1-13 終わらぬ異変









 早朝の鐘がなる頃、ケンゴは昨日の噴水の広場にいた。


「よう!待たせたな、ケンゴ!」


「お待たせ!」


「おはようございます。」



「おはようございます。皆さん。」


「ウォン!」


 ちょうどよく来た、キース、リサ、ウィルのパーティはケンゴとハクに三者三様、気持ちのいい朝の挨拶をする。

 昨日のピンチから4人と1匹の仲は非常に良くなっており、ケンゴは普通に目を合わせられるようになっていた。



「よっしゃ!早速ギルドに行こうぜ!」


 全員が揃ったケンゴ達一行は冒険者ギルドに歩を進めた。



 冒険者ギルドの扉の前、ハクに周囲の目が集まる。


「・・・・」


 無言で顔を下げるケンゴ。


「あ、あ〜、ケンゴ、ここで待ってるか?」


 見兼ねたキースが彼に声をかける。


「い、いえ、僕にも、薬草採取の報告がありますから、」


「そ、そうだったな」


「誰かが代理で受け取るとか、」


「規則上できませんね、」


「「「・・・・」」」


 諦めて、カウンターに決死の覚悟で赴くケンゴ。


「お疲れ様です、クエストの完了報告ですね。」


「ああ、俺たちとこっちのケンゴの完了報告だ。」


 ケンゴとキースはそれぞれクエストの明細用紙を提出する。


「ゴブリンの討伐に薬草採取ですね、薬草と魔石の確認をしますので提出をお願いします。」


 ケンゴとキースはそれぞれ薬草と魔石を提出する。


「薬草10本の確認が取れました。こちらの魔石は13個、規定数より多いですね、それに普通のゴブリンの魔石とは違いますね、この魔石はどうしたんですか?」


 受付係は他とは明らかに違う魔石についてキース達に訪ねる。


「しんじらんねえと思うけどさ、変異種が出たんだよ!ゴブリンの!」


 キースは少し興奮した面持ちで話す。


「変異種ですか?なるほど、、、、」


 言われた受付係はまじまじと魔石を見る。


「申し訳ございませんが、専門の方に見ていただきますので1日ほど時間をいただかないでしょうか?追加報酬の査定ができませんので、」


 受付係は申し訳なさそうにキース達に伝える。


「俺たちは全然いいぜ!ケンゴはどうだ?」


「僕も全然大丈夫です。」


 受付係の問いかけに快く答えるキースとケンゴ。


「ありがとうございます。ではクエスト自体の報酬をお渡しします。」


 そう言って受付係はカウンターに報酬を出した。


「ゴブリンの間引きが銀貨3枚、薬草採取が規定より多く他の種類もあるので銀貨2枚です。」


「あんがとさん!」


「ありがとうございます。」


 キースとケンゴはそれぞれ自分達の稼ぎを受け取る。


「さて、んじゃあ、査定中にクエストでも受けよかねぇ、」


「そういうと思って、ゴブリンの間引きのクエスト、持ってきたわよ!」


 キースの言葉と同時にリサはクエスト依頼書を持ってきた。


「さすが気が効くな!よっしゃ!ケンゴ、もしよかったら手伝ってくれないか?」


「え!?」


 唐突にクエストの手伝いを依頼されたケンゴは困惑する。


「なんだよ!嫌か?」


「ケンゴくんみたいな強いアタッカーがいると心強いわ!」


「その通りです。」


 3人の言葉を受けて嬉しく思いながら、ケンゴは答える。


「その、た、たくさん迷惑をかけてしまうと思いますが、学びたいことがたくさんあるので、よ、よろしくお願いします。」


 深々と頭を下げるケンゴ。


(((固い、、、、)))


「ワオゥン、、、、」


 未だ固いケンゴであった。




 --------


 ケンゴとキース達一向が森へ向かおうと中央門を出た直後の事。


「ま、待ってください!皆さん!」


 先程の受付が焦った様子でこちらを呼び止めてきた。


「なんだよ、そんなに慌てて、どうかしたのか?」


 相当全力で走ってきたのか、膝に手をついて荒い呼吸をしていた。


(この慌てよう、何があったんだろうか?)

 あまりの慌てっぷりにたじろぐケンゴ。


「えと、だ、大丈夫ですか?」


「大丈夫ですか?一体何があったのですか?」


「ハァ、ハァ、し、失礼しました。」


 気を使ったケンゴとウィルに対して受付係は謝りを入れ、理由を話し始めた。


「キースさん、今すぐギルドに戻ってきてください。」


「へ?いきなりなんで?」


 理由のわからない用件を言われ、困るキース。


「あんた、ひょっとしてとんでもないことやらかしたんじゃないでしょうね?」


(いや、リサさんそれはひどい。)


「バカ!そんなことするかよ!」


 ケンゴはリサに疑われるキースに同情した。


「い、いえ違うんです!とにかく来てください!」


 強い口調で捲し立てる受付係。


「いや、だから、一体何、」


「ギルドマスターがお呼びなんです!」


「は?」


 少しイライラしたキースの言葉を遮って、受付係は答えた。


「ギルドマスターが?一体何故?」


「や、やっぱりキース、あんた、、、、」


「いや、リサさん、やっぱりひどいですって、、、、」


「ウォフゥゥ、、、、」


 ケンゴ、ウィル、リサ、ハクはそれぞれ疑問や疑い、同情などを浮かべる。


「ぎ、ギルドマスターか、やっぱり、俺、なんか、」


「違反をしたかどうかは分かりかねますが、ただならぬことであることは間違いないんです!とにかくお願いします。」


 自分の行いを省みるキースに対して深々と頭を下げる受付係。


「いやでもなぁ、クエスト受けちまった、、、、」


 悩むキースに対し、リサはある提案をする。


「だったらケンゴくんとウィルで行って来れば、勿体無いし。」


「え?」


「はい?」


 急に名前を出された、ケンゴとウィルは疑問符を浮かべる。


「んー、まあもったいねえしな、ウィル、ケンゴ、お前らで行ってこいよ、報酬はやるわ、あ、でも飯くらいは奢ってくれよな。」


「受付係さん、メンバーのうちの誰かが行くのはダメ?」


 リサは受付係に代表のみ出席するのは可能かどうかを問いかける。


「え、えーっと、うーん、だ、大丈夫だと思われます、キースさんと話をしたいとおっしゃってましたので。」


((ほんとに大丈夫かなぁ、、、、))


 なんとも歯切れの悪い返答をする受付係に不安を感じるケンゴとウィル。


「この受付係の人もこう言ってることだし、ケンゴ、ウィル、行ってこい!」


「頑張ってきてね!」


 そう言った2人は受付係について行ってしまった。


「全く、あの人たちは、、、、」


「・・・・」


 2人の背中に呆れた視線を送るウィルと気まずくなるケンゴ。


「でも、まぁ、キース達の言う通りですね、行きましょうケンゴさん!」


「は、はい!よろしくお願いします!」


「ウォン!!!!」


 気持ちを切り替えたケンゴとウィルは森へ足を踏み入れるのであった。




 -----------



 ギルドの応接室。


 受付嬢セレスが豪華なソファに座る男に問う。


「本当に何か良からぬことが起こっているのでしょうか?ギルドマスター。」



 貴族のような服にモノクルをつけ、金髪をオールバックにした男が答える。


「あくまで私の直感だがね、いつも言うだろう、私の勘はよく当たってしまうんだよ。」


 紳士的ながらもどこか飄々とした態度で答えたギルドマスターにセレスは嘆息しながら話す。


「当たるにせよ当たらぬにせよ、警戒は必要ですね、当たらないといいのですが。」


「その通りだよ、万が一が起こり、大事な冒険者や街の人々に被害が及んだりした場合を考えるとね。」


 飄々としながらもギルドマスターはどこか真剣な面持ちをしている。


 彼らが懸念していること、その情報を持った者たちが応接室に着いた。


「ギルドマスター!大変お待たせしました!キース様とそのパーティーのメンバーをお一人ほどお連れしました!」


 若い受付係がキースとレナを連れてきたのだ。


「ジョンくん、ご苦労、おや?2人だけかい?」


 ギルドマスターの疑問に、受付係ジョンはドキリとする。


「い、いえ、その、ゴブリンの間引きならクエストを受けていたようで、人員を分けようとおっしゃりまして、私も、呼ばれたのはキース様だけだと思い、その、」


 あちゃーというような表情を浮かべたキースとリサはギルドマスターに弁解する。


「お初にお目にかかります、ギルドマスター、挨拶よりも先ずこいつを許してやってください。」


「そうです、この提案をしたのは私たちなんですから。」


 それに対しギルドマスターは軽やかに返す。


「いや、私もキースくんを呼んでくれとしか指示は出してない、これは彼の責任ではなく私の責任だ、安心してくれたまえ。」


 ギルドマスターの答えに安心する受付係ジョン。


「しかし、よりにもよってゴブリンの間引きか、昨日の今日で、、、、何も起こらなければいいのだが。」


 何かを思い詰めるギルドマスター。


「あ、あの、ギルドマスター、一体なんの話なんだい。」


 どこか親しみやすい貴族のような雰囲気のギルドマスターにキースは完全に普段の口調で問いかける。


「ああ、そうだね、単刀直入に聞く、君たちが昨日討伐したというゴブリンの変異種につい、、、、」


 ギルドマスターがキースの問いに答えようとした瞬間だった。


「ギルドマスター!大変です!」


 カウンターで仕事をしていたと思われる受付係がノックもなしに応接室に飛び込んできた。


「落ち着いてくれ、一体何があったのかな?」


 先ほどよりも表情が重くなったギルドマスターが飛び込んできた受付係に問う。


「す、すみません、でも本当に緊急事態なんです!なぜなら、じゅ、じ、じゅ、」


 呂律が回らなくなった受付係は深呼吸をしてこう言った。


「獣害が発生したんです!」


「!」


「嘘!」


「獣害だと!」


「どうしよう!ケンゴくんとウィルとハクちゃんが!」


 受付係の言った言葉にギルドマスターはさらに重い表情になった。


「最悪だね、なぜこんな時に勘が当たってしまうのだろうか。」


 異変はまだ終わっていなかった。












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