第65話 お菓子作り勝負?

「「お菓子作り勝負?」」


 僕と旅人さんの声が重なりました。


「そうだよ! おいしいお菓子を作った方が勝ち!」


「い、いやいや。お、おかしいです。私は、森の魔女さんと魔法を使った勝負をしたいんですから!」


 旅人さんは、噛みつかんばかりにテーブルの向かい側から身を乗り出しました。旅人さんの瑠璃色の瞳が、まっすぐに師匠を捉えます。師匠がまあまあと両手で旅人さんを制すと、旅人さんは納得しきれないといった表情のまま椅子に座り直しました。


「あなたが言いたいことも分かるよ。でもね、これにはちゃんとした理由があるんだよ」


「理由?」


 師匠の言葉に、旅人さんは首を傾げます。


「あなた、さっき言ってたよね。魔女としての力を高めるために旅をしてるって」


「そうですけど……。それとお菓子作りとは関係が……」


「いや。関係あるよ。魔女っていうのは、魔法使いの中でも一際優れた女性のこと。これは、いろんな魔法を使えるとか、魔力が多いとか、そういうことだけじゃだめなんだ。魔法以外のあらゆることにも精通していないといけない。つまり、単純に何かを作る力、例えば、料理の力なんかも重要なんだよ」


 まるで学校の先生のように物知り顔で語る師匠。


 旅人さんは、「な、なるほど」と呟きながら頷いています。先ほどの納得しきれない表情はどこへやら。その瞳は、キラキラと輝いて見えました。


 そんな二人を見ながら、僕はあることを考えていました。


 ……おかしいですね? 師匠は料理が苦手なはずなんですが。


 まあ、師匠の思惑は何となく分かります。勝負にかこつけて、自分のおやつを作らせるつもりなのでしょう。僕との勝負形式にしたのは、審査員として、自分が食べるおやつの量を増やしたかったからに違いありません。


 ……今日の夕飯、師匠の嫌いなピーマン料理かな。

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