第3話 新しい力、まさに開花! (完結)

 宇宙人との接触は、ソフィアなりの保険だった。王子妃としては最善を尽くすつもりだったが、クラップが愛人でも作って邪魔な自分を殺害する可能性を無視できなかったからだ。


「さっきは唐突すぎる状況だったので、つい建前を述べた。実際には、私は安心したのだ」

「でも、どうしてそんな重大な秘密を私に打ち明けられるのでございましょう?」

「ここからでられるなら、我々は愛を証明したあとだ。不可能ならどのみち他の人間に漏れはしないだろう」

「それは……おっしゃる通りではございますが……」


 だからといっていきなり愛を育めるわけがない。


「君は私よりは愛に詳しいだろう?」

「あー……そうした点では私も殿下とそれほど変わりません。申し訳ございません」


 貴族の親子が、地位に見合った愛情をわかち合うかどうかは正直にいって庶民より期待できない。結局は、ソフィアも政略結婚の道具だった。


「ふむ……ますます手づまりか」

「失礼ながら、殿下はどなたかを愛しく想われたことはないのでございますか?」

「宮殿の恋愛遊戯に興味はなかったし、そもそも忙しすぎた」


 丈夫そうな顎は、台詞を発する以外はこゆるぎもしない。


「それなら……せんえつではございますが国民を愛してらっしゃったのですね」

「そういう見方もできなくはないが、今にして思えば父上に少しでも認められたかったのだろうな」

「なにをしても通じない方はいらっしゃいますわ」

「できれば、ここにくる前にそれを聞きたかったな」


 レボルティオは二口目の茶を飲んだ。


「今からでも遅くないではございませんか」

「愛が私にも理解できればの話だ」

「私達、でございますわ」


 地位や状況をさておくならば、ソフィアはこういう男性とこそ結婚したかった。


「よくよく考えると、宮殿は愛の真反対であふれかえっていたな」

「左様でございますわね」


 誰の人生がうまくいこうといかなかろうと、悪意に満ちた噂だけが好まれる。そのくせうわべは善意をよそおっているのだから始末が悪い。


「もしでられたら、どうする」

「まず実家に帰りますわ。それから両親を説き伏せて、どこか別の強い国と同盟を結んで王国を征服致します。そのために必要なら喜んで政略結婚でもなんでもしますわ」

「君の方がはるかに国王にむいているな。はははははは」

「あら、殿下。笑顔がとても素敵ですわ」

「そうか? ああ、楽しくて笑ったのは生まれて初めてだ」

「殿下は特別に生かして差し上げますからご安心なさいませ」

「それは私の台詞だ。返り討ちに合いたくなければそれこそ結婚しろ」

「まあ、政治的にも精神的にも拒めませんわ」

「被験体二人の真意が百パーセント自分達で『愛』と考える概念に一致。実験は成功した」


 宇宙人の告知が無造作にくだされた。


「約束通り、お前達を解放し……」


 耳を引き裂くような破裂音と爆発音が轟いた。部屋がぐらぐら揺さぶられ、テーブルが倒れてしまう。


「きゃあっ!」

「ソフィア!」


 椅子ごと転んだソフィアを、レボルティオは一足飛びに駆け寄って助け起こした。


「警報! 警報! 侵入者検知! 侵入者検知! 自動警備システム……」

「やかましい!」


 全く聞いたことのない男性の声がして、部屋の壁が外側から四角形に切り開かれた。


 そうして現れたのは、黒づくめの上下に黒頭巾をまとい、背中に刀らしきものを背負った人物だった。胸元には鎖かたびらがちらっと見える。その右手には、灰色がかった小柄な人間に近い姿の生き物が抱えられていた。正確には、白衣姿で髪のない紡錘形ぼうすいけいの頭をした何者かを抱えている。


「誰だ?」


 剣の柄に手をかけ、レボルティオはソフィアを自分のうしろにかばった。


「我はさすらいの宇宙忍者、ホシカゲ。我がさすらいに終止符を打つべく、貴殿らが成し遂げた『愛』を頂戴致す!」

「よくはわかりませんが、私達を誘拐するつもりなのですね」

「う……宇宙忍者などといっているが、実態はただの傭兵だ。誰かに雇われて私の研究成果を……」

「黙れ! 小灰色しょうかいしょく!」


 たしかに、ホシカゲが抱える白衣の紡錘頭は灰色の肌をしている。


「ようやく自由になろうというとき、お前のような乱暴を許しておけるか!」

「ほおう、面白い。己の剣に自信があるようだな。ちょうどいい、こちらは小灰色を抱えたままで相手してやる。その方が腕の差を埋められるだろう」

「なめるな!」


 剣を抜いて斬りかかるレボルティオ。刃があっさりとホシカゲの眉間を割った。そのとき灰黒色の煙が膨らみ、刃はホシカゲではなく突然現れた丸太に突き刺さった。


「むむっ!?」

「もらった!」


 いつの間にか天井近くまで跳躍していたホシカゲが、自らの刀を抜いて切っ先をレボルティオの頭に据えつつ落下する。


「イヤーッ!」


 ソフィアの悲鳴とともに、ホシカゲの刀がボンッと音をたてて花束に変わった。その反動でホシカゲは壁まで吹き飛ばされ、背中を叩きつけられて気絶した。小灰色が手から離れる。


「ケチな雇われ忍者め! これで……」


 小灰色は白衣のポケットに手を突っ込んだ。レボルティオは丸太から剣を引き抜いた。


「やめて下さいませ!」


 ソフィアの声に、二人は動きをとめた。


「ホシカゲ様もまた……愛に飢えた方なのです。でも、私達の国でそれを学べば雇い主様にもより大きなお土産をもたらせますわ」

「本気か? 宇宙忍者など信用ならんぞ!」

「私……たった今、新たな力に目覚めましたの。敵意を花に変える光線! 名づけて『ラブラブピースフラワー』ですわ!」

「ざまあ光線に輪をかけて腐り切ったネーミング……」


 ソフィアのまなざしで、小灰色の台詞が空中で花束に変わった。


「ま、まあいいだろう。こちらからすればいい厄介払いだ。データも獲得できたしな」

「ではホシカゲとやらを起こそう」


 レボルティオは剣を鞘に収めた。


「待て。もう起きている」


 ホシカゲは首と腰をさすりながら起きあがった。


「ホシカゲ様。あなたも愛を学ぶのです」

「我を倒すとは大した奴。修行かたがたその通りにしよう」

「どうやら決まったな。では、さらばだ!」


 小灰色の言葉が終わるのと同時に、三人は宮殿の謁見室に戻った。これから三人が国をまとめ直す物語へとつながるのだが、それはまた別の機会に明かされねばならないだろう。


              終わり

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ざまあ光線で出オチざまあをキメた侯爵令嬢ソフィアは、宇宙船の中で好きでもない王太子と愛を確かめる実験に参加させられ宇宙忍者と対決する。 マスケッター @Oddjoh

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