第31話 ねえ、弟子ちゃん……

「……おいしい」


 僕の隣の椅子。つい先ほどまで空席だったそこに座っているのは、幸せそうに呟く師匠。その手には、ミルクと砂糖がたっぷりと入った紅茶。


「じゃあ、改めて。郵便屋さん、今日はどうされたんですか?」


 僕は、テーブルを挟んで向かい側に座る郵便屋さんに尋ねました。師匠も起きたことですし、ようやく話を進めることができそうです。


「……ボク、実は、弟子ちゃんに頼み……というか、話があったんだよね」


「僕に……ですか?」


 一体どういうことでしょうか。先ほど、郵便屋さんは、師匠を起こしてきてと僕に言いました。それすなわち、師匠に用があると考えていたのですが。


「私を呼んだ意味って……」


 僕の隣から、そんな声が聞こえます。どうやら、師匠も僕と同じ疑問を抱いているようです。


「ねえ、弟子ちゃん……」


 郵便屋さんは、ゆっくりと椅子から立ち上がり、両手をテーブルに付けました。そのまま、テーブル越しに、上半身を僕の方へと近づけます。その顔には、以前見た、子供のような笑顔は浮かんでいません。どこか妖艶な、怪しい笑みが浮かんでいました。


 急な郵便屋さんの変化に、僕の心臓がドクドクと早鐘を打つのが分かりました。背中には冷たい汗が浮かんでいます。果たして、郵便屋さんは、僕にどんな話を……。


「ボクの、恋人にならないかい?」


 …………


 …………


 あ、夢ですね、これ。

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