第75話 テオを処す

「我が剣は無限なり。我が剣は輝く閃光、我が剣に勝るものなし!」


「ギャハハハハハハッハ! 何を訳のわからんことを叫んでやがるんだ!」


「武術言語だ。身体能力を大幅にあげる。今の俺は__無敵だ」


「馬鹿がぁ! 剣士が魔法使いに勝てる訳がないだろ? そうそう、お前の女、リリーな。途中で感じてたぞ。あいつ根は淫乱だぜ。それとな、なんでヤッておかなかったんだ? 初めてだと知ってびっくりしたぜ、お前馬鹿か? それにしても死に際の女があんなにいいと知れて良かったぜ。その点は俺様の役にたって本望だろう。ハッ! ハハハハッハ! 紅蓮!」


嘲笑するテオ、そして突然テオの無詠唱魔法が俺を襲った。


嘲笑は油断を誘うためのもの。どこまでも卑怯なヤツだ。


とは言うものの、テオが魔力を練っていたのはわかっていた。魔力を検知することができない魔力0の俺だが探知のスキルでその増大する魔力は観察していた。


だが__。俺は既に武術言語を唱え終わっていた。


故に。


「一体、何がしたいんだ? 俺に魔法なんて効くとでも思っていたのか?」


「な! ば、馬鹿な! 最大級に練り込んだ魔力による俺の紅蓮の魔法を喰らった__筈」


「喰らったさ。だが__こんなの蚊に刺された位としか思えん」


俺はニヤっと意地の悪い笑みを浮かべた。テオがリナちゃんのお父さんに向けた笑みを真似た。自分のしたことをそのまま返してやろう。


「お前の魔法なんて児戯だ。俺の前にはチワワがまとわりついている位にしか思えん」


「嘘だ。俺はこの国でも5本の指に入る魔法使いなんだ。剣士なんかに負ける訳がねえ!」


「魔法使いごときに俺が負ける訳がないだろ!」


そういうと、加速を使い一瞬でテオに近づきテオの手首を切り落とす。


シエナには悪いが、こいつは残酷に殺さないと気が済まない。


「ぎゃああああああ!」


「五月蝿いヤツだな。手首を切り落とした位で何を? お前はリナちゃんのお母さんやお父さんに何をした?」


「か、金をやる。女でも、そうだ。俺が口利きしてユングリング家への復帰をさせてやる。わかるだろ? お前も貴族だったんだからな。俺達とこいつら平民とじゃ命の価値が違うだろ?」


「悪いが__お前の命はゴブリンより下だ」



俺はテオの手首から更に10cmほどのところを斬った。


「うぉおおおおおおお! 俺の、俺様の手首がぁ! 俺様のだぞ! 平民風情とは違うんだぞぉ!」


「だからお前の命はゴブリン以下って言ってんだろ? 俺にお前の感性がわかる訳ないだろ? お前は人の命をなんだと思っている? 平民だって命はお前ら貴族と同じだろ? 魔法学園でも習ったろ? お前は幼年学校の授業すら覚えてないのか?」


「そ、そんなの__た、建前に決まってるだろ? だから、俺を助けたら、お前をユングリング家に復帰させてやる。なあ? いい提案だろ?」


「誰がお前らの腐った家になんぞ戻るかぁ! もう遅い!」


斬!


更に手首を20cmのところで斬る。


「わ、わかった。謝るから。な? 謝るから許してくれ。全部謝る。リリーを殺したことを根に持ってるんだろ? 良く似た女をたくさん用意してやるから、な? だ、だから、き、切り刻むのはや、やめぇ!!!!!!!」


斬!!!


「うギャァあああああああああああああ」


更に激しい悲鳴が上がる。右手の手首を更に30cm切り刻み、更に左手首を切り刻んだ。


「お、お前、何考えてる? 俺は貴族、それもユングリング家の嫡子だぞ? 伯爵家のだぞ? それを? 今ならまだ間に合う。だから、な?」


俺はまたニヤりと笑うと。


「今度は左足な」


「うぎゃぁああああああああ」


左足首を切り飛ばされてテオが倒れ、痛みに苦しみ悶える。


「だから言ったろ、俺はお前らと感性が違うと。お前はゴブリン以下だ__それに__お前をここで殺しても誰も気がつかないだろ?」


「__そ、そんな! こんな馬鹿なことがあっていい筈がねぇ!」


「いいんだよ。お前にはお似合いなんだよ! このゴブリン野郎!」


斬ッ


更に両腕を切り刻む。


痛みでのたうちまわるテオ。


だが、俺の怒りはまだ収まらない。


「や、やめて、やだ、やめ――――い、いだい゛……ちぐしょう、おまえっ! あぐっ、いだい゛よぉ……あぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


情けない声をあげるテオ。


「リリーはどんな女の子だった?」


「リ、リリーなんてどうでもいい! こんなのおかしい! そ、そんな馬鹿な!? 俺はレベルは80の紅蓮魔道士だぞ? 80なんだぞ!? 貴族の中の貴族なんだぞ! こんな馬鹿な事がある訳がない!? そうか! お前、魔道具でズルをしているのだろう? そうだろう?」


「……はあ」


俺は思わずため息を吐く。せめて殺めた人に対する贖罪の言葉を期待したが__。


何故この種の人間はただ自分が弱いだけだという事がわからないのだろうか? 仮に魔道具のおかげだとしても、それも実力のうちだろう。何より質問に位答えて欲しい。


「もう一回聞く、リリーはどんな女の子だった?」


「ひっ、ひっ、ひぃぃぃぃぃいぃぃ!」


テオは失禁をしていた。ぼたぼたと汚らわしい小水が漏れ出る。


「リ、リリーはいい女だった。具合が良くて、殴った時にも反抗的でな。何より死に際のが最高に良かった、本当にいい女だった」


こいつは一体リリーを何だと思っているんだ? 人だぞ? 物だとでも思っているのか?俺はもう我慢する事ができなかった。


「……床が汚れるだろ?」


次の瞬間、テオの体はビクンと海老のようにのけぞると宙に舞った!


ズカン!! と凄まじい音と共に、テオの身体がねじれて後に吹っ飛んだ。それは、まるで海老が跳ね上がっただけのようだった。俺がただ、テオを蹴り上げただけで、テオの身体は宙に舞い、床に叩きつけられた。床にはまるで大砲の弾丸が着弾したかの様な大きな破口を作っていた。


そして陵辱を始めた。俺はテオの顔面に拳をめり込ませた。そして、鼻もちならない、その鼻をゴキゴキとへし折り、綺麗に並んでいた歯を欠けさせ……。


「ひっ……!? ひぐっ、ふぐっ……!」


「……これはリリーの分」


俺は更にテオを殴った。折れた歯や血しぶきを撒き散らしながら……。


テオの端正に整っていた顔は、見るも無残な姿になっていた。鼻は潰れ、歯は折れ、血まみれだ。


「や、止めてぇ、しゃめてくださいぃぃ」


テオが涙を流して地面をのた打ち回るその姿は、人を見下し上位の存在であることに何の疑問も持たず、傲慢をただ誇示していたモノとは思えないほどのものだ。


「……これはリナちゃんのお母さんの分」


ドカン!! とまた凄まじい音と共に、テオの身体は再び後に吹っ飛んだ。それは、人間に殴られて生じる現象とは思えないようなもので、それこそ天罰、落雷が落ちたかの様だった。


折れた骨や血しぶきを撒き散らしながら、テオは再び床に叩きつけられた。


「よ、よくも貴族であるこの俺を殴り飛ばすとは……へ、平民ごときがぁ! 平民風情がぁ……!!」


テオは涙や血で顔を濡らし、鬼の様な形相だが、ついさっきまでの余裕のある力に満ちた様なものでは無く、プルプルと膝が笑っているのが見てとれた。まるで震えている小鹿のような情けなさだ。


「ノ、ノア様、もう止めて……」


「私からもお願いするのです。このままではノア様がただの殺人鬼になってしまいます」


ルナとシエナが俺を止める。


ちょっとやり過ぎたか。だが、生きて返す訳にはいかん。


「__死ね。テオ」


そう言うと俺はのたうち回るテオを剣でひとなぎして爆散させた。

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