第21話、魔法を持てた


「ほうら、両手を頭の上に広げて! 避けたら頭に直撃で死ぬわよー!」

「ヴァレさん!」

「サンダーボルトっ!」


 雷が落ちた。両手を広げて頭の上に屋根代わり。かなり手加減してくれたと思うのだが、マジこえぇぇ!


「すっご!? 見てみて、雷が手に乗ってるわ」

「うわあ、雷ってこんなトゲトゲしいの? 初めて見たわ」

「ねー。こんなの滅多に見れないわよ!」


 ヴァレさんとモニヤさんが声を弾ませている。ルカが屈んで、俺の顔を覗き込んだ。


「ヴィゴさん、大丈夫ですかー?」

「死ぬかと思った……」


 生きた心地がしない。


 電撃の魔法をやる前に、火の魔法とかで試して大丈夫だったからなんだろうけど、好き好んで魔法の的に志願するものじゃない。


 ヴァレさんの魔法のコントロールが神業だから、ちゃんと俺の手のひらに乗るように当ててくれているんだけどさ……怖いものは怖いよッ!


 さて、俺の手には雷が静止した状態で乗っている。持っている手は無傷で、痺れることも熱も感じない。本当ならこの周りにも電撃が弾けているんだろうけど、手の上にある限り、顔とか体に当たる様子はない。よく見ようと顔を近づけない限りは大丈夫そうだ。


 あまり干渉すると、水塊が崩れたように維持できなくなると思うから、露骨に近づかない。でも耳元でパチパチ音はしていて、あまり気分のいいものではない。


「やっぱ、これ、投げたら、雷を投げることになるんですかね?」

「さっきのファイアボールが、まさにそれだったからね」


 ヴァレさんは腰に手を当てる。


「投げられるなら、魔法をぶつけてやることもできるでしょうけど、使い道は限られるわね」

「そもそも自分で魔法が使えれば済むわけですからね」


 モニヤさんは目を伏せた。


「相手が攻撃してきた魔法をキャッチして投げ返す……くらいかしらね」

「実戦だと難しいわよね、それ」


 ヴァレさんは小首を傾げる。


「だって盾とかで防いだほうが楽だもの。キャッチし損ねたら魔法を食らうわけだし。飛んでくる魔法を掴もうなんて、正気の沙汰じゃないわ」


 俺は両手で雷を覆うように持つ。そして空に向かってバッと放すと、雷が飛んでいった。


「とはいえ、魔法でさえ持てるなんて、面白いスキルよね」


 ヴァレさんは言う。雷の前は、火の玉を持っていたが、燃えるものがないのに、手のひらの上で火が揺らいでいた。


「こうまで来ると、もうひとつ試したいわね」

「いったい何よモニヤ」

「光の魔法」


 モニヤさんが微笑した。


「火だってその場にあって、雷もそうだった。なら、光も持てると思わない?」

「雷が持てたのだから、光も持てるかもしれないわね。やってごらんよ、モニヤ」

「では――」


 元プリーステスのモニヤさん。得意魔法は光属性の魔法。


 俺は無言で、雷の時同様、両手を上に向けた。そして頭上から白き光が落下してきた。



  ・  ・  ・



 結果を言えば、光の魔法も俺の手に持つことができた。


 ヴァレさん曰く、『照明の魔法みたいね』。ふつう光は物に当たって反射してしまうものだが、俺の手の上で止まっていた。これも一応、持ったことになるようだ。


 しかし、どういう理屈でそうなるのかさっぱりわからない。神様から授かったスキルの力は、人間ごときの頭脳では理解できないのかもしれない。……神業!


 持てるスキルは、普通は持てないものすら持てる。


「見えないものだって持てるかもね?」

「見えないんじゃ、持ってるかどうかわからないんじゃないですか?」

「でも光だって持てるんだから、可能性はあるでしょ? もしかしたら、実体のない幽霊だって持てるかも!」

「まさか……」


 いやいや、さすがに触れないものは持てないんじゃないか? それとも何でも持ててしまうのだろうか? 神のスキルだ。滅茶苦茶なものにでも有効だったりするかもしれない。


「でもまあ、今のところは重いものを振り回すのが無難なところね。ヴィゴ君さあ、魔法は使えないの?」

「どうですかね……。昔、ギルドで魔力量測ってもらった時は全然だったので」


 魔力がなければ魔法は使えない。人によって魔力の保有できる量は違うから、ないと言われたら魔法を覚えようとは普通はしない。無駄に終わるから。でも本音で言えば、魔法を使いたいんだよね……。使えないかなあ。


『お主』

「うおっ!?」


 突然、ダイ様が声を出したのでビックリした。俺の反応に周りも驚いた。


『魔力量が増えたぞ』

「は?」


 突然の言葉に、俺は魔剣を手に持つ。


「どういうことだ? 魔力が増えた?」

『うむ。なんか、知らんがカスだった魔力量がちょっと増えたぞ。お主、何かしたのか?』

「いや、特に何もしていないが……」


 俺はヴァレさんに視線を向ける。ダイ様が魔力が増えたと言っているんですが……。


 ヴァレさんとモニヤさんが顔を見合わせた。


「魔力量が増えたなら、威力はともかく魔法、使えるんじゃないかしら?」

「モニヤの言うとおりね。じゃあ簡単に魔法をイメージしてみましょうか。さっき、手のひらに火を持ったでしょう? そのイメージを――」


 ヴァレさんの言われた通り、先ほど手に炎を持ったイメージを思い描いてみる。自分の中にある魔力を手のひらの乗せるイメージを重ねて。


 ボッ! 


「火がついた!?」

「すっごい、ねえモニヤ、見た見た!?」

「ええ、驚いたわ」

「凄い。ヴィゴさん、魔法を使えたんですね!」


 ルカがパンと手を叩いて、顔をほころばせた。


「いや、俺のイメージを言っていいか? 魔法を使ったっていうか、魔法を『持った』というイメージでやったらこうなったんだが」


 これを魔法が使えたと言っていいのか? 半信半疑の俺に、ヴァレさんもお宝を見つけたような目を向けた。


「あなた、本当に面白いわ。ちょっと言っただけでやってみせるなんて。魔法の素質を持っていたのかもしれないわね」


 え……? 一瞬、俺は彼女の言葉に引っかかりを覚えた。魔法の素質を『持って』いたかも、って。


 ふっと増えた魔力量。持てるスキル。手に持つだけが持てるではないのか……?

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