第41話 ユングリング家の災難1

「キィィエエエエェェェェェェェエエエエエーーーー---ッ!!!!」


書斎で奇声を発してしまったのはユングリング家の家長レオだった。


「そ、そんなバカな! ノアは魔力0だぞ!」


彼がプルプルと震えてしまったのも無理はない。


それは先日のノアの16歳の能力の鑑定家の依頼による王立魔術協会の鑑定書だった。




『鑑定書』


【能力】空気が読める


【評価レベル】ぶっ壊れ


【希少度】SSS +++


【戦闘力】評価不能


【危険度】SSS +++


【能力解説】女神の僕である天使の掲示を読む能力。大気中の闘気を取り込み魔法以上の攻撃力を発揮する。


【推奨】触らぬ神に祟りなし。災害レベル。




レオは評価レベルぶっ壊れという評価基準の意味が分からなかった。


通常は低い能力から順にF,E,D,C,B,A,S,SS,SSSと評価される。


ちなみに賢者であるレオはSSS+の評価だった。


過去1000年間の最高評価レベルは勇者ソラのSSS+++だった。


つまり、この評価基準では評価しきれないレベルの能力。


しかも推奨は触らぬ神に祟りなし。災害レベル。


ノアのレベルが上がれば何人たりとも逆らえない正しく災害と化す恐れがある。




鑑定書には更に魔術協会の会長からのメッセージが入っていた。


『ノア君を要国家管理レベルの人物と認定。直ちに魔術協会へ引き渡すべし。ノア君との友好関係を構築することが急務と判断する』




「クソがぁ!!! よ、要国家管理レベル? そんなの聖竜や勇者並みの扱いだぞ!」


女神の使いであり、人族の守護者たる聖竜、人族最強の能力者である勇者はそれ自体が戦略兵器だ。対魔族戦、他国との争いにおいてその国の明暗を分ける存在である。


それがノアに対する評価だと言うのだ。


ちなみに通常能力鑑定に危険度という記載はない。


危険度は通常魔物に対してなされるものだ。


そして最強の魔物であるエンシャントドラゴンですら危険度SSSである。


つまりノアの能力のレベルが上がると災害級のエンシャントドラゴンの危険度 SSSを上回る存在となる恐れがあると言うことだ。


ちなみに北の国エジンバラがエンシャントドラゴンによって300年前に消滅させられたことは誰もが知る事実だ。


つまり、ノアが怒るとこの国が消滅する恐れがある。


更に魔術協会からのメッセージ。


魔術協会に引き渡すべし。そして友好関係を構築することが急務と判断する。


これは国王直下の組織である魔術協会へ引き渡し、ノアとの友好関係を国単位で行うということだ。


一人が国と同格ということである。


プルプルと震えるレオ。


「もし、ダンジョンへの追放刑の真相がバレたら……」


ぞっとする。


レオは国家を危険に晒したテロリスト同様の措置を受けるだろう。


だが、そんなことは断じて認めないレオ。


「ノアはリリーを襲い、殺害した犯人なのだ。私に落ち度はない。ないのだ」


レオはそれで話を通そうと思った。


ノアがリリーを暴行して殺害した為追放刑に処したと。


「ある意味私の措置は褒められてしかるべきだろう」


そう、危険人物を最果てのダンジョンに追放し、抹殺したのだから。


「私に落ち度はないのだ。全てはノアが悪いのだ。私はむしろ救国の英雄」


勝手に描く未来に酔いしれるレオ。


もちろん彼はリリーを穢し、殺害したのがルイとテオ兄弟だと知っている。


だからこそ二人を守るためノアを犠牲にしたのだ。


「栄誉あるユングリング家をノアなどのためにお取り潰しなぞになったら……」


レオはやはり自分の判断に間違いはなかったとして、魔術協会に嘘の報告をしたためるのである。


自身は泣く泣く自身の息子を罰した。


それがたまたま危険な才能の持ち主だったのだ。


だが、それも今頃はノアは最果てのダンジョンで死んでいるという訳だ。


魔術協会の会長へのメッセージをしたためるとニヤリと笑う。


レオはそれがユングリング家の生末を閉ざしてしまうことになるだなどと知る由もなかった。

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