5-10 何でもお見通し

「え?いきなり何を突然そのような事を…」


レナート様の言葉にユーグ様は眉を険しくした。


「私はね、ロザリーの事は何でも分かるのだよ?彼女は君を見た途端、顔色が変わった。目には怯えの色も見える。それは君がロザリーを怖い目に遭わせた証拠だ。一体何をしたのだね?」


「いいえ、僕は何もしていませんよ?」


レナート様は真顔で言う。その表情を見て私は気付いた。レナート様は何も自覚されていないのだと言うことが。フランシスカ様の為に私に言った心無い言葉は…言って当然の事だと思っているのだ。そこには悪意も何も無いのだと言うことが―。


「どうやら…君は少々常軌を逸しているようだな?少し話し合いをする必要がありそうだ」


「…いいですよ。僕も丁度話をしたかったので」


レナート様…?一体ユーグ様と何の話を…するつもりですか?

不安な気持ちがこみ上げてくる。けれど私には何も口出しする権利がない。


ユーグ様は険しい顔でレナート様を見ていたが、ノーラさんに命じた。 


「ノーラ。ロザリーを花屋まで送り届けてくれ。花の代金は上乗せしておくように。私はこの少年と少し話があるのでな」


「はい、かしこまりました。では参りましょう。ロザリー様」


「え?は、はい…。ありがとうございます。ユーグ様」


「では、ロザリー。またな」


ユーグ様が笑みを浮かべて私を見る。


「…」


そんな私をレナート様は冷たい目で見ていた事に気づきながら―。




****


 乗り心地の良い馬車に向かい合わせで私とノーラさんは乗って座っていた。何だか自分が場違いな所にいる気がしてく落ちつかない気分になってくる。


「どうかなさいましたか?ロザリー様」


向かい側に座っているノーラさんが声を掛けてきた。


「い、いえ。何でもありません」


落ち着きの無い様子の私にノーラさんはクスリと笑った。


「本当にロザリー様は愛らしい方ですね」


「え?」


突然の言葉に驚いた。


「それにおしとやかで気品もあります」


「そ、そんな…気品なんて私にはありません。教育だって…まともに受けるのはこの学園が初めてなのですから」


「そうなると、生まれ持った血筋というものでしょうか?やはり流石はあの方の血を受け継がれている方ですね。だからこそユーグ様は…」


「…」


私は黙ってその話を聞いていた。そう…だからユーグ様は私を見初めて、求めたのだから…。



「ところで、あの方はロザリー様の御学友とお話されていましたが…ひょっとすると恋人ですか?」


ノーラさんの言葉に驚いた。


「い、いえ!まさか…あの方は公爵家の方で…とても高貴な血筋の方です。とても私が近付けるような方ではありません。それにあの方には…美しい婚約者がいらっしゃるのですから」


「そうですか…でも、ロザリー様。学園生活はまだ始まったばかりで3年の猶予が残されています。賭けは…まだ始まったばかりですよ?」


そして、ノーラさんは意味深な笑みを浮かべた―。

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