第82話 親父との決闘〜こいつ弱いぞ?~
「最後に言い残すことはあるか? クズとはいえ、最後の言葉くらい拾ってやろう」
「…………」
こんな茶番に付き合いきれないが、父は俺を殺すつもりらしい。普通、決闘で命までのやりとりはしない。昔は命をかけていたが、今はあくまで両者の力の差を見極めるだけだ。そのため、立ち会い人が指名される。この決闘の場合、第一王子カールだ。
つまり、親父は何があろうとタオルを入れない立ち合い人の元、合法的に俺を殺すつもりなのだ。父のクズぶりに俺は半分呆れて答えた。
「不要な問答はいい。魔法での決闘とあれば、対戦者への敬意を抱き、雑念は捨てて全力を尽くせ――あなたから昔そう教わったが?」
「ふん……。そんなたてまえを信じていたとはな」
だめだ。父として敬意は持てないが、賢者として、強い魔法使いとしての敬意は抱いていた。
だが、それも無用だろう。ただ強ければいい、というものではない、他でもない父から教わったことだ。数少ない父の教えの中から父を否定することになるとはな。
こんな奴でも、賢者。それに。
親父は火と水の神級魔法使い、
親父は火魔法のほか、水魔法が使える。二つの魔法を組み合わせた『爆裂』魔法、攻撃魔法の中では最高の威力と言われる。最強の魔法使いの一人。それが俺の父。子供の頃、憧れた時もあったか。だが、今となってはな。
父への声援があがる。威風堂々と白銀のローブを纏い、パッと見た目はあちらの方が見栄えがいい。見た目だけで騙されている観客たちが声援をあげる。
俺の父は自分の領地の魔物討伐すらしない。貴族の責務を全うしないで、ただ目立つことだけをやって名声を手に入れた男。この男が領に救援に来ていてくれれば、何人の冒険者の命が散らずに済んだろうか。死亡した冒険者の報告を何度も王都の父に送ったが、帰ってくる返事はいつも同じ定型の言葉。
……さあ、決着をつけるか。
俺は手を上にあげて構えると、親父がふっと笑った。
「本気? なのか。賢者の相手にどうやって戦うんだ? 剣も殴るのも禁止だ。お前はハズレスキル、魔法は使えんからな」
「……言ったろ。無駄な問答はいい」
「口だけは達者に育ったか。だが、残念だ。自身の手で始末してやれるのがせめてもの情けか」
俺が手を上に構え、親父が賢者の証、賢者の杖を高く掲げると。
貴賓席の第一王子カールが手をあげ、宣言する。
「これより、賢者レオ・ユングリング 、ノア・ユングリングの決闘を始める。双方卑怯な手は禁止とする。特にノア? わかっておるな?」
王子の言葉と共に広場に笑いが巻き上がる。誰もが俺が卑怯な方法を考えている、と。
強調してあらかじめ吹聴されているのだろう。
だが、黙って決闘の開始を待つ。
「始めぇーーーーー!」
かけ声と同時に、親父は魔法詠唱に入る。しかも、賢者の杖は詠唱中、鉄壁の防御、つまり、すべての物理攻撃、魔法攻撃が効かない。
だが。
「!」
俺は構わず符術を使った。
「ノア・ユングリングが問う、彼はなんぞ?」
『我は炎、汝の敵を打ち砕く燃え盛る炎。汝の敵を打ち砕く刃なり』
「な……んだとッ!」
親父が驚愕の目で俺を見る。
わかる、わかる。俺もびっくりした。
まさか、符術一発で賢者の杖の防御結界が破れるとは思わなかった。
親父は驚いて魔法詠唱を中断していた。神級魔法は3節の呪文詠唱が必要。
つまり。
追撃をかけよう。 俺は構わず符術を唱えた。
「ノア・ユングリングが問う、彼はなんぞ?」
『我は雷撃、天空の閃光、汝の敵を滅する一閃なり』
「な、え? ちょ――っ! うぽぉぉぉぉぉお!!!」
親父は変な奇声を発すると、空高く飛んで行った。
綺麗な青い空。飛んでいる親父。
「……え?」
「……は?」
「……へ?」
さっきまで親父を応援していた王都の観客たちが、急にシーンとなる。
「ば、馬鹿なっ……!」
大声で怒鳴る男、第一王子カール殿下。
「あ、ありえん……? 失われた魔法……符術で、賢者であるレオを? あり得ない……!!!」
カール殿下はブルブルと震え、狼狽していた。
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