第49話 ソレが奏でる祝詞
「……」
「……」
「……時雨ちゃん」
「……なに」
「あれ時雨ちゃんのお姉ちゃんだよね?」
「……一応」
お泊まりも充分楽しみ、あとは帰るだけ――なのだが。『有馬』のネームプレートの横から顔を
「すっごい不審者っぽいね」
「不審者でしょ。ほとんど」
「じゃあ早く行ってあげて。多分あのままだと通報されちゃう」
最近は輪をかけて過保護になってきて正直
だがわざわざ迎えに来てくれたのを無下にするほど時雨も性悪じゃない。ため息をつきながらも姉の方へと歩いていった。
「じゃあね光ちゃん。また明日」
「うん。兎の餌やり忘れないでね」
「う……自信ないから起こしに来てよ」
「考えとくー」
「久しぶり!元気だった?ご飯は食べた?ちゃんと寝た?」
「1日泊まっただけでしょ。……はぁ、ご飯も食べたし、ちゃんと寝たよ」
「さっすが私の妹!」
「恥ずかしいからやめてよ……」
サラッと手を出す。『手を繋いで帰ろう』という顔にそっぽを向いて返した。
「そんな怒んないでよー。お菓子買ってあげるからさ」
「物には釣られないし、そんな子供じゃない」
「えぇ……そっか」
悲しそうな顔――また時雨はため息をついた。
「……でも欲しくないとは言ってない」
「――そっかそっか。じゃあスーパー寄ろ!」
「もう……」
――今度は『仕方ない』と顔を緩ませながら村雨と手を繋ぐのだった。
そうして午後5時。2人はお菓子の袋を手に持って家へと帰宅した。
「……?」
――違和感。一見何もないように見える。外観。景色。いつも見るような光景。田舎の古い家だ。
だがなぜだろう。体が入るのを拒否した。
「?どうしたの村姉?」
「……ちょっと待ってて」
時雨を外で待たせる。村雨は嫌がる体を無理やり動かして
喉が痛い。体が重い。呼吸がしずらい。今までこんなことはなかった。風邪にすらかかったことの無い健康優良児だ。さっきも元気だったし――ならばこれはなんだ。
ドアに手をかける。……重い。異様なまでに重い。実際に重いのか。はたまた――心理的な重さか。
しかし人が作った以上、『無限』という言葉は存在しない。重さに苦戦しながらも村雨はドアを開けた――。
まず感じたのが血の匂い。同時に入ってきた情報は視界。そこには――血だらけで倒れている祖母の姿があった。
「――お婆ちゃん!?」
すぐに駆け寄る――。
「――ダメだ来るな!!」
奥から祖父の声。廊下の先を見てみると、脱衣所から顔と右腕だけ出している官寺の姿があった。
「お爺ちゃん!?」
「すぐに逃げろ!!警察へ行け!!」
「わ、分かった」
走り出そうとした時――『ズッ』という鈍い音と共に官寺が脱衣所の奥へと消えていった。
「え――――」
ソレは見ていた。
『――あはは』
過去の――5歳の頃にも見た。あの顔が。
『――貴女。青谷村雨ちゃんだよね?』
あの笑顔が。そこにあった。
『……ナーンてね。そこで待ってろ。今すぐ殺してやる』
動けなかった。トラウマが湯水のように溢れてくる。思い出してくる。
鎌で襲われた時。
首を絞められた時。
――家に出てきた幽霊。
足がすくむ。棒になる。腰だって今にも抜けそうだ。そんな村雨を見て
ゆっくりと廊下へ出ようとした――その時。
「――お姉ちゃん?」
時雨が家の中へと入ろうとしていた。
――
『キモイキモイきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいお前はお前はお前は――――お前が腹の子かぁ!!!!』
この時。村雨は思った。『妹だけは何としても
だから――体が動いた。
「え!?お姉ちゃん!?」
困惑する時雨。説明している時間などなかった。とりあえず知り合いのいる交番へと向かった。
追いかけようとする
「あ……の……子たち……に……手を……出すな……ぁ」
既に瀕死。既に死に体。放っておいてもすぐに死ぬであろう老人だ。しかし覇気がある。威圧感がある。覚悟がある。
真っ赤に充血した瞳で
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