり面倒くさい男だと聞いている。

 毎回九条や神矢の手を煩わせるわけにもいかない。

「お前は今回居残りだ。たまには、校舎内の掃除でもしてろ」

「えーー、そりゃないっすよ!」

 不満顔の黒河を無視して、矢吹は女子を見た。

「あとは、友坂。今回はお前が行け。言っておくがくれぐれも気をつけろよ」

「大丈夫よ。何かあったら直ぐ逃げるから」

 そうして、メンバーが決まって黒河と藤木と浅田がいなくなってから、矢吹はジャングルの方を向いて、声をかけた。

「もう出てきていいぞ」

 木の影から出てきた神矢を見て、全員が訝しげになった。

「神矢? なんで隠れてたんだ?」

「ちょっと事情があってな。とにかく、神矢も参加だ。頼んだぜ」

 説明が面倒くさいので、矢吹は強引に話を進めた。

「まあ、九条さんだけじゃなく神矢もいるならさらに心強いしな。頼りにしてるぜ」

 林が神矢に片手で拝んだ。女子三人から気に入られ、黒河に気に入られ、林にも気に入られ、神矢も大変だなと矢吹は同情した。

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