1-14 風神来たりて敵を薙ぐ。




 ケンゴとウィルとハクの一行は森に入り昨日のようにゴブリンを注意深く探していた。


「サーチ」


 ウィルが何かしらの魔法を発動する。


「この辺り、だいたい半径20メル以内に敵はいませんね。」


(へぇ、いまのは索敵する系の魔法か。)


「わかりました。」


 ウィルが使った魔法の効果を知って1人感心したケンゴは返事を返した。


「スンスン、スンスン」


 同じ頃ハクは地面の匂いを嗅いでいた。


「どうだいハク?匂いはするかい?」


「ウォン」


 ハクはケンゴに首を振りながら吠えた。


「ありがとう、ウィルさん、どうやらこの辺りにはいないみたいですね。」


「わかりました。場所を移動しましょう。」


 このようにウィルが周囲の索敵を行い、ハクがゴブリンの痕跡を探す二つのやり方で彼らはゴブリンを探していた。


「2人だけの討伐クエストになってしまいましたが、ケンゴさんがとても強い上にハクくんもいるので正直何も怖くないですね、ありがとうございます。」


「い、いえ、そんな、とんでもない。こちらこそありがとうございます。」


「ウォン!」


 コミュ障のケンゴと気さくに会話をしながらウィルは森の中をすすむ。


「もし差し支えなければ教えていただきたいのですが、ケンゴさんの武術はどこでどのような修行をして身につけたのでしょうか?」


 進みながらウィルがケンゴに尋ねる。


 ケンゴは少し考えて答えた。


「うーん、習ったのは祖父からで場所は祖父が住んでいた山ですね。修行内容は、基本的な筋力トレーニングと部位鍛錬、技の練習、そして1番やっていたのが祖父との組手ですね。」


「なるほど。その、部位鍛錬とは?」


「部位鍛錬は主に手の甲や脛といったところを武器として使えるほど硬くするために砂や木の板、岩や鉄球に打ち付ける修練のことです。」


 説明を聞いたウィルは戦慄していた。


「聞いているだけで恐ろしい修行ですね。」


「あはは、でも拳も脛も組手をやっていれば自ずと鍛えられると思いますし保護するものもたくさんあるので正直無理にやらなくてもいいと思いますけどね。」


「防衛反応のようなものでしょうか?固くなるのは?」


「多分そうだと思います。人間の骨は硬いので裸拳や防具なしの脛が当たるとものすごく痛いですし、普通に折れます。それを利用して、あえて骨で受けて相手にダメージを与える技があるんです、それを使うためにも、またはそれを防ぐためにも部位鍛錬をするんです。硬い拳や脛の蹴りは武器と同じ威力になりますからね。」


「その物言いだと、ケンゴさんは骨を折ったことはあるのですか?」


「まあ、そうですね、3、、、」


「3回ですか、すご、、、、」


「3桁回数は行ってると思います。」


「・・・・」


「ワ、ワ〜オォ」


 ケンゴの壮絶な体験を聞いてウィルとハクは言葉を失う。




 それからしばらく歩き、再びウィルが索敵魔法を行使した。


「ケンゴさん、反応がありました。」


 魔法を展開し終え、目を開いたウィルが言う。


「ボクから見て2時の方向、4体来ます。」


「こちらに向かってきているのですか?」


「はい、残り10メルほどです。」


 ケンゴとハクはウィルの言った方向に注意を向ける。


 ケンゴとハクは風に乗った4体の気配を感じた。


 ほんの少しゴブリンが見えたところでウィルが魔法を放った。


「パラライズ」


「グゲ!!!!」


 今回は3体にかかったが一体が余ってしまう。


「ハク!」


「ガウ!!!!」


 ケンゴがハクに叫ぶとハクは風の砲弾を余ったゴブリンに放つ。


 そしてケンゴは痺れているゴブリン達に踏み込んで一気に距離を詰めると跳び回し蹴りを放つ。


「破ア!!!」


「「「ゲギャ!!!!」」」


 3体のゴブリン達の頭が弾けん飛んだ。


「なんで踏み込みの速さ、しかも3体同時ですか、さすがですね、、、、」


「い、いえ、これぐらいしかできませんよ、、、、」


「これぐらいしか、、、、」


 またしてもケンゴはナチュラルに反感を買った。


「さて、残りの6体分の魔石も集めましょうか!」


「はい!」

「ウォン!」


 2人と1匹は他のゴブリンを探して森を進んだ。





 ーーーーーーーーーーー




「もう集め終わってしまいました、早かったですねぇ、」


 あれから30分もしないうちにケンゴ達は10体分の魔石を集め終えた。



「ケンゴさん、提案なんですがこのままゴブリンや他のモンスターの魔石も集めませんか?」


「はぁ、大丈夫ですかね?」


「ケンゴさんなら大丈夫です!いっぱい稼いで、キースとリサに美味しいものをご馳走してやりましょう。」


 ウィルに提案されて、少し考えたケンゴはこう返した。


「わかりました。やりましょう!」


「ありがとうございます。ケンゴさん。」


 ウィルは目を閉じる


「サーチ」


 索敵魔法を使い周囲にモンスターがいないかどうか調べる。


「約20メル先にモンスターの反応がありました。これはゴブリンですかね?」


「わかりました、こちらに向かってきてはいますか?」


「いえ、いません、ゆっくり近づいてみましょう。」


 そう言ってケンゴ達がモンスターの方にむかおうとした時だった。


「ガルルルルルルルル!!!!」


 ハクがモンスターのいる方向に向かって唸り出した。


「どうした、ハク?」


 ケンゴはハクの様子に胸騒ぎがする。


「ウィルさん、もう一度索敵魔法を使っていただけますか?」


「わ、わかりました。サーチ」


 ウィルはケンゴのただならぬ雰囲気に押され、索敵魔法を使う。


 3秒ほど経った時、ウィルは戦慄しながら答えた。


「ケンゴさん、大量のモンスターがこちらへ向かってきます、いや、これは、魔獣?」


「どれくらいの量ですか?」


「わかりません、多すぎて、」


 とてつもなく焦った様子のウィル。


「退却しましょう。」


「そうですね、わかりました。」



 20メルという距離はそれほど遠い距離ではない。

 ケンゴとハクとウィルはすぐに街へ向けて駆け出した。


「ハァ、ハァ、ハァ」


 しかしウィルの足はあまり速くなく、加えて体力もあまりないようだ。

 全力で5分ほど走ったところでウィルの足は目に見えて遅くなった。


「大丈夫ですかウィルさん!」


 走りながらケンゴが問う。


「だ、大丈夫です、ハァ、ハァ、最悪、僕を、置いていって、ください、ハァ、ハァ」


「そんなこと言わないで!」


 ネガティブな思考になるほど、ウィルには余裕がないようだ。


 そして、さらに状況は悪い方に転んだ。


「!?」


 前から何かが飛んできた。


 ケンゴは咄嗟にそれを掴む。


「矢、まさか!?」


「ゲギャギャギャ!」


 ケンゴの眼前には弓を構えたゴブリンや棍棒を携えたゴブリンが大量にいた。


「グルルルルルルル!」


「グゲゲゲゲゲゲ!!!!」


 それだけではない、二足歩行の犬のようなモンスターや、ゴブリンをひと回り大きくして、より筋肉質になったような奴等までもが目の前に夥しいほどの数、存在していた。

 ウィルのサーチは半径20メル以内しか索敵することしかできない。

 モンスター達はケンゴの後ろ、20メル以上のところに既に展開していたのだ。


「ハァ、ハァ、ケンゴさん、僕を置いて逃げて、ください、お願い、します。」


 諦めるウィルにケンゴは激昂した。


「そんなことを言うなぁ!!!!」


 その怒声に、ウィルとハクは愚か、モンスター達も恐れ慄いた。


 ケンゴは素早くカムロの構えをとり、戦闘体制に入る。


「戦いますよウィルさん!諦めて死を迎え入れる選択肢を、あなたは選びたいんですか?」


 その言葉に、ウィルは杖を構えた。


「すみませんケンゴさん!僕、やります!!!!」


 ケンゴはそんなウィルを見て小さく微笑み、眼前の敵に意識を集中させる。 


「ガルルルルルルルルルル!!!!」


 ハクも準備万端らしい。



「ハク!元の姿に戻れ!そして好きなように暴れろ!」


「ウォン!」


 返事をしたハクはすぐさま巨大な白狼へと姿を戻した。


「背中は任せますよ!」


「はい!!!!」


 ウィルが答えた直後にゴブリンや犬の化け物達が飛び込んできた。


「ゲギャァアアアア!!!!」


「グルゥアアアア!!!!」


「破ァアアアア!!!!」


 しかしそれら全てを、ケンゴは後ろ回し蹴りで薙ぎ倒した。


「神室流伝承者が一人、神室 拳伍、参る!!!!」


 戦いの火蓋は切って落とされた。




 ーーーーーーーーーーー



「セェヤァア!!!!」


「グゲェ!!!!」


「セイ!」


「ゲギャ!」


「フッ!!!!」


「ギャン!!!!」


 迫り来る大量の敵を蹴りや拳で片っ端から文字通り打ち砕いていくケンゴ。


「パラライズ!」


「「「ゲゲーーーー!!!!」」」


「ライトニングボルト!!!!」


「「「グギャーーーー!!!!」」」


 ウィルも魔法を連発して、かなりの数の敵を倒していた。


 しかしとてつもなく大きな問題がある。


「数が、多すぎますね。」


「ハァ、ハァ、これは、まずいです、」


「ガルルルルルルルルルル」


 どれだけ敵を倒しても数が減らないのだ。


(どうすればいい、僕はまだ大丈夫だ、この強さなら1週間でも続けられる。でもハクとウィルさんはそうとは限らない。)


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」


 ケンゴやハクはまだまだ大丈夫そうだが、ウィルはかなり苦しそうだ。


「グルルアアアアアア!!!!」


「「「ゲギャァアアアア!!!!」」」


 ハクが風を纏った爪で多数の敵を同時に薙ぎ払う。


「大鉄扇脚!!!!」


「「「ギャオオオオオオオオン!!!!」」」」


 ケンゴの跳び後ろ回し蹴りが犬の化け物達を4体まとめて砕く。


「ライトニングバインド!!!!」


「「「「ゲゲゲゲー」」」」


「「「ギギヤァーーーー」」」


 ウィルの魔法が10体以上のモンスターを拘束した。


「神室龍奥義!!!!」


 叫んだケンゴは空高く飛ぶ。


 そして動けなくなっている敵の中心に急降下しながら拳を叩き込んだ。


 重力と神室の操気術による急降下の力を合わせたその技の名は、


「迫撃砲!!!!」


 拳は中心にいたゴブリンを爆発四散させ、それでもなお勢いは止まらず、地面に激突、そしてそこから発生した衝撃波や弾かれた石の礫はウィルの魔法で拘束されていたモンスター達をまとめて吹き飛ばした。


「「「「グゲェ!!!!」」」」


「「「「ゲゲェ!!!!」」」」


 吹き飛ばされたモンスター達は石の礫を食う、もしくは木々に激突して死んでいった。


 しかし再び敵は湧いて出てくる。


(道が、切り開けない!)


 流石に焦るケンゴ。


 そしてさらに最悪の事態が起こる。


「ゔぅぅぅ、ダメだ、、、、こんな、、、、時に、、、、」


 ウィルの足から力が抜け、膝をついてしまった。


「ウィルさん!大丈夫ですか!」


 ケンゴは迫り来る矢を弾きながらウィルに問いかける。


「ケンゴさん、、、、魔力が、、、、もう、、、、ないんです、、、、」


「そんな、」


 ウィルはかろうじて杖で踏ん張るもののいますぐにでも倒れそうだった。


「ケンゴさん、、、、逃げて、、、、お願い、、、、します、、、、」


「ウィルさん!!!!」


 四方八方にいるゴブリンや犬のモンスター達は近づいてはいけないと学んだのか、一斉に弓を構える、弓を持っていないものは石を構える。


(どうすればいいんだ!自分だけならまだしも、この状態のウィルさんは守りきれない!)


「「「「ゲギャアアアアア!!!!」」」」


「「「「グルルゥアアアア!!!!」」」」


 ケンゴ達に大量の矢や石が放たれる。


「ゔぅああああああ!!!!」


 ケンゴが気合を入れて迎え撃とうとした時だった。


「ウゥウォオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!」


 甲高くハクが叫ぶ。


 するとケンゴ達の周りを囲うようにして巨大な竜巻が発生。

 矢や石を塞いでくれた。


「ハク!ありがとう!」


「ウォン!!!!」



 ケンゴ達は今、竜巻の中心にいる。

 そのため、竜巻の影響を受けないのだ。


「うぅぅ、、、、」


 ウィルは完全に倒れてしまい、とても苦しそうだ。


「ウィルさん!?大丈夫ですか!?」


「すみ、、、、ません、、、、魔力が、、、、切れて、、、、しま、、、、」


 喋るのもやっとと言う状態だ。


「どうしよう、ハクもいずれウィルさんのように、魔力が切れてしまう、どうにかしないと。」


 ケンゴはこの状況を打開するため、頭を悩ませる。

 その時だった。


「クゥン」


「ん?どうしたハク?」


 突然ハクが甘えた声で大きな体でケンゴに擦り寄ってきた。


「クゥーン、クゥーーーーン、、、、」


 しかもケンゴの腕を前足で上げて自分の頭に当てる。

 どうやらなでろと言っているらしい。


「ハク、こんな時にどうした?」


「ウォン、ウォン、、、、」


 訝しむケンゴに対してさらに撫でろと懇願してくるハク。


「なにか、理由があるのか?ひょっとして、

 この状況を打破できる何かが?」


「ウォン!!!!」


 ケンゴの問いに力強く答えるハク。


「わかったよハク、ヨシヨシ、、、、」


 ケンゴはハクの顔を撫で始める。


「クゥーン、クゥーーーーン、、、、」


 次いで首元や背中、胸毛も撫で始める。


「こんな状況だが、お前をモフモフしていると落ち着くよ。」


「アオォーーーーーン、、、、」


 ケンゴの撫で撫でに情けない声を出すハク。


 異変が起こったのはその時だった。


「ん?」


 ハクの体が淡く光り始めた。

 同時にケンゴの体も淡く光り始める。


 そしてお互いの体に風がまとわりつく。


「これは!?一体!?」


「ウォン!ウォン!!!!」


 光と風はどんどん強くなり、ついにはケンゴとハクを飲み込んだ。


「うぅわあーーーーーーーーーーー

 ー!!!!」


「ウォオーーーーーーーーーーーーン!!!!」


 そして、ケンゴの叫びとハクの雄叫びと同時に光りはやみ、同時に巨大な竜巻も消える。


「ゲゲゲ、、、、」


「グルゥ?」


「グギ?」


 周りを囲っていたモンスター達は困惑する。

 先ほどまで自分達を苦しめていた白狼と一人の人間がいなくなっていたのだから。


 代わりにいたのは。














 白髪に三角の白い立ち耳と爪のある白い毛皮に覆われた五本指の手と足、そしてふさふさした白い尻尾を携えた男だった。


 その男は紛れもない、ケンゴ自身だ。


「え?なにこれ?この姿は一体?」


 驚きを隠せないケンゴ。


「「「グギャーーーー!!!!」」」


 そんなケンゴを隙とみたゴブリン達は一斉に矢と石を放つ。


「セイ!!!!」

 ケンゴは先ほどのように腕をなぎ、矢と石達を薙ぎ払う。


「「「「ゲギャーーーーーーーーーー!!!!」」」


「「「「キャオーーーーーーーーーー!!!!」」」」


 だがケンゴの薙ぎ払いと共に強烈な突風が発生し、四方八方から迫る矢と石達のみならず周りのモンスター達諸共薙ぎ払った。


「これは、魔法?」


 どうやら今のケンゴは風の魔法を使えるようだ。


「風の魔法にこの力、もしかして僕は、ハクと、、、、」


『ウォン!!!!」


 ケンゴがその事実に気づいたとき、頭の中でハクが吠えた。


「そうか、、、、そう言うことなんだね、、、、ハク!いけるかい!?」


『ウォン!!!!』


 ケンゴの問いにハクは力強く答えた。


「神室流伝承者が一人、神室 拳伍、そしてハク。」


 ケンゴは神室の構えをとる。

 彼の体には穏やかな風が纏わりついていた。


「改めて!いざ尋常に、参る!!!!」


 ケンゴとハクの反撃が始まる。













 ☆登場モンスター☆


 コボルト

 ランク:C +

 二足歩行の犬のようなモンスター、ゴブリンと同じく群れで活動する。単体の戦闘力はゴブリンよりも少し上。


 ホブゴブリン

 ランク:C +

 進化したゴブリン。通常のゴブリンよりもひと回り大きく、筋肉質になっている。単体の戦闘力はゴブリンよりも上であり、多少の魔法も使える個体も存在する。



 ☆ケンゴが使った神室流奥義☆


『迫撃砲』

 天高く跳び。大気を蹴って加速しながら急降下して、殴打を敵、もしくは地面に叩き込み、周りにいる敵をまとめて倒す技。集団を撹乱するのに最適。


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