1-10 コミュ障の実力
「グギャアーーーー!!!!」
先に仕掛けてきたのは槍を持った上位ゴブリンだった。
腰に構えた長い槍を真っ直ぐに突き出すシンプルな突き。
「・・・・」
無言で左手でそらし、懐に入ろうとするケンゴ。
しかし上位ゴブリンはすばやく槍を引き、先ほどよりも早い突きを繰り出す。
(誘ったか、獣とは違うようだ、)
「はっ!!!!」
ケンゴはその突きを今度はそらすのではなく右手で地面に叩きつけた。
今度こそと思い一気に踏み込むケンゴ、しかし。
「ギィ!」
槍ゴブリンは槍を時計周りに回し、下から掬い上げるように柄でケンゴの顎を打とうとした。
「・・・・」
ケンゴは特に反応もせず、少し身を捻り、とてつもないスピードのスウェーバックで避ける。
「ハァッ!!!!」
そこからケンゴはとてつもなく伸びる水平蹴りを放った。
「ギ!!!!」
槍ゴブリンは槍で受けつつ自身も後ろに飛ぶことで衝撃を逃した。
「ゲゲ、ゲゲゲ、」
後ろで見ていた杖を持ったゴブリンが槍ゴブリンに何かを言った。
「ギギギ、、、、」
槍ゴブリンは悔しそうにしながらも後ろへ下り、次は杖を持ったゴブリンが前に出た。
「グゲゲ、」
不敵な笑みとともに杖を構える杖ゴブリン。
「ゲー!!!!」
そして大きな叫び声を出す。
すると杖から何かが高速で飛び出た。
(なんだ?あのモヤは?}
ケンゴは手のひらでそれを受け止める。
「風の塊か!」
それはハクが使うような風属性の魔法だった。
(もっともハクが使うものとは比べるまでもないな、しかしなぜモヤのようなものが見えたんだ?ハクと戦った時は見えなかったのに、)
「ギー!!!!」
余裕で自身の魔法を無力化したケンゴに杖ゴブリンはさらに強い風の塊を飛ばす。
「フン!!!!」
しかしケンゴは裏拳でそれを相殺した。
「フッ!!!!」
そして流れるように地面を蹴り込み一気に杖ゴブリンに肉薄する。
「ギ!?」
先程の攻撃がヒットすると考えていた杖ゴブリンは完全に意表をつかれていた。
「神室流奥義、"大砲"」
ケンゴが放った技を杖ゴブリンは咄嗟に杖で防御する。
「ギギャー!!!!」
なんとか防御に成功するも杖は粉々になり、杖ゴブリン自体も数メートルは吹っ飛ばされる。
「ギギギ、、、、」
態勢を立て直し、杖ゴブリンは腰蓑に挟んでいた予備の杖を出す。
「ゲヒ、」
しかし最後の一際体格のいい、鉤爪を獲物にしているゴブリンに何かを言われる。
「ギャー!ギャー!!!!」
しかし先程とは違い杖ゴブリンは引こうとしない。
「ゲヒヒ?ゲヒゲヒゲヒ?」
それに対し鉤爪ゴブリンは鉤爪を打ち合わせ、何かを杖ゴブリンに言った。
「グ、グギギ、、、、」
杖ゴブリンは槍ゴブリンよりも悔しそうにしながらも渋々後ろに下がった。
「ゲヒヒヒヒヒ、、、、」
意気揚々と出てくる鉤爪ゴブリン。
(おそらくこいつが"この中では"もっとも強いだろう。佇まい、動き、姿勢が他のとは質が違う。)
「ふぅーーーー」
深呼吸をし構えを正すケンゴ。
「ゲヒ、ゲヒィ、」
気色の悪い笑みを浮かべ、ボクシングのオーソドックスのような構えをとる鉤爪ゴブリン。
「ふっ!!!!」
「ゲヒ!!!!」
どちらが合図したわけでもなく、全く同じタイミングで仕掛けた1人と1匹。
「ハァッ!!!!」
「ゲギェァア!!!!」
先手を取ったはケンゴだった。
鉤爪ゴブリンの右の真っ直ぐな突きを左の縦拳でそらしながら、ストレートを頬に叩き込んだ。
「ゲギャアアアア!!!!」
「フッ!!!!」
しかし鉤爪ゴブリンもただ殴られた訳ではなかった、伸ばした右の鉤爪を外側に薙いだのだ、だがそれすらもケンゴは避けてしまう。
「ゲヒヒ、ヒヒヒ、、、、」
「・・・・」
嬉しそうに笑う鉤爪ゴブリンと無言のケンゴ。
両者は再び同時に動いた。
鉤爪ゴブリンの左の突き、ケンゴは体をそらしてよける。
右の逆袈裟斬り、ケンゴは左手で防ぎ、右ストレートを叩き込む。
鉤爪ゴブリンの体は大きく後ろにそった、しかし怒ったかそれとも調子が出たのか、間髪いれずに態勢を立て直した鉤爪ゴブリンは両手の鉤爪によるラッシュを仕掛けた。
「ゲヒャアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」
右へ左へ、上へ下へ、突き、薙、払い、唐竹
恐ろしい速さで繰り出される攻撃の数々をケンゴは全ていなし、交わしていく。
「・・・・」
「ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!」
興が乗ってきた鉤爪ゴブリン。
無言のケンゴ。
対照的な2人の戦闘が唐突に変わった。
"side キース リサ ウィル"
「す、すげぇ、」
「嘘みたい、」
「目が、離せません、」
圧倒的なケンゴの戦いに、3人は釘付けになっていた。
(田舎の育ちの俺だが、退役した兵士のおっちゃんに稽古をつけてもらって、それなりに剣の自信はあった、でもこれはなんだ?次元が違いすぎるじゃねえか、)
あまりにもかけ離れたケンゴと自分との戦闘技術の差にキースはなんとも言えない感情になっていた。
「わたし、どうやっても理解できない、なんなのあれは?どういう鍛錬をしたらああいう風になれるの?」
「なんでしょう、憧れますね。」
ウィルもリサもキースと同様だった。
「グルゥアアアア!!!!」
「ギャー!!!!」
ところ変わってハクも己の使命を真っ当せんと襲いかかるゴブリン達を風の砲弾で蹴散らしていた。
上位ゴブリン達とケンゴの戦いの方では鉤爪ゴブリンによるラッシュをケンゴが危なげなく捌いていく。
「なんだありゃあ、」
さらに異常な技術を魅せるケンゴ。
ラッシュを捌き、地面を蹴り後ろに下がるケンゴ。
(やっぱりきつかったのか?)
キースはケンゴが少し押されたのかと思い、安堵した。
流石にケンゴも人間の戦士なのだと思ったのだ。
だが、真実は時として想像を絶するものだった。
「ハァ〜〜〜〜、、、、」
ケンゴがとびきり大きいため息をついた。
「僕としたことが、何をやっているんだ、情けない、」
そして自分の頭を叩いている。
「ケ、ケンゴ?どうした?」
「・・・・」
ケンゴノ様子を疑問に思ったキースが尋ねるがケンゴは頭を抱えて答えない。
「ゲヒャヒャ、、、、」
その間にも鉤爪ゴブリンは構えを直し、ケンゴに飛びかかる準備をする。
「神室流奥義」
静かに発するケンゴ。
「ゲヒャアアアアアアアアアア!!!!」
鉤爪ゴブリンはとてつもないスピードで突っ込み、ケンゴに対し渾身の右の突きを繰り出す。
今までの技よりも格段に鋭い突きがケンゴの目と鼻の先にくる。
「「「「ケンゴ(さん)!!!!」
避けられないと思い同時に叫ぶ、キース、リサ、ウィル。
スローモーションのように感じる世界。
ケンゴは体を右にそらし、絶妙な角度で鉤爪をよける、そして懐に入り込み、鉤爪ゴブリンの胸の中心に右手の指先を当てる。
自分の状況に気づく鉤爪ゴブリン。
しかし対応する暇も叫ぶ暇も、ケンゴは与えなかった。
「"爆筒"」
瞬間、響き渡る何か硬いものを破壊したような衝撃音。
大きく吹っ飛ぶ鉤爪ゴブリンは数メートル地面を背中で受けて滑ったのち、停止した。
「ゲ、ゲフゥ、ゲヒュ、、、、」
口から大量の血を吐いた鉤爪ゴブリンはそのままピクリとも動かなくなった。
よく見るとその胸は大きく陥没していた。
「全く、」
狼狽る槍ゴブリンと杖ゴブリン、ウィル、キース、リサに対しケンゴは呆れた様子を見せる。
「なんでだ、こんな状況で、少しとはいえ、」
「戦いを楽しんでしまうなんて。」
「えっ?」
ケンゴはほんの少し楽しんでいたのだ、今までと違い、少し動きの良い敵に、技術と技術のやり合いに、ほんの少し、胸を躍らせていたのだ。
その事実に気づき、愕然とするキース。
「こんな状況なのに、全く僕ってやつは、まだまだ未熟だ、修行が足りない。」
言葉を紡ぎながらも構えを直すケンゴ。
「ここからはこんな失態は犯さない、そこの槍持ちと杖持ち、」
「グギ、、、、」
「ゲゲ、、、、」
反応する2体、ケンゴは告げる。
「同時に来い、纏めて潰してくれる。」
ここから先に起こるのは、いや、これまでの出来事は戦いではなかった、
蹂躙だった。
☆神室流奥義 爆筒☆
手を開いた分の距離からテイクバックなしで放たれる拳撃、非常に隙が少なく、狙った箇所にダイレクトにダメージを与えられるため、急所を破壊するのに最適。
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