第67話 もう一枚頂戴!

「できました!」


 調理が先に終わったのは旅人さん。テーブルに置いたお皿の上には、一口サイズの丸いクッキー。綺麗な薄黄色の見た目が、食欲をそそります。きっと、お店で買ってきたと言われても、疑われることはないでしょう。


「おいしそうだね。じゃあ、いただきまーす!」


 師匠は、お皿からクッキーを一枚取り、口の中へ。サクッという優しい音。モグモグとクッキーを咀嚼する師匠。その表情は、とても幸せそう。やがて、クッキーを飲み込んだ師匠は、「うん」っと小さく頷きました。


「もう一枚頂戴!」


 師匠の言葉に、旅人さんの口元がほころびます。


「どうぞどうぞ。あ、お弟子さんも一緒に」


「ありがとうございます。旅人さん」


 僕は、旅人さんが差し出してくれたお皿から、クッキーを一枚取りました。フワリと甘い香りが鼻腔をくすぐります。クッキーを口に入れると、その甘さが、じんわりと口の中いっぱいに広がりました。


「すごくおいしいですね、これ」


「やった! ありがとうございます」


「しかも、甘さが控えめだから、何枚でもいけそうです」


「もう少し甘く作ることもできるんですけどね。でも、やっぱり、クッキーは甘すぎない方がいいと思いまして。そっちの方がパクパク食べられますし、カロリー的にも嬉しいですから」


 ふふんと胸を張る旅人さん。まさか、カロリーのことまで考えているなんて思いませんでした。思っていた以上に、旅人さんは料理が得意のようです。でも……。


 この勝負、僕の勝ちですね。

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