第228話 ある夏の日の事でした
前書き
閑話になります。
時期的には夏、ガウルの御茶会に呼ばれる少し前くらいです。
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皆は暑い夏をどう過ごしているだろうか。
日本であればエアコンを効かせ、冷たい物を食べたり飲んだりして夏の暑さを耐え凌ぐのだろう。
俺はエアコンが嫌いだったので家の中ではパンイチで過ごしてたが。
俺の事は置いておくとして…問題はこの世界の夏の過ごし方である。
アインハルト王国は大陸の南にあり、四季もある。周辺国に比べ夏は暑く冬は温暖な方。
そう…アインハルト王国の夏は暑いのだ。
猛暑の日本と遜色無い暑さ…だがエアコンは無い。
扇風機も無い。
川や海で遊ぶ事が出来る場所は魔獣の存在が邪魔で限られている。
プールは…作ろうと思えば作れそうだが、少なくとも王都には無い。
あっても噴水程度だ。
だから水魔法や生活魔法で水を出せる人は非常に重宝される。
氷が出せるならヒーローの如き扱いだ。
孤児院時代は俺も毎日のように水と氷を強請られたもんだ。
余りに要求されるので嫌いだったエアコンを結界魔法と氷魔法と風魔法を複合して再現した魔法を作ったくらいだ。
それからは夏はエアコン魔法を使って皆の要求を躱して来たわけだが…俺がいないと魔法はいずれ消えるわけで。
そうなった結果。今、俺の前に広がる光景なわけで。
「暑いっス〜…」「あちぃ~…」「あついぃ…」
屋敷内では女性はほぼ全裸で過ごしていた…あんたら羞恥心を何処にやった。
探して来い。欠片だけでも持って帰って来い。
「ジュン君は平気そうっスね〜…」
「フッ…鍛えてますから」
本当は転生してからというもの暑さにも寒さにも強くなってるんだよな…特別製ボディの御蔭で。
「そんな事よりよ〜…早くエアコン魔法使ってくれよ〜…」
「暑さで死んじゃうぅ~…」
「溶ける…」
カウラとファウはいいとして…アムは猫獣人なのに暑さに弱いのか。
「寒いのは苦手だけど暑いのも苦手なんだよ〜…」
…そう言えばアムって猫舌でもないな。アムに猫らしさを求めてはいけないのか。
「いいから早くエアコン魔法〜」
「はいはい。…使ったから徐々に涼しくなるよ。冷える前に服着な」
「まだ無理ぃ…まだ暑いぃ…」
「若い娘が人前で裸でいるなんてダメだって。昔から言ってるだろ」
「家の中でぐらい勘弁しろよぉ…」
「外の連中よりマシ」
ああ…土木作業員や建設作業員の肉体労働の皆さんね。
前にも言ったと思うが肉体労働の皆さんは外で裸になるからなぁ。
胸をブルンブルンさせながら働く姿は素晴らし…いや、日本じゃまず見られない異常な光景だ。
この世界じゃ色んなとこで見られる光景だが。
「やっと涼しくなって来た…なぁ、ジュン…この魔法を魔法道具に出来ねぇの?」
「とっくの昔にクリスチーナが魔法道具化出来ないか検討したよ。結果はダメだったけど」
複合魔法を魔法道具にするのは非常に困難らしく。作れたとしても莫大なコストがかかってしまうとかなんとか。
俺が作る事も考えたが…確実にエアコンだけを作る生活が待ってそうなのでエアコンを魔法道具で再現する計画は幻のままだ。
「お邪魔しますわぁ…ああ、やはり此処は天国のようですわ」
ドジっ子令嬢イーナが来た。エアコン魔法の存在を知ってからというもの、しょっちゅう…いや、前から毎日のように来てたわ。
「涼しくなったと思ったら。やっぱりジュンが帰ってたか」
「カタリナ…貴女、なんて格好を…」
カタリナは最初こそ貴族令嬢らしくキチッとした姿で過ごしいたが…すっかりアム達に毒されてしまった。
下着は着けているが…貴族令嬢としてあるまじき姿なのは変わらない。
「仕方ないだろう…こう暑いとな。それに見ろ、カモンド男爵なんてほぼ裸じゃないか」
「あたしはいいんスよ。ジュン君以外の男には見せてないっスし」
「なんにもよくありませんわ…」
全くです。毎日理性をフルで働かせてる俺の身にもなってください。
理性にとって此処はブラック過ぎる職場だぞ。
「私も最初こそ抵抗があったがな…慣れてしまえばどうという事もないな。私もジュン以外の男には見せないし。お前も裸になったらどうだ」
「なりません!男性の前でこんな…はしたない!」
…アレだ。イーナが圧倒的に正しい筈なのに周りに味方は居ないという。
頑張れイーナ。貴重な常識を語る人間を俺は応援するぞ。
「ですが…毎日これではいけませんわね。ジュン様がいなければもっと酷いのでしょう?」
「まぁ…控え目に言って最高…いや最低な状況と言っていいだろうな」
「今、最高とおっしゃいまして?」
おっしゃってません。
しかし、確かにな…いつまでもこんなんじゃな…俺の理性が決壊する。
どうしたもんか…秘密厳守でエアコン魔法道具を作るか?
『バレるって、間違いなく。どんだけの人間が暮らしてるって思ってるん』
じゃあ何かアイディアは無いか、相棒。
『そうやなぁ…プールは直ぐに用意出来んけど水風呂は用意出来るやろ。水風呂にしたら?』
水風呂か、いいね。
つか、屋敷の風呂は広いからほぼプールと変わらないじゃん。
あ、でも…水着が無いな。
『いらんやろ、そんなん。どうせ全裸で泳ぎよるって』
いや、それじゃ俺が入れないじゃん。
『何を今更…混浴しとるくせに』
それもそうだった…じゃあ、取り敢えず水風呂を用意す……なぁ、これも俺が居ない用意出来なくね?
『あ〜…毎日は難しいやろな。でも、取り敢えずは喜ばれるんちゃうか』
ふむ…喜ばせたかったわけじゃないが…まぁいい。
「水風呂を用意するけど、入るか?」
「マジ!?入る!」
「絶対に入るぅ!」
「ジュンと入る」
いや俺は止めとく……そんな絶望の顔してもダメ。
「人間ってひ弱ね。この程度の暑さで弱るなんて」
「そりゃドラゴンは平気っスよね…」
「まぁリヴァも水風呂に付き合えよ。折角だしよ」
アダマンタイトドラゴンのリヴァは平気らしい。汗一つかいて…いや、こいつ、自分で魔法使って冷やしてるだけだ。
そう言えばリトルフェンリルのハティは…
「……」
…弱りきっとる。ハティの方が夏の暑さは対策が必要かもしらんなぁ。
なんとかせねば……いっそ屋敷の周りを氷で覆ってしまうのはどうだろう。
『あぁ~そりゃ涼しくなるやろな。マスターが本気出せば数日は溶けん氷が出せるし』
なら何日か居なくても平気そうだな。
良し!それでは早速!
「アイスピラー!」
屋敷の周辺、東西南北に屋敷より背の高い三角錐の氷の柱を出してみた。
「な、なんか…寒くないですか、ジュン様…」
「ああ。屋敷周りを氷の柱で囲ったんだ」
「な、なるほど…ワタシは寒さには強い方ですが、急にこれは…それに皆さんは今、水風呂に入ってるのでは?」
「あ」
その日…水風呂に入っていた全員が夏風邪になった。
治るまで看病をせがまれたのは言うまでもないと思う…大体皆、一日で治っていたが。
今回の教訓…魔法はよく考えて使おう。
異世界では涼むのも簡単ではない。
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