【第1章】彼女とボクの幸せな日々
第1話
「ねぇ! 朱宮さんはどこから来たの?」
「髪すごく綺麗だね!」
「だよね! あたしなんてごわごわ~」
「確かに~」
朝のホームルームを終えた途端、一部の女子が転校生に話し掛けていた。彼女は机から動こうとしていたが、それを遮る形で。
そのせいか、どこか引きつった笑顔のままだ。
このまま解放されないことを悟ったのか、急に机から立ち上がり————
「ごめんね。今度ゆっくりお話ししましょ」
そう言い放ち、真っすぐボクの方をめがけて歩みを進めてくる転校生。
教室に入って来たときはあんなに気だるそうだったのに、今はそんなことを感じさせないくらいウキウキとした雰囲気を漂わせている。
「シュウちゃん……だよね?」
「……ユヅ……ちゃん?」
「やっぱりシュウちゃんだぁ~!!」
周りの視線なんて気にせず、ボクに抱き着いてきた。
女の子特有の柔らかい感触。艶のある髪の毛がボクの頬をくすぐる。
そして、ほのかなバニラ系の香り。
それだけで彼女の虜になってしまいそうだ。
でも、
「ちょっと離れて!」
渾身の力を込めて彼女を引き剝がす。
渾身と言っても、握力は平均から程遠いので、押し負けてしまいそうになったけど。
「あ~、もう!」
「学校終わったらゆっくり話そ? もう授業始まっちゃうし」
「ぶぅー。わかったよぉ。絶対だよ? 先に帰っちゃいやだよ?」
「分かってるって」
不服そうな彼女を見送りながら急いで教室を出る。
ただでさえ目立つことは好きじゃないのに、彼女のせいで変な視線を向けられてしまった。
でも、
「また会えたんだ……」
思わず顔がほころんでしまったが、トイレの個室に籠ることで平静を取り戻す。
ユヅちゃんも忘れないでいてくれたんだよな。
教室で目が合った瞬間、お互いに気付けた。
素直に嬉しい。
さっきはとっさのことで少し荒っぽくなっちゃったけど、ちゃんと謝ろう。
そして、また子どものときみたいに仲良くしたい。
そうこうしているうちに、廊下に響いていた喧騒が段々静かになってきた。
そろそろ1時限目の授業開始のチャイムが鳴ってしまう。
これで遅れて行ったら、また周りから変な目で見られてしまう。
そんな事態を何としてでも回避すべく、再び急ぎ足で教室に戻ることにした。
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