第52話 恋の終わり
大学一回生であなたに出会った。
大学二回生であなたに恋心を抱いた。
大学三回生でそれを言えないままで。
大学四回生で、私の恋は終わった。
「――――え?」
ある日、玄関に入っていた封筒を見て、我ながらそんな間抜けな声を出していた。
卒論やら、就活やらいろいろと終わった、四回生の冬のこと。
『結婚式招待状』と書かれた少し洒落た便箋を見たまま、私は呆然と立ち尽くした。
まさかね、とそう想った。
息が肺の奥まで凍りきってしまいそうな、そんな錯覚を抱えながら。
私は、急いで部屋に戻って封筒を開けた。
指が震えたのを覚えてる。
何かのドッキリだって、私を騙すために誰かが遊んでるんだって、そんな都合のいい妄想が何度も頭をよぎる。
まさか、まさか、でもまさか。
開けた封筒の中には、まなかさんの見覚えのある丸っこい文字が描かれていた。
『拝啓 柴咲 深想乃様
冬の炬燵で猫も丸くなる今日この頃いかがお過ごしでしょうか? 風邪は引いていないでしょうか。みそのは結構そこらへんルーズなのでまなかさんは心配です。こっちのしろみそは相変わらず暖かくてまるで湯たんぽのようです。
このたび私と『――――』さんで結婚式をあげることになりました。
私の親がいないこともあって身内と大事な友人だけの細やかな結婚式ではありますが出席してくれるととても嬉しいです。
日時と場所あと封筒を添えておくのでご返信ください。
急に伝えちゃってごめんね。色々とこちらも急なことだったのです。
ではでは当日来てくれることを楽しみにしています。
P.S.ご祝儀とかいらないからね? みそのが来てくれるだけで私は嬉しいのです。
』
記載されているのは、私が聞いたこともないような誰かの名前。
それと胸の奥にぽっかりと何かが開いてしまったような、そんな感覚。
震えるような寒さと胸の奥に湧いてくるどうしようもない欠落感。
何もかもが終わってしまったようなそんな感覚。
熱に浮かされたようにして始まった私の恋は。
そうやって、誰一人にも伝えないままに終わりを告げた。
実がならなかった花は、その宿命としてただ枯れて堕ちるだけ。
いやそもそも、実を結ぶために花が可憐に咲き誇るというのなら。
私の恋は花として咲くこともなく、ただ蕾のまま潰えただけ。
多分、そういう恋だった。
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