76 ダメダメな日はリュックからチューリップ

 こんにちは。


 今日は久しぶりに遠出をしました。海を見たのは、どれ位ぶりだろう。

 琵琶湖なら、去年見たんですけどね。ひぃちゃんがご贔屓にしていた、琵琶湖湖畔にあるお魚屋さんにお買い物へ行った時です。

 海や湖が日常的に見える所に住んでいる方にはピンと来ないかもしれないですが、大量の水や水面の輝きを見ると、心が高揚してなんだか浄化されるものなのです。

 あの感覚って何なんだろう。


 といっても海を見に行ったのではないのです。海は副産物というか。

 地理的に当たり前な話だったのだけれど、車窓から海が見えると思っていなかったから、すごく得した気分でした。


 行ったのはとある方の個展です。

 瀬戸内海が見えるとある町でありました。


 作家さんが在廊している事は知っていたのですが、挨拶も会釈くらいで受付の方に個展開催のお祝いのお花を渡して、ふらっと見学をさせてもらって帰ろうと思っていたのですが……罠がありました。


 個展があった場所は博物館の展示スペースだったのですが、博物館って生花を入れる事が出来ないんですね(?)そんな事初めて知りましたよ……というか最寄り駅まで来てから、順路を検索するのに美術館じゃなくて博物館だと認識したくらいだったので……


 博物館の受け付けで留められてしまい、お祝いの花だと言うとロッカーがあるからそこに預けるように言われ……渋々入れたわけですが……。ルールなんで。

 まぁ博物館だから生ものはダメなんでしょうか。撤退後も何かが残っていたら……という事かな。虫とかもかな?

 

 私は個展開催ってなかなか出来るものじゃないから(作品を作り溜めるエネルギー的に)、お花を贈るものだと思っているので個展に行くときは出来るだけ持参するのだけれど。実際にアレンジメントやブーケが行けば並んでいるしなぁ。実際はどうなんでしょうね。持っていく人の方が稀なんでしょうか。


 とにかく そんなこんなで、私の印象を残さないように気配を消して人知れず帰る、という任務は初っ端で挫かれてしまいました。

 作家さんに「じつは……」とロッカーに預けている事をお伝えをするという……こんな印象に残ってしまうよなアホ行動。……何がアホかって、手間をかけてしまうから。

 ロッカーから荷物を受け取るのに、ロッカーの鍵は受付に預けないといけないそうで……(最初は自分で作家さんにロッカーの鍵を渡すか、玄関の隅に置いておくかの二択と言われたのだけど、なんでか受付に預けないとダメと言われた。謎だらけだ)

 本当に申し訳ない気持ちになったのだけれど、まだ誰かも気が付かれない間にさっと帰ればまだ大丈夫だと、気を取り直して作品を見て回りました。



 もうね、すごすぎて。

 実はずいぶん前から知っている作家さんだったのです。でもSNSのアカウントもフォローしたら、別の活動のアカウントを追いかけている身としては、申し訳ない様な気がしてずっと、こっそり好きだった作家さんで。

 どれも隅々まで丁寧に細かく繊細に描かれていて、絵が素晴らしいのは当たり前なのだけど、世界観がすごい。もともとツイートの言葉がすごいと思って注目し始めた方なので、新しい世界を生み出す力や、元からある事を大きく膨らませたり発想を飛ばしたりする才能がすごい。だから天才なんだなと。

 題材は身近な事からファンタスティックな事もあるのだけど、全部融合して作家さんの世界になっている。

 そして、生き物が動き出しそう。


 桜とメジロを描いた作品に引き込まれた。

 それまでずっと泣きそうなのを我慢していたのだけど、その絵でもうダメだった。感動して泣きだしてしまって、どうにも涙が止まらなくて。

 絵を見て感動したりステキだと思う事はあるけれど、泣いたのは初めてだった。


 今にも絵からそのメジロが飛び出して会場を飛び回りそうだった。

 そして私は未だかつてメジロを保護したり育てたりした事は無いのに、なぜかそのメジロを知っている気分になってしまって。

 素晴らしい絵と言うのは、そういうものなんだなぁって、初めての感情だった。向こうから入って来る。

 同時に雛のまま飛ぶことも出来ないまま亡くなってしまったインコの事や、保護されたメジロの状況をタイムラインで追いかけた事もあったりした事を思い出してしまって。


 もうそこからどの絵を見ても泣いてしまう。

 だって本物の才能ってこういう事なんだなぁって、どれを見ても思ってしまうから。

 どれも知らない世界で体験したことなんてあるはずないのに、いつも隣にあったような身近さを感じてしまう。


 頑張って心を落ち着かせて、泣き止む頃合いを見極めて、そそくさと会場を後にしようとしたのだけど、呼び止められてしまった……記帳で。今後DМがあるなら頂きたいなぁと下心が湧き上がってしまって、結局書いてしまった。アホだ。


 そうしたら、私が絵を見ている間に花束を確認しに行ってくださったようで。本当に申し訳ない。お手間を取られてしまって。

 しかも、そこまでしてもらっては感想を言わずに無言で帰るのなんて無理でしょ?

 だから良かったです、と一言言おうと思ったけど、ずっと我慢していたのに再び泣き出してしまって。感想を言うという事は、作品を思い出す事だし感じたことを言う行為だから。そりゃ泣きますよね。

 最悪ですよ。ただのキモイ奴ですよ……

 一番泣いてはいけない場面で。相手の立場になると困るだけだし。言葉の掛けようもないし。


 どうにか早急に立ち去らなければと声を出そうとしても、声を出す=嗚咽になりそうな状態で。

 ぐしゃぐしゃの顔のまま短くとも五秒は静止していただろうか。もう穴があった入りたいし、なんだったらいっそ頭を撃ち抜いて殺してくれ!と言いたい心境でした。

 あぁ、その瞬間、サンバ隊とマツケンが脈絡もなくなだれ込んできて、有耶無耶にしてくれたらよかったのに。

 いくら待っても軽快な旋律は聞こえてこないので仕方なく、泣いている事を言わないのも不自然だし、触れていいのか腫れ物Maxだろうし。「絵を見て感動したのは初めてです」などと、そこだけ切り取ったらよくわからない一言を何とか絞り出し「画家冥利に尽きます」と苦しい返事をさせてしまい、私はトボトボと肩を落として帰って来た。


 私の行動の全てが一級の仕出かしでした……今日は。


 帰りの電車も絵を思い出したら感動して泣いてしまうし、仕出かした事を思い出したら、これまた落ち込んで泣いてしまうし。花粉症がひどいです……という体を装って殆ど泣きじゃくりながら帰って来た。

 今も私のテイタラクを書きながら泣いてる……


 こんなダメ人間おらんやろ、と。はぁ。

 なんだろうか。今日は打ちのめされる日だったな。私はダメ人間です。ほんと。救いようがないわ。


 あぁそうだ。

 失敗の大元のブーケは昨日言っていたスイートピーです。

 お目当ての紫のスイートピーが、お店にあったのだけど目の前で「もう寿命なんで」とグシャっとひねりつぶされゴミ箱に入れられてしまいました……。思えばそこから私のダメ人生が始まっていたのかもしれないな(汗)

 なので、うすいピンクと濃いピンクと黄色のスイートピーだけの花束を持って行きました。

 

 スイートピーは春らしいフリフリのフリルと、どんなふうに生けても様になる花だし、まぁまぁ持ちもいい(茎が腐りにくい?)のでプレゼントするのは最適かと思っています。花束ってもらってもセンス良く飾るの難しい物でしょ?

 あー、私もスイートピーの花束がもらえる人生になりたかった。


 しかも今日は行きに、去年からずっと欲しかった理想的なチューリップの造花を道中に購入しまして。

 造花も基本的にはその季節しか店頭に並ばないので、買い逃すと一年後なのです。しかも来季は生産するかも怪しい。多分しない。違うものに変わっている。

 でも幸か不幸か去年の売れ残りっぽい物を見つけて、買ってしまったんです。そして手ぶらにしたからリュックに突っ込んでいまして。背の高い花だからリュックからチューリップが飛び出している。

 ほんと見た目、イカレタ奴ですよ。全てがダメに流れていく……

 背中からチューリップの造花を生やして泣いているんですよ……最悪です。


 もう色々今日はダメダメなので(まだ今日のダメダメは他にもあって、傷心の帰路の電車でボックス席を直そうとしたら黒人さんに英語で怒鳴られたり……まぁ色々です)脳内でギラギラ着物のサンバを再生させながら寝る事にします。


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