七十話目 視線が気になる

「予知夢、って言ってもそれがいつ起こるかもわかりませんし、見られる長さも違うんです。皆そうだと思うんですけど、夢って目が覚めたときに覚えていたり、覚えていなかったりするでしょう?私は寝起きにできるだけ夢をメモするようにしていますけど、大体の場合その瞬間が来た時にしかそれが予知夢だったことに気づけません。今回の場合は、ハルカさんが私に向かって襲い掛かっているシーンだけを見ました。ハルカさんの姿を見た瞬間に、夢のダークエルフだ、と思ったのです。妙な噂も聞いていましたし、それであんなことを言い出してしまいました、悪い人だと思い込んでしまっていたので」


 納得と言えば納得だし、余計なことをしなければ起こらなかった未来でもある気もしていた。卵が先か鶏が先か、みたいな話になってしまうけれど、その辺はどうなのだろうと思う。


「見る夢が必ず予知夢になっているということですか?」

「いえ、それが難しくて……。半分くらいは起こらないんです。だから信頼性はそこまでないんですけど……」

「それは……、今回のように回避する努力をしたから起こらなかったとか、まだ起こっていないだけ、という可能性はありませんか?」

「そうなんですけどね。でも今回みたいに余計なことをしたせいで予知夢通りになることもあります」

「便利そうで不便な能力だな、それ。俺はそんな能力いらねぇわ」


 ややこしくなってきた話にあまりついてこれていないアルベルトはぼやくようにそう言った。事情があると言われて、よくわからない話をされたところで、彼女が先に喧嘩を仕掛けてきたという事実は、アルベルトにとって変わらぬ事実だった。彼女たちに良い印象は持っていない。


 それはモンタナやコリンも同じだ。

 子供たちに喧嘩を売られたところでハルカがどうなるとも思っていなかったけれど、難癖をつけられて嫌な思いをさせられたのは事実だ。

 それを贖罪しようとしているサラという少女のことはともかく、いなくなった学院生とはあまり関わりたくはないと思っていた。ダークエルフへの価値観の話で言えば、同じ様に思っているものがまだわんさかいるはずだ。これからも嫌な思いをする可能性が高い。


 ただ、アルベルトのそっけない態度に、すっかり委縮してしまっている年下の女の子をそのままにしておくのも忍びなく思ったコリンは、フォローするようにサラに話しかけた。


「そういえば、学院生ってことはテオとレオの知り合いかもしれないわね」

「それは、スタフォードの双子のことでしょうか?彼らなら知ってはいますけど……」


 皆はそんな家名だっけ?と疑問に思いながらもあいまいに頷く。


「多分?あの、金髪の双子のことだけどー」

「だったら間違いないと思います。魔法の神子なんじゃないか、と言われるくらいに魔法が得意な二人で、飛び級で学院を卒業する予定です。今は多分卒業研修に出ているはずですが……。あ、この時期は卒業を控えた生徒が研修のために街の外に出ることになっているんです」

「詳しいわね、仲いいの?」

「あ……、いえ、あの二人殆ど孤立しているので、会話したことないです」

「だよなー、あいつら友達いなさそうだもんな!」


 いきいきと割り込んできたのはアルベルトだ。今でこそ仲がいいが、最初の頃は相手にもしてもらえなかったのを忘れてはいないらしい。

 色々と教えてもらい、魔素の流れも少しは感じられるようになったので、彼らには感謝していたが、それはそれだった。またテオとは結構気が合うらしく、同じようなレベルで言い争いをしながらも、夜になるとあれをしたいとか、これをしたいとか二人で語り合っている姿も見られた。

 言い争いはレオさえ混じらなければ、一方的にやられることないというのも良かったのかもしれない。

 彼らがこちらに戻ってきたら一緒に遊ぶ約束もしていたので、最初の頃を考えると随分仲良くなったものである。


「あの二人と知り合いなんですか?」

「こっちに来る時に一緒だったんだよ。あいつらはまだ戻ってきてねーけどな」


 機嫌のよくなったアルベルトは、サラのことを気にするのをやめて、冒険者ギルドの周りにある武器屋の方に目を取られている。ふらふらとそちらへ寄って行ったので、残る4人は店の前に立って雑談をつづけた。


「そういえばあの双子も同じ学院生にしてはハルカに変な態度取らなかったわね。その代わり全員に態度が悪かったけど」


 確かに他人と関わるのを面倒臭がる様子は見られたが、ダークエルフだからと言ってハルカだけを拒絶することはなかった。あれはプライドの高さや、年齢独特な反抗心でしかなかった様に思う。

 学院生の全員が全員自分、というかダークエルフに対して負の感情を抱いていないといいのだが、とハルカはおもう。

 今だって、たまにあちらこちらから嫌な視線を感じていた。今までの様な好奇心のものからかと思っていたが、そちらに目を向けて確認してみると、不審者を見る様な目を向けられていることがあるのに気付いていた。その視線の主人は大体子供だ。

 心にくるものがあった。

 おじさんが子供におはようと挨拶するだけで不審者扱いされる世界に住んでいたが、それでもこれ程には監視されてはいなかった。とても居心地が悪かった。


「それは……、彼らが私たちと関わらず、グループも持っていなかったからだと思います……」

「つまりハルカはこれからもこうやって睨まれたり絡まれたりするってわけね」


 すっかり肩を落としたハルカの腕が左右からぽんぽんと叩かれる。コリンとモンタナがかわいそうなものを見る目をしながらハルカを慰めた。





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