第229話 愛の力でした

前書き


引き続き閑話になります。


―――――――――――――――――――――――――



~~ピオラ~~



「うん…今日も居る」


 朝起きて確かめるのはジュンの居場所。これが私が目を覚まして最初にする事。


 私には弟が一人、居る筈だった。


 だからなのか解らないけれど、私にはジュンが何処にいるのか、凡そにだけどわかる能力がある。距離が近いほど正確にわかるし、遠く離れていてもどの方角にいるのかわかる。


 更に言えば、私はジュンに関わった事柄にだけ身体能力が大幅に向上する。どんな理屈でそうなるのか詳しくはわかってないけれど…これはきっとギフトだと思う。


 まだ誰にもバレてない…ジュンにさえ話していない秘密の力。


 私はこれをジュンへの愛ラブ・パワーと呼んでる。…ちょっと恥ずかしいから余計に秘密。


 きっとこれは本来居る筈だった本当の弟の代わりにジュンを送ってくれた神様が、ジュンを護る為にくれたんだと思う。


「ジュンは眼を離すとすぐ何処かに行っちゃうから…本当はずっと傍で見守ってたいんだけど」


 ジュンが孤児院に来る一年くらい前…私のお母さんは事故死した。


 お腹の中の弟と一緒に、ある日突然居なくなった。


 だから私は、お母さんと知り合いだった院長先生に引き取られ、孤児院で暮らす事になった。


 そしてある日、ジュンが孤児院に来た。きっとジュンは生まれてくるはずだった私の弟の生まれ変わり、そうに違いないと思った…ううん、確信した。


 だって、そうでなきゃこんな力が私に宿る筈がない。神様がくれる筈がない。神様がくれたのでなければ、きっとお母さんが弟を護るためにくれた力なんだ。


 だから私はジュンを生涯かけて護ると決めた…のだけど。


 だけどジュンは姉の愛がわかってない気がする…こ~~~~~~~んなにもお姉ちゃんはジュンを愛しているというのに!


 す~ぐ他の女の子と仲良くするし惹き寄せるし何だかんだと優しくするし。


 一体何人の女の子を虜にするつもりなのか…お姉ちゃんだけで満足しなさいよ、全く。


 それにすぐ私を置いて何処か行こうとするし。


 冒険者になって孤児院を出る時だって照れ臭いのか一人で出るって言うし。


 そこはお姉ちゃんも連れて行くべきじゃないかしら。


 ユウとの計画が無かったら確実に着いていったわね。


 その時はクリスチーナ達も一緒だったろうけど。


 何にせよ、ジュンはもっとお姉ちゃんに甘えるべきで、もっとお姉ちゃんと一緒に居るべきだと思う。


 ジュンの周りに女の子は増える一方だし…帝国からは皇女様まで。よくわからないけれど元暗殺者達まで虜にしちゃってるし。


 にも関わらず私はいまだ孤児院暮らし…考えだしたら不安になって来ちゃった。


「というわけで!今日からジュンの屋敷で暮らそうと思います!」


「…どういうわけなのかしら」


「大丈夫です!住み込みから通いの職員に変わるだけですから!」


「いえ、そうじゃなく…」


 私の決意を院長先生に伝えてみたのだけれど、反応は芳しく無い。


 何か問題あるかしら。屋敷から孤児院までは距離があるけど通えない距離じゃないし、なんならクリスチーナに途中まで送ってもらえば良いし。


 屋敷で暮らす事だってジュンなら二つ返事で受け入れてくれる筈だし。


 やっぱり何も問題無いわね、うん。


「…はぁ。まぁいいわ。でも今日からって言われてもジュンだって困るんじゃないかしら。今日は伝えるだけにして引っ越すのは来週くらいに…何故不思議そうな顔をしているの?」


「え?だって…」


 なんでジュンが困るの?泣いて喜ぶに決まってるのに。


 …院長先生、もしかしてもう?


「何か失礼な事を考えているでしょう」


「ブルブルブル」


 院長先生…鋭い。まだボケてはなさそう。


「はぁ…まぁいいわ。でも私が遠出する時やジェーンが帰省する時なんかに泊まってもらう事はあるわよ。それは承知しておいてね」


「はーい。じゃあ朝御飯が終わったらジュンと話して来ますね」


「ええ。ああ、ジュンに一度孤児院に顔を出すように伝えてくれるかしら」


「はーい」


 じゃ、御飯の後は勝負下着に―――


「勝負下着に着替えるのは意味無いよ、ピオラ先生」


「ユウ…私の心を読まないで」


 ユウ…ジェーン先生の子供とは思えないくらいに賢くて聡明な娘。


 ジュンと同じように特許を取ったりして、既に大金を持ってる。


 今見たいに人の心を見透かしてるような言動があったりで…偶に怖い。


「私はピオラ先生のお兄ちゃんに対する謎能力の方が怖いけど…お兄ちゃんなら普通にお願いすれば受け入れてくれるから。普通にお願いした方がいいよ」


「でもジュンだってお姉ちゃんの下着を見たいって思って――」


「ないと思う。それより御飯作るの手伝って」


「…うん。院長先生との話、聞いてたの?」


「うん、聞こえてた。別に反対しないから安心して。私も成人したらお兄ちゃんとこに行くし」


 ユウもジュンが大好きだもんね。わかるわぁ。


「姉を自認してるのに恋心がわかるのはアレな気がするけれど。お皿とって」


「うん」


 さ、御飯食べたらジュンに会いに行って帰ったら荷物纏めて…先に荷物纏めた方がいいかな?


 忙しい一日になりそうね…ウフフフフフフ

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