第61話 冒険者ギルドの憂鬱1
試験官side
全く、いるんだよな。遊び気分で冒険者を目指す若者が。
俺は魔力0にも関わらず冒険者を目指す若者に落胆を感じざるを得なかった。
人間は魔力だけで判断していいものじゃない。
魔力以外に才能を活かせる場はいくらでもある。
ただ、冒険者だけは例外なのだ。
危険な魔物との戦闘が必須の冒険者が魔力0とか意味わからん。
まあ、世の中どうしよう無いことがあることを知ってもらうのが大人の務めだ。
例え嫌われ者になったとしても命あっての物種だ。
嫌われ者に徹しよう。
と、最初はそう思っていた。
「俺が試験官でギルド長のバーニィだ。お前が魔力0の冒険者希望者か? 全く無駄な時間を潰させやがって。能力無しの無能にこんな無駄骨をおらされるとはな」
俺は無礼を承知であえて言った。
これが彼の為なのだと信じて。
そして続けてこう言った。
「先ずは攻撃魔法の威力を見る。あの鉄のカカシに向かってなんでもいいから攻撃して見ろ。生活魔法の応用でも構わないぞ」
「えっ……いや、俺は魔力0だから魔法は一切使えなくて、剣が俺の主武器なんです」
「はあ? 攻撃魔法がなくてどうやって危険地帯の魔物と戦うんだ? うん?」
十分な嫌味だろう。自身で自己嫌悪に陥るが、それがこの少年のためと割り切る。
だが、少年がいきなり指パッチンでカカシを攻撃し始めた。
「……………………ええええええええ!!!!」
俺は思わず変な声が出た。
だって。
「(神級魔法より威力強!)」
少年は踊るように空気弾を数十発放つ。
魔法だとこの時点でMP切れになるのに……。
「指パッチンで空気を圧縮して空気弾で攻撃してみました。これなら遠距離攻撃可能です」
「いや、お前……意味がわからない。一体何を言っているのかさっぱりわからん。わ、わかった。なら次は広範囲攻撃魔法を見せろ!」
俺には分かる。元S級冒険者だった俺から見て、この少年は全く魔力を使っていない。
つまり、この少年はただの指パッチンで空気を圧縮して空気弾を放っているのだ。
俺に凄まじい量の冷や汗が湧き出る。
こんなの聞いたことがねえ!
だが、俺はこの少年の底を見て見たくなった。
それに遠距離単体攻撃ができたとしても、広範囲攻撃ができないと致命傷だ。
だから悪意を込めて言った。
しかし、彼は試験場の近くにある丘を見ていた。
彼の真意が分からず戸惑うが。
「よいしょっと」
彼は軽い声を上げると丘自体をべりべりべりべりと引き剥がして持ち上げた。
いや、そんなこと出来る訳無いんじゃん!
「そりゃ! ほい!」
少年は俺の否定をよそに丘全体を前方に放り投げて。
「ふん!!」
今度は拳を前に鋭く突きを放った。
信じられない速度、それにドンという激しい音圧。
信じられないが音の速度を拳が超えたとしか思えない。
そして、上空に放り投げられた丘自体に衝撃波がぶつかった、としか思えない。
ドドドドドドーン。
結構な音がしてかなり広範囲に石の破片が降り注ぐ。
「いや、いい汗かいたな!」
「はっ?」
「えっ?」
思わず間抜けな声が出た。
やだ、俺、もう泣きそう。
少年は俺にニッコリと笑顔を向けると、「今度は巫術を見せましょうか?」と言った。
「(こ、殺される!!!)」
言外に殺意を感じた俺は思わず怯んだ。
いや、こいつマジで魔族かなんかじゃないか?
咄嗟に彼にもう十分だと伝えた。
だが、少年は「せっかくですから、俺にも魔法ぽいことできますから」そう言って……。
「ノア・ユングリングが問う、彼はなんぞ?」
『我は炎、汝の敵を打ち砕く燃え盛る炎。汝の敵を打ち砕く刃なり』
訓練場に激しい爆音と神級魔法が児戯に見える謎の大技を使った。
やだ、コイツ、怖すぎるでち!
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