百六十三話目 観客席へ集合!
ハルカがちょいとノクトの肩をつついて話しかける。
「あの、一応知り合いなので出してあげてもらえませんか?」
「えー、でもこの子言うこと聞きませんよぉ?」
「オクタイさん、暴れないですよね?」
「こっからどうやって暴れろってんだ……。なんなんだよこいつ」
すっかり諦めモードで空を見上げているオクタイは、投げやりに返事をした。
「おいおいおい、別嬪さんおいおいおい、ようやっと見っけたぜ、此畜生!礼がいいたくてよ、祭りが終わるまでには探さなきゃいけねぇと思ってたんだ。治療室に行くとあの悪魔がいるからな!ここで会えて……、っているじゃねぇか
階段を駆け下りて近づいてきたのは、昨日ハルカに腕を直してもらったシュオだ。勢いよく階段を一つ飛ばしで駆け下りてきていたのだが、ハルカの陰にいるノクトに気づくや否や、急ブレーキをかけた。
「あ、いえ、師匠はそんな危険な人物ではないと思いますけど……」
「地面に人転がしといて、説得力ねえぜ!別嬪さんだって昨日の所業を見ただろうが!」
「
その地面に転がったオクタイが、小さな声でつぶやきノクトを見上げる。ニコニコと笑顔で見下ろす顔を見て、何を思ったのかオクタイはノクトへ話しかけた。
「静かにする、暴れないからもう出してくれねぇか?」
「いいですよぉ、約束ですからねぇ」
すーっと目を細めたノクトが、くいっと人差し指を動かすと、オクタイの周りを囲っていた障壁が消える。オクタイは不気味なくらい静かに立ち上がり、アルベルトの横まで歩いて行って腰を下ろした。
オクタイに続きシュオが騒ぐものだから、周囲はざわめきハルカ達の周りに少し空白地帯ができていた。
「おい、アルベルト。あいつ特級冒険者の
「知らねぇよ、ノクトさんって言う特級冒険者で、ハルカの師匠らしいぞ」
「早く言えよ、クソ。やべぇのに絡んじまったじゃねぇか」
「……そうか?温厚でいい人じゃんか。っていうか、お前が勝手にやられたんだろ、俺のせいにするんじゃねーよ」
「おめでてーやつ」
「……ノクトさんにあることないこと言いつけてやる」
「やめろ!……ぉおお……、てください」
大きな声を出して立ち上がった直後に、やばいと思ったオクタイはちらりとノクトの方を窺う。人差し指を立ててニコニコとしているノクトと目が合って、オクタイは静かに席に座った。
それを見て何かを学んだのか、シュオもすーっと静かにハルカの後ろの席に座って、小さな声で話しかけてくる。
「いやよ、あの後腕の具合確かめるために訓練してたわけよ、そしたらどうだ、この治してもらった右腕の丈夫なことよ、試しに身体強化をしないで刃物を突き立てても傷一つもつかねぇと来たもんだ!あんたが治してくれたんだ、こりゃ礼の一つや二つ、三つ四つじゃききゃしねぇと、探していたってわけよ」
「丈夫になったようで良かったです。痛い思いもしましたから、それに耐えたご褒美みたいなものじゃないでしょうか?」
「なーに薄ぼんやりしたこと言ってんだ!この右腕は、俺が冒険者として成り上がるための、最強の武器になったって言ってんだよ。こんなことできる奴ぁ聞いたこたねぇ。このシュオ=ラン、受けた恩は忘れねぇ。あんたの名前を教えろよ」
二度と怪我をしなくて済むように、と願って治癒魔法をかけたのがこの結果をもたらしたのだろうか。
ハルカは治しているときのことを思い出していた。
口は悪いがこのシュオという男は、義理堅い人間なのだろう。わざわざ苦手意識を持っているノクトの傍によってまで、こうして話をしに来てくれている。名乗らないのは失礼にあたるだろうと思い、ハルカは問いに答えた。
「四級冒険者のハルカ=ヤマギシです。登録した国はプレイヌです」
「そうかよ、俺はこの国の二級冒険者だ。ま、近いうちに昇級してやらぁな。何かありゃ手を貸してやる。困ったら声かけろよな、ハルカ」
「そんなに恩に感じなくてもいいんですよ」
「うるせぇぜ、俺の気が済まねぇんだ。さて、居心地はよくねぇが、俺もここで観戦してくぜ。今となっちゃ感謝してやるが、俺の腕を酷い目に合わせてくれた野郎の晴れ舞台だからなぁ!」
後ろを向いていた体を戻すと、舞台の裾には、決勝戦で戦う二人が待機していた。
「一応あの大きいほうの子、シーグムンド君でしたっけ。あの子を治してからここに来たのですが、この戦いが終わったらすぐに治療室に戻ったほうがいいでしょうねぇ」
「予選でもバチバチに殴り合ってたからな、派手にやりそうだぜ」
「おやぁ、僕ともうお話してくれるんですかぁ?」
「わざわざ聞くんじゃねぇやい、このつむじ曲がり」
「ふへへへ」
ハルカは後ろと横の会話を聞きながら、こっそり笑う。悪い関係のまま別れることにはならなさそうだ。
「ひでぇめにあったが、結果は最上だった。正直アンタの顔見ると、ちょいと体が震えるが、強くなるのは俺の望んだことだからな、こんこんちきめ」
「その腕に頼りすぎないように気を付けてくださいねぇ」
「わかってらぁ、武器の一つでしかねぇよ!それでも俺がこの先に駆け上がるには十分すぎる武器だってんだ」
「楽しそうなところ悪いですが、ほら、そろそろ始まりそうです」
耳だけ傾けて視線はずっと舞台に向けていたハルカは、二人に声をかける。どんな戦いが起こるのか、楽しみなような、怖い様な複雑な気分だ。
「ハルカって、いつの間にか変な人との付き合いが増えてるわよね。もうこれ以上いない?」
「……えぇ、多分」
会場でみんなの視線を浴びている片割れに目を向けながら、少し間を空けて、ハルカはコリンに返事をした。あのガラの悪い人ともお話をしました、とか言ったらコリンに心配されそうだなと、気を使った末の返答だった。
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