第140話、ノルドチッタを通ったら
王都カルムに戻る道すがら、城塞都市ノルドチッタへ立ち寄った。
ダンジョンスタンピードによって破壊された街並みの傷跡も生々しい。外壁の修理作業なども進めているようだが、まだまだ時間がかかりそうだ。
俺たちが来たら、住民たちは歓迎してくれた。モンソ子爵の使者がきて、ぜひ屋敷にと言うので挨拶がてら訪問した。
「やあ、ヴィゴ殿。意外と早いお戻りで。聖剣の試練はどうだったかな?」
マルテディ侯爵に相談した時、モンソ子爵もいたもんな。これこれしかじか、と試練を乗り越え、神聖剣を手に入れたことを報告すれば――
「や、それは凄い! 聖剣の使い手が増えるのは好ましいこと。ヴィゴ殿は王国の守護者だな!」
聖剣ってだけで持ち上げ過ぎじゃないかと思う。魔剣だって凄いんだぞ。
「それで、モンソ子爵閣下。ドローレダンジョンの話は何か聞いていますか?」
「そう言えば、まだ何も知らせがきていないな……」
モンソ子爵が首を傾げる。
「私としても、ダンジョンが鎮圧されたか気にはなっているのだが……」
もしや、ダンジョン調査隊に何かあったのか? 俺たちがノルドチッタを出て今日で五日目。ここからドローレダンジョンはおよそ一日。俺も行ったことがあるけど、あのダンジョンの攻略は入念にやっても二日、普通に探索するなら一日あれば充分だ。往復も考えると、早ければ一報が来ているはずだし、遅くてもそろそろ届く頃ではなかそうか。
「すれ違いになるかもしれないですけど、一度様子を見てこようと思います」
「うん、そうしてもらえると助かる」
モンソ子爵は首肯した。
「便りがないのは良い便り、と聞くが、何もないと不安になるな」
場所が場所だけに、何かあって全滅とかしていたら目も当てられない。それで報告が来なかったなんてことだったら、ノルドチッタは第二のスタンピードを受けてしまうかもしれないからな。
王都に戻る前に、一度、ドローレダンジョンに立ち寄ろう。
・ ・ ・
空を飛べる闇鳥の存在は実にありがたい。
俺たちはあっという間にドローレダンジョンにほど近いメディオ村に到着した。
以前、訪れた時は普通に村があったが、いまはその建物はことごとく崩れ、廃墟と化している。
「……」
世話になった宿屋とか、村人たちの姿を思い出すととても悲しい気持ちになる。おそらく、ダンジョンスタンピードによって住民たちも……。
村を越えて、ドローレダンジョンのある洞窟へと向かう。入り口前には、テントが複数建てられた野営地があった。
ロンキドさん率いる冒険者たちのものだろう。外にいる人間は警備の人間だろうが、人影は少ない。
みなダンジョンに出払っているのだろうな。俺たちを乗せたダークバードが下りると、見慣れたおっさん冒険者のクレイが急ぎ足でやってきた。
「ヴィゴォ!」
「クレイ」
俺が闇鳥から降りると、中堅冒険者であるはずのクレイが落ち着きなく言った。
「いいところに来てくれた。こっちはこれからどうすべきか判断に困っていた!」
「何かあったのか?」
ロンキドさんはどこだ――?
「何かあったか? ああ、あったんだろうよ。調査隊が帰ってこない。伝令すら戻ってこないから、昨日ギルマスが第二次調査隊として出発したが……こちらもまだ連絡がこない」
ギルマス――ロンキドさんも中に入ったのか。そして戻ってこないと。ダンジョンスタンピードが起きた直後のダンジョンだから、それほどモンスターは多くないはずだが。
「いったいどうなってるんだ……?」
「それはオレも聞きたいね」
「で、あんたは……今はここの指揮官か?」
「ああ、オレよりベテランが他にいないからな」
クレイは複雑な表情を浮かべた。
「このままギルマスも帰ってこなければ、オレらはここを引き払い、王都に報告せにゃならん。だが、ダンジョンがどうなっているか、ここにいては何の情報もないからな」
二つの調査隊がダンジョンに入り、帰ってこなかった、という報告だけが王都に届けられる。Sランク冒険者でもあるロンキドさんまで未帰還という有様は、最悪の事態を想像しなければいけなくなるだろう。
そして折り悪く、王都には増援を寄越すだけの兵力は存在しない。
「俺たちで調査するしかないな」
「オレたち?」
「俺のクランで、先に潜った調査隊を探す」
差し詰め第三次調査隊ってところか。俺はクレイを見る。
「あんたはここで待機して、やはり俺たちも戻らなかったら、その時は王都に通報を」
「なあ、ヴィゴよぉ。リベルタだけで行けるのか?」
クレイは不安そうに言った。
「一度戻って、王都から増援を……」
「その王都に余剰兵力があるとは思えない」
ラーメ領騒動にダンジョンスタンピード。王都周りの戦力は、これ以上割けないほど少なくなっているだろう。
「それにダンジョンの不明は時間が経つほど生還率が下がる。王都からの増援があったとして、ここに戻ってくる頃には先の調査隊の安否は絶望的だろう」
もちろん、それまでに自力で戻ってくる可能性もあるが……。
俺は妖精の籠の中にいる仲間たちも呼んで、状況を伝える。ロンキドさんの娘であるニニヤは青い顔をして聞いていた。……そりゃ家族だもん。心配だよな。
アウラが挙手した。
「中の様子はわからないのよね?」
「入った調査隊が戻ってこない。伝令もなし」
俺は仲間たちを見回した。
「以前来た時と変わっていなければ、アリの巣のような小部屋が網の目のように張り巡らされている。気を抜くと、自分がどこにいるのかわからなくなる」
各小部屋にモンスターがいることが多く、部屋の多さもまた面倒だが、このダンジョンの厄介なところは――
「部屋が多く通路分岐も多いから、敵が迂回してくる可能性がある。つまり、俺たちが通った道から敵が周り込んで襲ってくることもあり得るし、場合によっては四方から包囲されることもあるってことだ」
後衛だからと油断していると、後ろから刺される。それがこのドローレダンジョンの怖いところだ。
「いつものこのダンジョンなら、そう頻繁に後ろから現れることはないが、先行した調査隊が帰ってこないことも考えると、中で待ち伏せや包囲が割と多いかもしれない」
「油断は禁物ということだな」
シィラは頷いた。ニニヤは無言だが沈痛な色が見える。
「このダンジョンに慣れているベテランですら不明な状況だ。用心に用心を重ねよう」
「……守護者様」
ファウナが、静かに手を挙げた。
「……ひとつ、提案があるのですが」
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