131 南十字星を見に行った日の事

 こんにちは。


 今日はちょっとだけ文章を書くやる気が出たので、南十字星の旅の一日目を書きました。今日の分の代わりに置いておきます。全部そろったら、ちゃんとひぃちゃん、つれづれに公開します。


 なぜやる気が出たかと言うと、多分いつもとは違う事をしたかもしれません。

 今日は縫物じゃなくて、アクリル絵の具と筆で、ボタンに絵を描いていたから。私の縫物を販売してくださっているお店がとある動物グッズの専門店なので、グッズにしばりがあり、ボタンを加工して動物の絵柄にしていたのです。絵は描けないのでめちゃくちゃ簡単なものですが。

 気分を変えるスイッチは、やはり「いつもと違う何か」という事でしょうか。


────


 行ってきました。やっとです。やっと。

 お待たせしました。ひぃちゃんにも「ひぃちゃん、つれづれ」を読んでくださっていた方にも、そして私自身にも思う。

 

 石垣島です。

 ひぃちゃんと行けなかった、いつか一緒に行こうと言っていた、ひぃちゃんが一生に一度は絶対に見たいと言っていた南十字星を見る旅。


 私が沖縄で予定があって、それに便乗して沖縄にひぃちゃんが来るというイベントが発生した時は、結局のところ時期外れの秋で、南十字星が見える時候では無かったので石垣島に足を伸ばすのを断念したのでした。

 なのでその時は本島だけを一緒に観光して回ったのだけど、今思えばあの時が、飛行機に乗るような遠出が出来るタイムリミットだったのだと思う。その時も帰りの空港でグッタリな様子のひぃちゃんを見て、早く行かないと時間が無いな、とも思っていたけれど、それを打ち消すように、まだまだ彼女は大丈夫だと思っている自分もいて。本当に行ける時に実行しないと、後悔ばかりが残るものです。


 そんなこんなで、なかなかお互いに石垣に行こうとは言い出せず、そのうち楽観的に考えても旅行が厳しいと思える状態になり、コロナ禍にもなってしまい会う事すら躊躇われるような世の中になって、そして永遠に会えなくなってしまった。


 去年、彼女が亡くなった後、すぐにでも彼女の「パスポート無しで見に行けるのなら、一生に一度は絶対に南十字星を見たい!見るべき!」という思いを引き継いで見に行きたかったのだけれど、同じ時代を過ごした方ならご存じのとおり、沖縄自体が島である事、陽性者が多い事、石垣島が離島でもあり、もしもの時に迷惑をかけてしまうという事など、感情的に強行することが出来ずにいた。もしもを考えると急いでいったところでひぃちゃんはきっと喜ばない。そして6月からの半年は行っても南十字星を見ることは叶わない。

 そうしてやっと、第3波も収まって来たタイミングで行って来たわけです。


 行く事を決めたのは、彼女の1回目の命日。ご実家へお参りをした帰りに勢いで決めた。「せっかく集まったんだから楽しい事をしよう!」とひぃちゃんが背中を押したようでした。


 まず、私たちが行く事を決め飛行機も宿も予約をすると台風発生。もうこんなのは慣れっこです。

 笑いの神に寵愛を受けし、ひぃちゃん絡みの事案です。そんな事は予定通りと言っていい。でも、私たちは結局笑い事で終わる事を知っているので、大丈夫だろうと。


 そして出発3日前の時点で、宿泊予定の宿のクーラーが故障案件勃発。

 はいはい、そう来ましたか、と。泊まる予定の宿は部屋が一室しかなく、一組しか泊まれない宿だったので替えがきかないし、しかも修理が間に合わないそうで、宿を変更されますか?と連絡が来た。

 言っても私は、湿度が高く夏は灼熱で有名な盆地に住んでいますが、夜はクーラーは使いません。ヤバい日は氷枕で寝ます。なので平気なのです。

 沖縄本島に在住の友達に教えてもらったのだけれど、島は高い山が無いから、海風がずっと通り過ぎて空気が籠ることが無いとも聞いていたし、宿は海にほど近い場所だったので、全く心配はありません。

 なので宿も変えることなく、そのまま続行で。クーラー無し?私からしたら逆に有り難いくらいです。



 そんなこんなで当日。

 当初心配されていた台風は、もっと南東の位置でぐいっとくの字に曲がってくれて天候には問題も無く。

 空港で一緒に旅をするあーちゃんと合流。旅の予定が「南十字星を見る」という事だけで動いている我々は、旅の予定がまったくのノープランで、しかもあーちゃんは修羅場開け……開けていたのだろうか?(汗)なので、細かな予定も詰めれていない。付け焼刃で、あんなことがしたいとか、どんな場所があるんだろう?と空港の本屋さんでガイドブックを見る始末。


 しかし、またもやここでも、ひぃちゃん事案発動。

 飛行機が来ないのだ。結局搭乗も遅れ、その上、席に着いた後も乗り遅れている人がいるのか、乗客の人数確認をしていると何度もアナウンスがあり、なかなか飛ばない。

 まぁね、あるあるですよ……と「素人は黙っとれ……」精神で心を落ち着かせる。私たちは直通の飛行機だったので、もし本島経由だったとしたらもっと時間がかかっているはず。なので、時間を“そもそも”得しているんだし、と。


 

 石垣空港に到着をして一番に思ったのは「想像していたより暑くない!」でした。

 もっと暑かったらどうしようと思っていたのだけど。だって大丈夫だとは思っていたけれど、本島よりもかなり南に位置している石垣。私の基準は本島までしか経験したことが無かったので、予想をはるかに超えて暑かったらどうしようかと。

 

 すぐにレンタカーを借りて出発。

 本当は初日もドライブなりフラフラと島を観光したかったのだけれど、飛行機が遅れたこともあり直ぐに宿に向かいました。

 ちょっとわかりにくい場所にあるという情報が先にあったので、先入観で少し道に迷い……。神社から2つ目の道を曲がると教えてくれていたら簡単だったのだけど……「この問題難しいよ~」とか「あの人気難しいよ~」と先に言われると先入観でドツボに入るやつですね。

 しかし私はこの道に迷った事で、一人だけシロハラクイナという鳥を見かけることが出来ました(笑) 得した~ ←


 宿に着くとクーラーが故障してしまっている事が申し訳ないようで、オーナーのお気に入りのお店のパンを頂いてしまいました。しかも私たちは今回、南十字星を見るという事だけで来ているので殆どノープラン。食べ物屋さんでオススメは有りますか?と尋ねると、車で送ってくれるという。

 宿の周辺はリゾートホテルしかない場所でご飯を食べられる場所が無いのです。分かっていて選んでいるので、最悪コンビニでご当地お弁当でも良かったのです。でも、もしオススメのお店があるなら車で移動をするつもり満々だったのだけれど。車で移動しても私は飲酒をしないので大丈夫なのですが、駐車代はかかってしまう。色々考慮した結果、タクシーで帰ったとしても問題が無いので送ってもらう事にしました。



 送ってもらう道中、ホタルを見に行きませんか?とお誘いを受けて急きょ、バンナ公園へ。 

 そんなお誘いが無ければ絶対に行かない。だってホタルが見られる事すら知らないし。どのポイントで見られるかなんて慣れた人が一緒じゃないと分からない。

 車を停めて、街灯も無いジャングルの中、アップダウンの激しい道をひた歩くと、闇の奥に激しく点滅する光が。

 もともと沖縄のホタルは激しいとは聞いていたけれど、ここまで違うとは知らなかったし、それをリアルに見ることが出来て感動しました。

 本州のホタルはゲンジボタルやヘイケボタルで点滅の感覚がゆっくり、又は点灯がホワンとオンオフでは無くフェーダーを上げ下げしているように、ぽわ……ぽわと光ります。私が今回見たのはヒメボタル。本州にもいるそうですが夜中に森の中に行かないと見られないそうで。

 ヒメボタルは点滅の間隔が非常に短くピカピカ、バチバチと激しく光ります。土ボタルもそこかしこで、目の錯覚かな?という儚い光を放っているし、なかなか体験できない夢の世界。初日の観光が壊滅的だった私たちにとって、大逆転の一手でした。


 何より夜の熱帯のジャングルに足を踏み入れる体験など、そういうツアーにでも参加しない限りなかなか経験しないので本当に楽しかったです。耳から入って来る音や匂い。匂いはマスクであんまり感じ切れなかったけれど、少しずらして嗅ぐ匂いにハッとさせられました。もっと土や水の香りだと思っていたら、柑橘系に近い清涼感のある香り。スッと心が浄化されるような、そんな香りでした。

 マスクが無かったら、もっと感じられたんだろうけれど。残念だなぁ。


 しかし後から思えば、もしひぃちゃんが一緒に行ったとしても、怖くて連れていけなかったなぁ。

 蛍は求愛のために光を放っているので、自分の光よりも強い光を見ると光るのを止めてしまうので、足元を照らせないのです。なのにあの遊歩道は柵の無い橋や曲道や、階段も多く、曲がりながら段にもなっていたし、血を出したら止まらないし、これ以上骨を折ったら対処のしようがない状態の彼女を連れては行けなかったな……。今回は私たちの後をフワフワ付いてきていたかも知れないですが。


 その後で、紹介してもらった居酒屋さんも美味しくて安くて。満腹を通り越して食べ過ぎました。いつもの事です。食べきれなくて折り詰めにしていただきました。

 地元の人に聞く地元の人が行くお店って本当に良いですね~。

 あとは居酒屋から徒歩で行けるスーパーも教えてもらったので、そこで飲み物やら自宅に送る事前提の地元食材のお土産を買いこんでタクシーで帰宅。(味噌やアーサ、イカ墨をゲット)

 

 そしてここからが本番。今回の目的は南十字星。

 この宿に決めたのも、南十字星が見える岬まで徒歩で行けたから。

 前もって宿のオーナーに南十字星は見えますか?と聞いていたのだけど、地元の方は南十字星はそんなに注目していないようでした。「南十字星を見るなら波照間だよ」と。確かに、波照間まで行けばもっと見えるのでしょう。でも、ひぃちゃんはギリギリを攻めていたので石垣で見たいのです(笑)

 見えないよ、とまでは言い切られなかったけれど、南十字星よりも天の川をすすめられました。一応、見える方向は教えてもらって。正座早見表も部屋に備え付けられていて、見たけれど、あんまりよく分からなかった。

 頼りにしているのは、天文台からのネットのライブ映像。岬の灯台近くまで歩いて行き、スマホの画面をにらめっこしながら、あの辺りに見えるはずと張り込みを開始しましたが、ライブ映像も、もちろん肉眼で見ている空も雲ばかり。そして、その雲に街の明かりがハレーションを起こしていて、南十字星が見えるはずの水面近くが明るいのなんの……

 

 

 そして、いつからだっただろう。オススメされていた天の川が見えないのも、月が明るいからだという事実に気が付き打ちのめされたのは……

 いや、星クラスタの方々の中では当たり前の常識なんでしょうね。そしてちょっと考えれば分かる事でした。星を見たければ新月ですよね……

 ほんっとうに、月が明るくて。さっきジャングルを歩いた時だって、月が明るいから私は何とか足元の悪い遊歩道を歩く事が出来たので。「月の明かりって本当にすごいねー、明るいねー」なんて言いながら。詰みましたよね……


 まぁ月が無くとも、そもそもが石垣の繁華街の明かりと竹富島で雲がせき止められて晴れない場所という二重苦。そう簡単にはクリアできない難関だという事を思い知りました。

 難しい事だとは思ってはいても、そこは何とかなっちゃうんじゃないのー?と思っていた甘い考えが打ち砕かれた瞬間でした。


 誰も近寄る事のない岬で海を眺めて。前は海。下は磯。後ろは公園……というか雑木林。

 何の話をしただろう。あーちゃんは暗闇が怖くてぞわぞわすると言っていただろうか。私は全く怖くは無くて。きっとあーちゃんの感覚の方が正しくて、昔から人間が自然に対して感じている「畏怖」という物がそれにあたるんだろうなぁ、と考えていた。

 私はそれより暗闇から風で鳴ったのではない人がいそうな音や、道路の方から人が私たちの方へやって来るのが見えたりしたら怖いなぁと思っていたので……感覚が毒されているというか……。それも大切なことなのでしょうが。


 空は曇って、星は見られ無さそうで。心はそこそこ落ち込んではいましたが、波の音が心地よくて。ただそれだけでした。

 そこに居る自分が不思議で。あぁ、私はとうとう石垣島に来たんだなぁ、と現実味が無いような、心底実感しているような……


 ウインドブレイカーを着ていましたが、海風に当たり過ぎて体も冷えて来たし、厚い雲は無くなりそうもないので、その日は撤収です。

 翌日は5時起きで、船でしたからね。


 結局のところ、私は眠れなくて、目を瞑ってベッドでお布団にもぐって朝を迎えました。時々は寝たと思いますが、あーちゃんが仕事をしつつ空の様子を眺めたりしている気配を感じて夜が過ぎたという感じ。


 この日はひとまず、ひぃちゃんの形見のベリルのネックレスをつけて、ひぃちゃんの代わりのブラックメンフクロウのぬいぐるみと一緒に石垣島へやって来た事で良しとする日でした。


 こんな事でも無ければ、私はきっと石垣島へは来なかったと思うから。

 


────






 朝からタレントさんの訃報を知り、先日も俳優さんの訃報があり……淵に立たされるような繊細な性格はしていませんが、それでも心は風に吹かれます。

 それにあまり左右されないように気を付けてはいますが、なかなか辛いものですね、直接の知り合いでは無くても存在を、仕事を、笑顔を知っている人が自ら命を絶ったという事実を知るのは。

 


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