十八話目 相談
「もう予想はついてるんだけどさ、ハルカはなんで冒険者になろうと思ったわけ?」
肘をついて、あまり褒められないような体制でエリがそう尋ねた。さっき同様見た目がお嬢様っぽい割には、行動全般が粗野だった。これが果たして元からの彼女の性格なのだろうか。それとも冒険者になったせいでこうなったのか。
「特に予想から外れていないと思います。記憶喪失のせいで生活基盤がないですから、冒険者になって暮らしていければと思いまして」
「ま、そうよね。有名になればハルカのことを知ってる人が名乗り出てくるかもしれないし」
「……私は前までの知人のことは全く覚えていないんです。薄情かもしれませんが、名乗り出られても困ってしまいます」
「それもそうね。でも向こうは探してるかもしれないじゃない」
絶対にこの世界でハルカを探しているものなどいるはずはない。それを確信しながらも、曖昧にエリの言葉に頷いた。
からからと笑うエリは快活で、話をしていて気持ちがいい。普段あまり話をしないハルカだったが、なんだか気持ちが乗ってきて、ぺらぺらと話してしまう。会話をしながら、そういえば小さいときはそんなに話すことが嫌いじゃなかったな、なんてことを思い出していた。
「冒険者として活動していくんなら、私たちのチームに入る?男がいないから居心地いいかもしれないわよ」
「いえ、私は普通に働いて、どこかで雇ってもらおうかなと……」
女性ばかりの中に入るというのは居心地が悪そうだ。所詮はまがい物の女性である。メンタルがおじさんなので、どぎまぎしてしまうに違いなかった。断りの言葉を途中で止めて、そういえば、アルベルト達に誘われていたなと思い出す。
「なに?そんなに魔法が使えるんだから、冒険者らしい活動したらいいじゃない」
もったいない、とエリが身を乗り出した。身振り手振りと、体の動きが大きくて見ていて飽きない女性である。
「あのねぇ、あなたぐらい魔法が使えるようになるのって大変なのよ?毎日頭痛に耐えながら長いこと訓練しないといけないんだから!」
ハルカは少し上半身を引いて、両手を上げるとエリに手のひらをむけて、まぁまぁ、となだめる。その状態のまま少し考えて、パーティに誘われた件について彼女に相談してみることにした。3級冒険者ということはそれなりに長く冒険者をしているのだろう。参考になる返答をくれるはずだ。
「それなんですが、今日講習で一緒だった子たちに、一緒に冒険しよう、と誘われているんです。まだ私が何ができるかもよくわかってないのに、面白い子たちですよね」
ふぅん、といってエリは唇を尖らせる。
「なんだかハルカ楽しそうね、私が今誘った時よりうれしそうな顔してるわ」
「え、そうですか?そんなつもりはなかったんですが、気を悪くしたならすいません」
「べっつにー?でもなんか若々しくていいんじゃない?こう、出会ったのも何かの縁っていってパーティを組んでみるのも面白いかもね。ハルカ以外の子たちは前衛っぽかったし」
すねたような表情のまま答えるエリにハルカは苦笑した。若々しいなんて言っているが、エリだってそう変わらない年齢だ。しかし先輩風をふかす姿は嫌味っぽくなくて微笑ましかった。
「えぇ、まあ、でも私みたいなよくわからないのが一緒になったら迷惑なんじゃないかなという気持ちもありまして。どう思いますか?」
誰かに後押ししてほしかったのかもしれない。見た目や性別に年齢、そのすべてが本来のハルカと違う状態で、彼らの仲間になるというのは、意図していないにしても騙してしまっているような気がした。それに彼らのように夢や目標を持って臨んでいるわけでないのに、その輪に入っていくのも気が引けていた。
これまでの人生で、何かをするたびにうまくいかなくて、失敗ばかりしてきた経験が、新しいことを始めるのを恐れさせていたのもあった。ハルカは物事を即断即決できるようなタイプの強い人間ではなかった。
「何言ってんのよ、あっちから誘ってきたんでしょ。ハルカは美人だし、魔法は十分使えるし、なんだか丁寧で大人っぽいじゃない。釣り合う努力をするべきなのは残りの子たちだと思うけどね。なんでそんなに自信がないのか知らないけど、一度一緒に活動してみたら?あ、でも、死なないように気を付けるのよ。私もハルカのこと結構気にいったし。別に冗談でチームに勧誘したわけじゃないから、合わなきゃうちに来たらいいわ」
立ち上がってハルカのことを指さしてから、エリは食器を集め始める。すべての食器を重ねて持ってから、歩き始めてから一度止まって振り返りながら続ける。
「ま、悪い男に捕まらないようにだけ気を付けるのよ。食器片づけたらギルド内案内したり、お金貸したりしてあげるわ。ちょっとそこで待ってなさい」
エリの言葉にハルカは背中を押された気がして、本当はやっぱり自分も冒険をしてみたかったんだとはっきり自覚した。それと同時に、年下の子たちに流されたり励まされたりを繰り返していて、どうにも不甲斐ないばかりだと肩を落とすのだった。
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