百九十八話目 宣戦布告
「あの、私その呼ばれ方知らないんですけど」
縛り上げた四人を地面に転がして、目を覚ますのを待っている間に、ハルカが仲間たちの顔を順々に見ながらそういった。
コリンとモンタナは目を逸らしたが、アルベルトは不思議そうな顔をしてハルカを見返していた。
「そうなのか?いいじゃねぇか、二つ名とかカッコよくて」
「いえ、あれ?みんなご存じなんですか?」
「そんなことより、こいつら起こして話聞かないと」
コリンがハルカの質問に答えずに、地面に転がる男たちを指差した。釈然としないながらも、確かにコリンの言う通りだと思ったハルカは、男たちのことを見下ろした。
小綺麗で、統一された装備を持つものが二人。小汚くて、古びた剣を持つものが二人。前者はどこかの貴族から放たれたもので、後者は界隈のならず者である可能性が高いだろう。
「こっちからでいいか?」
そう言いながら、アルベルトが小綺麗な方の二人組の頭をそれぞれ蹴飛ばすと、二人ともが目を覚まし、しばらく咳き込む。
アルベルトがさらにそれを蹴り転がして、上を向けたところで、ハルカが歩み寄ってその顔を覗き込む。
「すいません、あなた方は何が目的で私たちをつけてきていたんですか?」
丁寧な口調で尋ねるハルカに、組みしやすいと思ったのか、片方の男が口を開いた。
「我々はこの先を治めるザッケロー男爵様から命じられて、そちらのノクトという獣人を招くために来たのだ。汚らしい冒険者風情が一緒に歩いていたから、それらに目的の人物が襲われてはいけないと思い監視していたに過ぎない。今ならばまだ見逃してやる、縄を解き、そこのノクトという獣人を置いて何処へなりとも行くがいい」
そんな言い逃れが通ると思っているのだろうかと、ハルカは呆れたが、もしかすると彼らの住むザッケロー男爵領ではこれが普通なのかもしれないとも思う。そうだとしたら、相当に貴族の力が強いことになる。先行きが不安だった。
「それはお招きをお断りしたらどうなるのですか?」
「そのようなことが許されると思っているのか?」
「従う義理はないと思うのですが」
「断るとなれば、領内をまともに歩けるとは思わないことだ」
なぜ簀巻き状態でこれほどに強気になれるのだろうと、ハルカが男たちを見下ろしていると、アルベルトが歩いてきて、普通に剣を抜いた。
その剣が振り上げられる。
「ま、待て、何をしようと!!」
兵士が驚愕の表情を浮かべて大きな声を出すが、それは止まらずに、兵士の首を断ち切るように振り下ろされた。
「あああぁああ!!」
確実な死の予感に、兵士は呼吸を荒くし、目を閉じる。しばらくしても痛みも衝撃も訪れないことを不思議に思った兵士は、薄く目を開けて、自分の体を確認した。首スレスレで剣が動きを止めている。下半身が生暖かく気持ちが悪い。自分が失禁しており、そして首がまだ繋がっていることがわかった。
「ちょっと、気が早すぎませんか?」
「こいつら捕まってるくせに偉そうにしすぎだろ。片方殺しとこうぜ」
少し脅かす予定は元からあったのだが、ここまで過激になるとはハルカは思っていなかった。というか、ハルカが首との間に障壁を張っていなかったら、この兵士は死んでいたはずだ。
アルベルトはしゃがみ込み、兵士の首の横に剣を突き立てた。
「なぁ、お前ら本当にそのなんとか男爵のところの兵士なのかよ?証明できるものあるのか?」
「こ、このようなことをして、許されるものではっ」
アルベルトは突き刺した剣を兵士の首へと傾ける。兵士が途中で喋るのをやめて息を呑んだ。
「喋れなんて言ってねーだろ。そもそもお前ら二人がここで死んで埋められたとして、誰が探しにきてくれるんだ?誰が俺たちに殺されたって証明してくれるんだ?」
「さ、逆らわない!いうことを聞く、殺さないでくれ!」
黙り込んでいたもう一人の兵士が悲鳴をあげるように、アルベルトに命乞いをした。アルベルトは返事もせずに、剣を振り上げる。
「本当だ!死にたくない、頼む!!」
無情にも振り下ろされたかに思われた剣は、命乞いをしていた兵士を縛っていた縄を切り落としただけだった。
「次にあったら殺すぞ、お前も。俺たちに関わるな。ノクトは招きには応じねーって、なんとか男爵に伝えておけ」
そういいながら、もう一人の兵士の縄も切る。
足を震わせながら立ち上がった二人は、よろよろと逃げるようにハルカたちから離れていった。
見えなくなった頃に、アルベルトがハルカに話しかける。
「あれでよかったのかよ」
「……おそらく、そうですね。師匠の作戦によればあれでいいです」
「やっぱり殺しておいた方がよかったんじゃねーか?」
「あー……、師匠によれば、最初に一発目にガツンと話からしておいた方がいい、らしいです。なので、宣戦布告を相手に伝えるくらいでちょうどいいと」
「じゃあやっぱり片方は殺してもよかっただろ」
「つまらない殺しはやめましょうよ。彼らにも家族がいるかもしれませんし」
「じゃあ死なねーように努力するべきじゃねーのか?」
「……まあ、ほら、まだお話ししなきゃいけない人が残っているので、そっちに気持ちを切り替えましょう」
ハルカが残っている二人の男を指差すと、アルベルトは誤魔化したなとハルカのことをじっとみてから、大きくため息をついた。
「しょうがねぇな。ハルカに免じて許してやるか。おい、起きろ」
そう言いながらアルベルトは、また、地面に転がっている残った男たちの頭をそれぞれ蹴飛ばした。
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