ざまあ光線で出オチざまあをキメた侯爵令嬢ソフィアは、宇宙船の中で好きでもない王太子と愛を確かめる実験に参加させられ宇宙忍者と対決する。

マスケッター

第1話 ざまあ光線発射!

「ローレンツ侯爵家長女、ソフィアよ。そなたと我が三男であるクラップとの婚約を破棄する」


 白昼、満座の謁見室で冠をかぶって玉座に座った老人……国王にしてクラップの父がソフィアに宣言した。重苦しい雰囲気をかもしだすはずの列席者達は、どこか表情が緩んでいる。


 それには八月という季節が間接的に絡んでいた。この月、宮殿でも一番大きな舞踏会が開かれる。そこかしこの物陰で自由恋愛に名を借りた子孫繁栄が繰り広げられるのだから。とりわけ王族のタネを頂戴するために令嬢達が血眼になる。その意味で、ソフィアの受けている仕打ちは自分達の機会が多少なりとも増えるのを意味した。


 国王の左うしろ脇には、たった今まで婚約者だったはずのクラップがたっている。型通りの礼服を身に着けた、教養や見識よりも流行りの髪型に熱心な若者。


 ソフィアは十八歳なのに対し彼は十九歳。もちろん政略結婚だったし、半年ほど前にここ謁見室で書類に署名したきりクラップには会ってない。遊びたい盛りのクラップがソフィアを避けていたのはみえみえだった。その間、彼女は国政なり社交なりを懸命に学んできた。


「陛下のご決断、慎んでお受け申し上げます。恐れながら、後学にも致しますればどのようなとがが私めにあったのかご教示賜りますれば幸甚に存じます」


 下げたくもない頭を下げると、ソフィアの両頬から金髪の縦ロールが揺れた。白い長手袋をはめた細い腕がかすかに震える。襟をきゅっとしめていたので胸元は見えない。この季節が近づくと、暑さも手伝ってどの令嬢もぎりぎりまで肩や胸をはだけるドレスを競って身に着けていた。なみの女性よりは胸にも腰にも自信があったものの、ソフィアは自分からひけらかしたりはしない。


「うむ。それは、本人から語らせよう」


 形ばかりなおごそかさで王が宣言すると、クラップが一歩進み出た。蛇足ながら、他の王子達は公務でこの場にはいない。


「では、お許しを得まして。ソフィアよ、そなたは男子を喜ばせるための技があやふやなのだ。日がな一日図書館にばかりこもっておるではないか。そんな人間との夫婦生活など想像するだにおぞましい」


 そこで、列席者の間からくすくすと笑う声が聞こえた。控えめなようでいて、かなり露骨な嘲笑だった。要するに、宮殿のどこにも居場所はないのだから実家にでも引っ込んでいろという意味合いだ。


「かしこまりました。ありがとうございます。それではごめんあそばせ」


 顔をあげたソフィアの両目から、本人の瞳と同じ緑色をした二条の光線がほとばしった。一つは玉座ごと国王を蒸発させ、もう一つはクラップに同じ最期をもたらす。床には焼け焦げ一つ残らなかった。


「きゃあああぁぁぁ!」

「衛兵! 衛兵はどこだ!」


 着飾った貴族達が文字通り泡を吹いて右往左往し、謁見室は大混乱に陥った。


「ヲホホホホホホホホ。理不尽な屈辱を他人様に与えるとこうなりますのよ。さ、おどきになられまして?」

「わーっ! わーっ!」


 ソフィアが回れ右すると、出入口に群衆が殺到して互いに踏みつけ合いを始めた。


「醜いですわね、普段から心得を鍛えてらっしゃらない方々は」


 まとめて蒸発させることもできたが、さすがに乱暴すぎる。それで、ソフィアは国王親子を蒸発させたのと同じ光線で壁に穴を開けた。


 どうせ始めたからには、残りの王子達と全面対決する以外にないだろう。幸い、この宮殿に全員いる。長男と次男の二人。


「ソフィア殿、おとなしく身柄を……」

「ごめんあそばせ」


 自分を捕まえにきた甲冑姿の衛兵達の剣と兜を蒸発させた。あまりにもナンセンスな威力に、屈強な彼らもぽかんと口を開けたままたち尽くす以外になかった。


 ソフィアにとって、問題は二人の王子を宮殿から逃がさないことだった。長男は、最上階……五階の執務室にいる。いつでもやれる。問題は次男だ。


 ふと窓を見ると、中庭にあわだしく衛兵達が集まっている。その中心に、王族用の馬に乗った人間がいた。ソフィアに言わせれば愚の骨頂だ。


「ごめんあそばせ」


 三度目の光線は窓ガラスも壁も消し去り、馬上の第二王子に命中した。はずだった。彼女としては不本意なことに、光線は大半が跳ね返されてしまう。光線にも欠点はある。射程距離がそれほど長くないし、遠くなるほど威力は落ちる。


 第二王子は背中に火傷を負い、振り向いた。ソフィアと目が合い恐怖と憎悪にひきつった表情を見せる。魔法かなにかで個人的に防護されているに違いない。


 謁見室はそこにくるまで厳重な身体検査や魔法探知を施されるので無防備になっていたが、この分だと長男にも奇襲は効かなさそうだ。だが、防護魔法といえども全能ではない。今一度攻撃を当てればいいだろう。


 と、次男は馬に拍車をかけてせきたてた。せっかくの衛兵を跳ね飛ばしながら外に出ようとしている。


 謁見室は一階にあるので、ソフィアはドレスの裾を両手でつまみ自分がたった今開けた壁の穴から中庭に出た。まだぎりぎりどうにかなる。


「ごめんあそばせ」


 改めて放った光線は、今度こそ次男の背中を貫いた。


「ぎゃあああぁぁぁ!」


 一瞬で蒸発とはいかず、次男は馬に乗ったまま燃え始める。そのくせ馬はなんともなかった。


 断末魔の次男が馬から転げ落ちたのをしり目に、ソフィアは回れ右して宮殿に入り直そうとした。


 そのとき、空から虹色の円柱型をした光が降ろされた。光はソフィアの全身を包み、見えない手で持ち上げるかのように空中へ浮かべていく。それも、どんどん高く。


「あ~れ~」


 こうなると光線も役にたたない。ソフィアはどこまでも高く宙を浮き、やがて意識を失った。


「覚醒手順、完了。被験体の健康状態、良好」


 甲高いキーキー声と共に、ソフィアは目を覚ました。

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