第49話 猫耳少女ルナの気持ち

「助けを! 僕が助けを呼ばないと!」


自分に言い聞かせながら限界を超えても尚も走り続ける。


敏捷度では定評のある猫耳族だが、長距離走は種族として向いていない。


それでも通常の人族より身体能力に優る彼女は通常の3倍の速度で走っていた。


「誰か! 誰でもいいから!」


彼女の願いはある意味届いた。


誰でもいいという意味なら。


だが運命は残酷なもので、彼女が出会ったのは人族ではなく、地竜だった。


「そ、そんな!」


嗅覚に優れた猫耳族の戦士ルナの不覚。


彼女はあまりの疲労で地竜の接近に気づかなかった。


その距離10m。


普段ならその敏捷力で地竜の目と聴覚、嗅覚の届かない場所にたちどころに移動できるのに今の彼女にはもうそんな体力は残っていなかった。


地竜がルナを発見するとずるりと舌なめずりする。


食べる前に以前食べた猫耳族の味を思い出しているかのようだった。


ルナの頭にはついこの2日間に起きた事が走馬灯のように蘇った。


「ルナ、お前は女だ。まだ若い。負けた時はむごい目にあう。逃げろ! そして人族の助けを呼んで来てくれ。俺達は時間を稼ぐ!」


「そ、そんな! 僕も戦士です! 子供の頃から鍛錬して来ました! 今戦わなかったら、僕はいつ里のために働くんですか?」


ルナは自分の身に何が起きるのかを十分に理解した上で言った。


女だてらに戦士となった限りは敗北した時にどういう扱いを受けるか位の想像は出来た。


「ルナ! 良く聞け! では誰が助けを呼びに行けるんだ? お前より早く走れる者がいるか? 魔物にあったらどうする?」


「そ、それは……」


戦士長の意見は正論だった。


無駄に命を捨てるより救援を呼びに行った方が猫耳族が助かる可能性が高い。


猫耳族を取り囲んでいる盗賊と思しき一味は100人近いと見積もられている。


猫耳族の戦士は10名、戦士以外の男を加えても30名程度の戦力だ。


敗北は必須。


彼らは時間を稼ぐ事しかできない。


「頼む、ルナ! 危険なのはお前も同じだ! 猫耳族存続のため、包囲網を突破して援軍を呼んで来てくれ! 突破口は作る。もちろん3日は持ち堪えてみせる!」


「わ、わかり……ました。戦士長に従います」


妥当な判断ではある。


しかし、そううまく3日以内に援軍を呼んで来る事は不可能だろう。


戦士長の真の考えは盗賊に穢されて惨めに殺される位なら誇り高く魔物に喰われた方がマシという事だ。


だが戦士長の命令は絶対だ。


ルナは見事盗賊の包囲網を突破して丸1日走り続けた。


そして出会ったのが地竜という訳である。


「せ、せめて戦士らしく……」


そう思ったが、足に力が入らない。


もう限界だった。


このまま地竜に喰われるのか?


はんば諦めたかけた時それは起きた。


グシャ


「え?」


唐突に地竜は真っ二つになった。


そして。


「大丈夫か? 怪我はない?」


「お、お願いだ。た、助けて。みんなを。里のみんなを!」


「任せろ。俺が何とかする」


人族の男がルナに声をかけた。


『俺が何とかする』


それを聞いた途端、ルナの張り詰めた糸は切れて気を失ってしまった。


次に気がつくとすっかり疲労は回復していた。


「ぼ、僕は猫耳族の戦士ルナ。僕の村が人族に襲われてしまって。僕も必死に戦ったけど。お願いだ。助けを呼んで欲しい! その為なら何でもするよ!」


「案内してくれ。すぐに何とかする」


「ひ、一人や二人では無理だよ。僕達猫耳族の戦士も10人いたけど、あいつらは100人以上いて、酷いことを、う、うく」


「ルナさん。俺達は最果てのダンジョンをクリアしたんだ。だから任せて欲しい。いや、信じて欲しい」


真っ直ぐに見つめる超絶イケメン(ルナにはそう見えている)の男性に声をかけられて。


あん!


ルナの子宮の下の方がじゅんとしてしまった。


「じゃあ、案内を頼む。アリスは魔法で何とかついて来てくれ」


そう言ってルナを抱きかかえる。


お姫様抱っこで。


「ひゃ、ぼ、僕、里の戦士なのに、こ、こんな!」


そして更に大事なところがびしょびしょになってしまう。


ルナは恥ずかしさのあまりに顔を真っ赤にする。


そしてアシュフォードのダンジョンに猫耳族を助けるために進むノア。


「(かっこいい)」


ルナの心配をよそに気遣ってくれるノア。


既にルナは戦士である事を忘れて乙女になっていた。


「ノ、ノア様?」


「安心しろ。ルナ」


イケメンがルナの頭に手をやると、やはりルナは顔を赤くする。


もう、パンツがびしょびしょだからだ。


そして猫耳族が囚われている空間で声をかけられる。


「行くぞ、ルナ!」


「はい。お願いします」


はい。私、もう何度もいってます。


こんな時にかっこいいノア様を見て何度もいってしまっている自分に羞恥する。


もう挿れて!


ルナは密かにそう思うのであった。

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